ほんの少しの勘違い
第一章【日常】
第三話
「ご馳走様」
未花は礼華達より先に食べ終わり、お皿を台所へ運び始めた。
「相変わらず未花は食べんの早いよな」
「ん~、まぁ昔の癖かな?」
「そんなもんなのか?」
「そんなもんでしょ」
未花はこの家で一番食べるのが早い、それは決して他の住人が遅いわけではなく、ただただ未花が早食いなだけである。
「でも、早食いは体に悪いからゆっくり食べてよね?」
「もー、礼華は心配性だね」
「私はただ皆に長生きして欲しいだけよ」
礼華はパンを齧りながらそう呟く、未花はその言葉に少し驚いた。
まさか礼華がそんな言葉を言うとは思わなかったからだ、あの礼華が【長生き】を望むとは珍しいとすら未花は思えた。
(まぁ、少しは思考がずれるか)
未花はそう考え、ふと時計を見るとちょうど8時を示していた。
「ねー、そろそろ黒準備しなくちゃじゃない?」
「え?…マジじゃん、ヤッベ!!」
「学校すぐそこやから言うて、油断したん?」
「黙れ空言」
「当たり強うないっ!?」
黒は急いで最後の玉子焼きを口に放り込み、自分の部屋に駆け込んだ。
「もっと早く起きなさいよ、全く!」
「また始まったよ、礼華のお母さんムーブ」
「み・か?」
「はいすみません」
そんな雑談をしていると、二階から声があがった。
「なー!!、今日って気温いくつ?」
すると空言はスマホを操作し、調べ始めた。
「今日は6度ぐらいやな」
「え?、今夏じゃなかったっけ?」
黒はそんな事をいいだし、礼華は頭を抱え始めた。
「じゃあ何で私たちは冬服着てるのよ…」
「あ、そっか」
礼華はため息をつき、食器が片付け終わったテーブルへ頭を押し付けた。
「ていうか、よく制服で料理してるよね」
「まぁ、普通は汚れてまうわな」
「そこは…まぁ慣れよ」
「嘘つけ」
空言は礼華の額にデコピンをし、ツッコミを入れる。
「痛っ!!」
「普段の努力の結果やん、誤魔化しな」
礼華は額を押さえて少し涙目になっていた。
「…料理への努力って何?」
「未花は黙っとき」
「へーい」
未花はそう返事をし、黒がドタバタと階段から降りてくる音を聞き、スッと席を立つ。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「そうねぇ、時間もギリギリだし」
最初に礼華がリビングの扉を開け、それに続いて未花が歩き出す。
開けると黒がヘアバンドをつけ、前髪を調整していた。
「別に隠す必要性ある?右目」
未花がそんな疑問を黒に言うと、黒は少し目を伏せて口を開いた。
「気味が悪いだろ、どうせ見えないし隠しても問題ねえよ」
「焼け石に水だと思うけど」
「うるせえ」
黒は鏡で最終確認をし、玄関へと走り出す。
礼華はもうすでに玄関の方でローファーに履き替えているのが見えた。
それを目視で確認していると、空言がリビングからのそのそと出てきた。
「もう行くん?」
「ん、そうだよ」
空言も未花と同じように、黒達を眺め少し悲しそうな顔をした。
「…今回は上手ういくとええなぁ」
空言は、まるで神に祈るような声色でそう呟く。
隣にいる未花は、その異色の目を細らせ睨むような顔をしていた。
「そうだね、今度こそ」
「皆で幸せになるんだ」
その言葉を未花が放つと、黒が振り向きいつもの明るい声で未花に声をかけた。
それを聞いた未花は、空言の胸元を軽く叩き、まるで「まかせろ」とでも言いたげな顔を̪黒の元へ走り出した。
「じゃあ、行ってくる」
「おきばりやす」
礼華たちは大きく手を振り、玄関の扉を開ける。
空言はそれを、廊下の壁にもたれかけながら笑顔で見送っていた。
「幸せ…か」
登場人物
未花:中学2年生
甘狼黒:中学3年生
天音礼華:高校1年生
空言:中学2年生 不登校
未花に苗字はないので、礼華の苗字を使っています。
空言は、偽名です。ちゃんと苗字付きの名前があります。




