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ZERO  作者: 楓シロ
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第1話 プロローグ

 大きな爆発音がしたのは、酷く澱んだ夕方のことだった。


「逃げろ!」


 誰かの悲鳴は、激しい雨音に叩き潰されてすぐに消えた。


 主要幹線道路の交差点。すべての信号機が死に絶え、根元からへし折れた街灯がアスファルトに転がっている。

 路面にはモウモウと黒煙を上げる焦げ跡が走り、まるで巨大な獣に爪で引き裂かれたかのようだった。


「能力者の暴走(オーバーフロー)だ」


 砺波 蒼紫(となみ あおし)は、水溜りを跳ね上げながら忌々しげに舌打ちした。


「なんでこんな日に……寒いし、服は濡れるし、最悪だ」


「文句は後で言え」


「また、初出現か?」


「おそらくな」


「最近多いな」


 伊那瀬 颯斗(いなせ はやと)は呟いた。

 その右手は、既に腰の刀の柄にかけられている。


 周囲では、人々が蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っていた。

 狂ったような足音。パニック。

 その喧騒を切り裂くように、街のスピーカーから『マザー』の警告音が鳴り響く。


『市内で異常エネルギー反応を確認。市民の皆様は、速やかに指定のシェルターへ避難してください』


 どこまでも穏やかで、不思議と人を落ち着かせるような声だった。

 いつだってそうだ。この街でどれほど凄惨な地獄が起きようとも、マザーの声だけは決して揺るがない。


 人混みを掻き分け、交差点の中心へと踏み込んだ、その時だった。


「颯斗! 蒼紫! あそこ!」


 時量 彩乃(ときはかり あやの)の鋭い声に、颯斗が振り返る。


 道路の端。

 瓦礫の影に、それがあった。


 ――白かった。


 視界を遮る激しい雨の中で、そこだけが異質なほどに白かった。


 髪が、白い。アスファルトに投げ出された剥き出しの腕も、固く閉じられた瞼も。全身に酷い裂傷を負い、鮮血が滲んでいるというのに、それすら拒絶するほどに白い。


 颯斗は弾かれたように走り寄り、泥水に膝をついた。


「おい、しっかりしろ」


 返事はない。


 肩に手を置くと、微かな体温と呼吸に合わせて動く身体の感触が伝わってきた。生きてはいる。


 だが、能力者の戦闘に巻き込まれただけにしては、その負傷の仕方は尋常ではなかった。


「チップは?」


 追いついた蒼紫が、青年を覗き込む。颯斗が青年のうなじの皮膚を確かめ、小さく息を呑んだ。


「……ない」


「は? 外国人か? それにしては、この髪と肌、やたら白いな」


 その時、ガラス細工のような白い瞳が少し開いた。

 頭上から、再びマザーのアナウンスが降ってくる。


『――個体識別、不明。生命(ライフ)反応のみを確認しました』


 颯斗は青年の容姿に言い知れぬ胸騒ぎを覚えながらも、体を抱き起こした。


「とにかく、機構に連絡だ」


「わかった」


 蒼紫と彩乃が駆け寄り、三人で青年の身体を支えた。


 雨は、世界のすべてを洗い流そうとするかのように、激しく降り続いていた。



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