もう一人の住人
第一章【日常】
第二話
朝の洗顔が終わり、未花はある匂いを嗅ぎとる。
「…パンの焼ける匂い」
美味しそうな匂いに誘われ、フラフラと歩きながらキッチンへ足を運ぶと、そこにはもう一人の住人がいた。
「あら、おはよう未花」
「ん、おはよ」
桃色の髪が揺れ、礼華が振り返り、未花に笑いかける。
「今日の朝ごはん何?」
「トーストと簡単な卵料理…あとヨーグルトかしら」
「いいねぇ」
そんな会話をしていると、上から大きな物音が聞こえてきた。
十中八九黒達で、礼華は音を聞きため息をつく
「…まったく」
「今日もお疲れ、お母さん」
「お母さんじゃないわよっ!!」
礼華は未花に揶揄われ、少し怒りながら階段を上がる。
未花は着替えていない事を思い出し、礼華について行き二階へ移動する。
階段を上がるとすぐに黒達の姿を視認できた。
「いつもいつもそうやっt——!!」
「く・ろ?」
黒がそう叫ぼうとすると、礼華は先ほどの笑顔とは違う、冷たい笑顔で名前を呼んだ。
それを見た空言もみるみる顔が青白くなっていく。
(うわ~、怖)
未花は見て見ぬふりをし、自分の部屋に戻る。
自分ではあんな般若のような顔をした礼華に、歯向かっても意味がないとわかっているからだ。
なので、二人の断末魔が聞こえようと気にせず…気にしないように制服を着る。
そろそろいいだろうかと未花は思い、部屋の扉をひっそりと開ける。
「いいわね?」
「…はい」
空言は情けない声で返事をし、黒は頬をふくらましそっぽ向いていた。
その様子を見た礼華はため息をつき、階段を降り始めた。
「さぁ、朝ごはんにしましょ」
黒は礼華に続いて一緒にキッチンへ戻り、料理を皿に盛り付ける。
未花と空言は、机を拭き、盛り付けの終わった料理を運ぶ。
皆が席に着いた事を確認すると、手を合わせた
「いただきます」
その言葉を合図に、皆それぞれ食べ始めた。
この家では、朝は必ずパンだと決まっている。礼華が作っているから当たり前だ。
「たまには朝にご飯食べてもええんちゃう?日本人やしな」
「じゃあ、お前が作れよ」
空言が朝食に文句を言うと、すかさず黒が反論をした。
「また炭作られても困るでしょ」
「空言はいつも何故か、料理が炭になるからねぇ」
「黙っとき!!」
未花はスンとした顔で、前に空言が作った料理を思い出していた。
その日は、礼華が忙しかったため三人で夜ご飯を作ろうとしたとき
空言は、炒飯を作っていたはずだったが、出来上がったのは炭だった。
黒は『何でだよっ⁉』と叫び、未花は『火加減って知ってる?』と嫌味を言っていた。
当の本人も『僕も分からへん』と言い張ったため、しょうがないから出前を頼んでいた。
「今の話と前のアレは、関係あらへんやろ!」
「わー」
空言が顔を真っ赤にして、机を叩きながら立ち上がるがいつもの事過ぎて、誰も気にしていなかった。
未花は棒読みの叫びをあげ、揶揄っていた。
(ああ、本当に楽しいな)
未花は両方の目で、笑いあい言い合っている礼華達を眺め微笑んだ。
長年、ずっと求めていた。
その夢が今、この瞬間、叶っているのだから。
(ずっと壊れませんように)
未花はそう思いながら、パンをまた一口齧った。
作者は、朝は米派です(誰も興味ない)




