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彼岸花の追憶  作者: 宮代鈴
第一章 日常
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繰り返す運命

第一章【日常】

第四話

 未花達の学校は、それほど遠くない場所にあった。

中高一貫校の私立学校に進学し、空言は学校へいけないが未花達は町を歩き、商店街をぬけ学校へ向かって歩いていた。


「またあの子達よ」

「不気味ねぇ、しかもあの変な化粧。なんの意味があるのかしら」

「とっとと出て行ってくれねぇか、アイツ等よぉ」

「アンタ、そういうもんを外で言うもんじゃないよ。呪われるよ?」

 町を歩くと、そんな喧騒が嫌でも未花達の耳を入り雑音として脳で処理される。

未花は、それを流し目で睨み。

黒は真っすぐ前を向く、礼華は少し俯く。

左目の下にある、小さな雫のマーク。

それが未花達の【家族】の証だった。

未花は、どんなに町の人に蔑まされようと否定されようと消す気はなかった。

だって、それが唯一の証拠であり逃げれない鎖であるから。

 そもそも、未花は黒達以外の人間に興味はない。

どんな方法で死のうと、どんな文句を言おうと、叩こうと、嫌がらせを受けようとどうでもいい。

黒達の笑顔、それさえあればいい。それだけで十分だ。


しかし、人間とは面倒くさい者で黒達はいまだにその視線に慣れていないようだった。

(まぁ、二人とも前まで普通の家だったもんね)

未花は自然な動作で前を歩き、振り向く。

商店街特有の、軽くて硬い足音が鳴り未花の方へ礼華の視線が上がる。

「今日はさ、雨が途中から降るらしいけど傘持った?」

「え?、そんな事言ってた?」

「言ってたよ、テレビキャスターが」

未花はそんな軽口をたたき、礼華は思い出そうと渋い顔をし考え始める。

(礼華、ようやく前を向いてくれた)

未花はそう心の中で思いニコリと笑った。

やはり、皆は笑顔が似合う。

笑って、笑って幸せそうな顔を見るのが幸せだった。

店の、買い物客の声も、足音も気にしないで、通り抜ける自転車の音も風の音も今は気にしなくていい。

自分だけに、集中していれば怖くない。

「黒も聞いてたよね?ねぇ黒?」

黒も、強がって前を向いているだけで、内心怖がっているはずだ。

そう未花は自分勝手に確信を持ち、また口角を上げる。目を細める。

未花は前を向いていた黒の顔を見ると、その目の焦点は自分に合っていなかった。


 その目は、大きく見開かれ綺麗な緑色の目が日光を目いっぱい映していた。

しかしその目は日光は映していたが、希望の光だとか、悲しみにより泣きそうになっているわけではなかった。

絶望、困惑、そんな感情だった。

「黒?」

礼華が黒の異変に気が付き、声をかける。

が、黒はそんな事には気が付かず、微動だにもしなかった。

そして、その固まっている体で、乾いた唇で、確かにこの言葉を口にした。

「——父、さん?」

その言葉は、普通の人物が聞けば何も気にしないだろう。

ただ、娘が父親を商店街で見つけただけ、それだけのはずだ。

 しかし、黒達にとっては違う。

【家族】、その関係を成立させるのは簡単だ。

血、絆、愛、その様なものがあれば、法でも心のうちでも【家族】が成立する。

だが、黒達は家族が成立していなかった。

皆絆もない、愛もない、そして黒には血もなかった。

家族が亡くなっている、行方不明になっているはずの未花達が、【母さん】【父さん】と呼ぶのは極めて稀だった。

 

礼華は息をのむ、未花は目を大きく見開く。

先ほどまで聞こえなかった自分の息が、心臓の音が、より鮮明に聞こえてくる。

黒は勢いよく息を吸い、走り出そうとした。

が、未花はその振り上げた腕をしっかりと握り、それを阻止した。

「っ、未花っ!!」

黒は綺麗な青髪を乱しながら、未花を睨む。

よほど焦っているのか、眉間にはしわが出来ていて下唇を強く噛んでいた。

冷や汗も書いており、息もあれている。目は熱を帯びていた。

 しかし、未花は握っている手を離さない。

じっと、黒の目を見て口を開かない。

「離せよっ!、頼むから…離してくれ」

黒は最初は叱るようにそう言ったが、最後は懇願するような消えそうな声色で未花に頼んだ。


「ダメよ、黒」

意外にも、最初に口を開いたのは礼華だった。

「こんなところに、いるはずがないわ」

「この街に、この通学路に黒のお父さんはいない。だって、あの日逃げ出して…」

礼華は言葉を濁した、よほど言いたくない、黒に聞かせたくない言葉だったのだろう。

「それでもっ!」

「黒、あの人は君をあんな目に合わせた人だよ」

未花は、掴んでいる手に力を込めた。

逃がさない様に、引き留めているように両手で黒の腕を掴む。

「君は、それでもあの人に会いたいの?」

黒は、苦虫を嚙み潰したような表情をし数秒後、うつむいた。

「追い駆けたら、間に合わねぇもんな」

「うん」

「行くか」

「うん」

黒はまるで自分に言い聞かせるようにつぶやき、歩き出した。

未花達はその隣に歩き、無理に慰めたりはしなかった。

黒の見えないはずの目から、涙が微かに零れていたことは見ないフリをして通学路を歩く。

これ以上、黒に壊れて欲しくないから。


(また、不具合か)

未花の目は、確かに殺意がこもっていた。

礼華:両親・弟が交通事故により死亡

黒:母が交通事故、父が行方不明

空言:海外旅行中に失踪、姉は消息不明

未花:???

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