○契約魔法と召喚魔法:7
うにゃにゃにゃにゃ――――んっ!
今まで大人しくしていたオーフェスが大きく口を開いて声を上げる。
黒猫の時には大口も小さな牙が見えるだけで、なんとも可愛い。
「申し訳ありません。オーフェスが『眩しいので早くして欲しい』と……」
ところが、オーフェスの向こうにいるジェイクが苦笑いでそう通訳した。
おお、すみません。では――
「じ、じゃあ、いきますよ!」
「おう、とっとといけ」
ディオンの合いの手を確認して、深呼吸。そして再度、意識を研ぎ澄ます。
「われ、なんじと、契約を結ぶもの、なり……」
慣れない呪文詠唱はたどたどしい。それでも魔法陣はブワンと光を増して白く瞬いた。
おおぅ~、なんか反応してるよ~。
で、その続きはどうするんだっけ? と思い、ディオンの顔を覗き込む。彼の顔も魔法陣が強く発する金色の光に照らされている。
「好きな名前付けてみろ」
「好きな名前って言われても……あの子は、オーフェスですし……」
「じゃ、同じでいい。『名は、オーフェス』だ」
こくりと頷いて、もう一度黒猫を見据える。
「――名は、オーフェス」
魔法陣はヴァンと地の底へと響くような音を唸らせ、パァアッと殊更強く白く発光し、光に巻かれたオーフェスが一瞬見えなくなる。
が、突然スッと光が引き、魔法陣まで消えてしまった。
「あぁ……消えちゃった……」
「それでいい。ジェイクと契約済みのオーフェスとは契約できねーんだから」
言いつつディオンがまだ同じ姿勢で座っているオーフェスの所へ行き、お礼代わりにか頭を撫でる。オーフェスは嬉しそうに顎を上げて、うにゃんと鳴いた。
「じゃあ、召喚魔法は今での成功なんですね!?」
「そ、僕のお蔭だね」
オーフェスを抱き上げたディオンから、それを受け取ろうと両手を広げたルディがまた小憎たらしいコメントを述べる。
とはいえ確かにルディの機転のお蔭だろうと思うので、微妙な笑顔で「ですね」と応じた。
「次は召喚魔法だな」
ライアンがツカツカと傍までやって来て、さっきまでルディがいた位置に立ち私と肩を並べる。反対にルディはオーフェスを抱いたまま、私の出来に満足そうに微笑んでいるジェイクの隣へ移動した。
「けど、さっき召喚するモンスターがいないと練習できないって?」
「出来ないな。だから今は、やり方を見て覚えろ」
「見て覚える?」
「今度はライアンが、精霊を見せてくれるらしいぞ」
ちょっと嬉しそうな顔をしたディオンが×印から数歩下がって、またそこへ空間を作る。
私が契約魔法陣を呼び出したのと同じ場所へ、ライアンが召喚魔法陣を呼び出すつもりらしい。
「やるから、見てろ」
ライアンの淡泊なセリフに私が頷くや否や、彼は右掌をスッと地面に向けて翳した。一拍の間もなく輝く大輪の青い花が咲く。
魔法陣出るの早っ! しかも私のより綺麗に光ってる気がするよ。
「――アルファ」
次に彼がひと言呟くと、青く明滅する魔法陣の中央にふわりと白い影が浮き上がった。けれど、思いがけずとても小さい。
みるみる鮮明になる白い影はやがてくっきりと形を整え、二枚の羽を広げてふわりと飛び立った。
「……え?」
口をついて言葉が零れたのは、銀の鱗粉をまき散らしながら優雅に宙を舞うその正体が、あまりにも意外だったからだ。
「……虫」
「蝶と言え、バカ」
私へツッコみを入れたライアンが掌を上向きに広げると、真っ白なアゲハ蝶は確実な意志を持って彼の元に足を着け、パタパタと数度羽を開閉してから動きを止めた。
「へー、ライアンが虫と契約してるとは思わなかったです。虫って、ありなんですね?」
「だから、『蝶』って言え」
「蝶も虫じゃないですかー」
「違う、これは正確には精霊だ」
ああいえばこう言う人だ。
さっきルディが『私には虫でいい』なんて言ったから、余計に拍子抜けしてしまったのもあるけど。
ライアンの掌に乗る真っ白な蝶は、呼吸するように少しだけ羽を広げたり閉じたりを始めた。確かに見た目こそ蝶そのものとはいえ、ほんのりと全身が光っていて羽が瞬く度にふわふわと銀の粉が散っている。
「でも、こんなに小さいのに、戦力になるんですか?」
「能力をサイズや見た目で決めつけるな。それを言うなら、お前は魔王候補の中で一番小さいんだぞ」
う……言い返せない。
「アルファは凄いぞ、凛音」
ライアンへ向き直っていた私の肩元から、ディオンがついと顔を出す。
『アルファ』というのが、この精霊の名前らしい。
要するにライアンはあっさり召喚魔法陣を出して、契約相手の名前を呼んだだけだ。
見てろって言ったけど……見るとこ少なかったよ。
「凄いってどういう――」
「よし行け、アルファ」
私が質問をする前に、ライアンがフッと手を揺らして蝶を宙に放した。




