召喚術士の懺悔
ああ、初代様、御許しください。私は初代様に顔向け出来ないことをしてしまいました。
初代様の理念に反してこの平和な時代に勇者召喚を行ったのです。
召喚術士には代々伝えられている口伝があります。それは決して人類存亡の危機以外では勇者召喚を行ってはいけないと言うものでした。勇者は確かに我らより数段上の実力者となるがその心は酷く脆いものであり決して英雄などにはなれないのだからと。
私には意味がわかりませんでした。異世界より現れ我らより強く賢いとされる勇者がなぜ英雄になれないのかと。だからこそ王家に請われるままに禁を犯してしまったのです。人として、何より子をもつ親として最低の行為を。
召喚された勇者はまだ幼さの残る、青年になろうとしている子供でした。言い伝えにあるとおり、彼は幼いながらも賢く、我々の説明にたいし冷静に対応した上で自分の要求を伝えてきました。私はまさに英雄となるべき片鱗をみせる勇者を召喚できたことに有頂天になっていたのです。
異変は最初からありました。この世界では当たり前で、誰も気にしない魔獣を殺すという行為で彼は吐いたのです。その後も殺す毎に塞ぎ込み予定の行程に支障が来すことが懸念されるほどでした。ええ、このときになって漸く私は自分の犯した罪に気付いたのです。
彼は争いのない、生き物を殺す必要のない世界からやってきていたのです。
特に初めて魔族を殺したときは酷いものでした。人を殺してしまったと錯乱したかのように泣き叫ぶ彼を魔法で眠らせ、あれは人ではないと何度も言い聞かせました。彼は頷きましたがその表情は人として認識し続けていることが分かるものでした。
彼を自分の子供に置き換えて考え、私は絶望しました。
彼の感覚でいけば私たちは子供に人殺しをさせ続けていることになり、私はそのために彼を平和な世界から誘拐してきているのですから。
いえ、そもそも彼を戦わせる必要も、呼ぶ必要すらもなかったのです。今代魔王と呼ばれる魔王は我々でも十分勝ち目のある相手だったのですから。
彼は目に見えて疲弊していきました。早く帰りたい。そればかりを口にし、それだけが希望だというように振る舞うようになりました。
私は彼を呼び出してしまったものとして責任をとらなければなりません。たとえ王家の目的が彼をこの世界にとどまらせ、知っているはずのあちらの世界の知識を手に入れることだったとしても…。