○契約魔法と召喚魔法:6
「ちゃんとした契約相手って……?」
「ジェイクに借りれば? あの猫」
ルディは後ろのジェイクの方へチラリと視線を流す。オーフェスがジェイクの足元にちょこんとおすわりしていた。
「え……オーフェスを?」
「そ、ちょうどいいじゃない。凛音、猫の使い魔が欲しいんでしょ?」
「でもオーフェスって、ジェイクと契約済みで……」
「そう、契約は成立しない。魔法陣は効能を発揮しないけど、呼び出すだけなら問題ないんだし。練習だからそれで充分でしょ」
そういうことか、と私が納得するより先にディオンが「ああ、なるほどな」と答える。
「じゃあ、やってみますか?」
話の流れを察したジェイクは早速オーフェスを抱きかかえてやって来て、ディオンがつけた×印の上にオーフェスを座らせた。
ライアンもジェイクより一歩下がった位置まで寄って来ている。
「はい、やってみなよ?」
間合いを計ったルディがそう言いつつ私の右隣に肩を並べ、ジェイクとライアンは共に数歩下がって魔法陣が浮かぶであろう場所を確保する。
私がルディとは反対隣りにいるディオンへ確認の意味でちらっと目を向けると、彼は無言で頷いた。
「では、いきますっ!」
うにゃ~~~~ぁあん!
それは返事なのかどうなのか。オーフェスがタイミング良くのんびりした声を上げたので、がくりと気が抜ける。
でも、ルディの言うように×印よりは、遥かに気合が入った。
――ヴォン!
すると見事一発で、オーフェスを中心として金色に光る丸い花が咲いた。
「おぉ~~~~~~」
周りの人達はやや低いテンションながらも歓声をあげている。
……いや、我ながら、実に単純だ。
魔法陣はいつも見るように柔らかく明滅しながらゆるりと回り始め、地表から溢れる神秘的な金色の光にオーフェスが照らされて包まれる。
特に動じる様子もないオーフェスは、その場で穏やかな微笑みを湛えて(あくまで主観です)じっと私を見つめている。
「ヨシ。で、契約呪文の詠唱」
「えっ!? 契約呪文!?」
すかさずディオンにそう言われて驚く。なにも聞いてないよ~~~~~!
「簡単簡単。なんでもいい。最後に名前を付けてやるだけ」
「え! な、なんでもいいって……」
「なら、僕が呪文を教えてあげるよ」
ディオンのアバウトさに困惑していると、ルディがひょいと横から口を挟んで来た。
「『私は単純バカなので契約してね。お願い』とか、いいと思うけど?」
でも結局そんなことを言い、ルディはにっこりと天使の笑顔を見せる。
なんか……すっごい、ムカつくんですけど……。
「本当に呪文はなんでもいいんですよ、凛音様。最後に名前を与えてやるだけです」
ルディの暴言に言葉を失くしていた私を見かねたのか、向かい側に立つジェイクが助言してくれた。
しかし、本当になんでもいいとは……なんて大雑把な。
「定型呪文なら、一応ある」
けれどジェイクの隣にいたライアンがサラリとそう続けた。
「定型呪文? それ、どんなのですか!?」
「『我、汝と契約を結ぶ者なり』」
おー、そんなに『それっぽいもの』が!
「でも面倒だから、使わないけど」
「面倒って……全然、短いじゃないですか……」
「だってな。俺らくらいだと、ざっくりはしょって、名前付けるだけでもいいんだぞ」
またディオンが当然とでもいった顔で大雑把なことを言う。
仮にそうだとしても、使い慣れていない私には呪文は必要そうだ。




