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江南の夢(不定期連載)  作者: 久慈川 京


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我が子



 殿の外に出てから本当にちょうど一刻後に、中から使いの者が出て来た。

 中に入ると、座主以下多くの僧達が皆座って俺の到着を待っており、そのまま六角家の提案を受け入れるとの回答を貰う。起請文を作り、それに対して座主と六角家当主が署名をし、花押を入れた。

 以後、代は変われど、この起請文の内容を違えぬ事を約す。叡山の武力放棄と現在の悪僧達の追放。しかし武器を手にしていた過去があっても乱暴狼藉に加わっていなかった僧は、以後は武器を捨てて仏道修行に励む事を条件に残す事も認めた。

 対して六角家は代が変わろうと、近江にある延暦寺所有の荘園への手出しはせぬ事。荘園内での問題が発生した際には助力する事などを記す。

 これにて、約六百年続いた延暦寺の武装化に終止符が打たれたのだ。


 起請文とは神仏に捧げる約束である。正直武家内での起請文など信じるに値しない物ではあるが、天台宗の総本山が出した起請文となれば別格だ。この起請文を延暦寺側から破れば、それは仏に誓った約を反故にするという事であり、宗派として死を意味するだろう。

 故にこそ、六角家としてもそれを破る訳にはいかない。相手が誠意を持って交わした約束を破れば、武家としての信用を大きく損なう。武家対武家であれば、そこに領土問題や家門の問題などがあるだろうが、寺と交わした物となれば話は別だ。


「何があった?」


 山門に向かう最中、何やら喧噪が聞こえて来た。女子の叫び声と子供の泣き声、男の嘲笑のような笑い声。不快になる声だ。

 近くにいる後藤但馬守が俺の視線に気づき、部下に尋ね、その男が答える内容を聞いた瞬間、俺は喧騒の渦中に走り出す。

 辿り着けば、鎧を来た屈強な兵士の一人が先ほど保護した女を抱えて何処かに向かおうとする途中であった。その女の格好を見る限り遊女の一人かもしれないが、その頬は赤く腫れ、兵士に乱暴された事は明らかであった。

 その他にも数名に兵士が女を抱えており、こちらは遊女というよりは村娘のような女である。それを見た瞬間、俺の中に残る六角義治の感情に火が着いた。

 俺の代になってから六角家の軍法で乱取りは禁止となっている。勿論家中で反対の声は多かったが、その大半は兵士達に支払う金惜しさの物であり、そんな奴らの兵を当てにするつもりもない俺は、『養えない飾りの兵は要らぬ』と一蹴した。それでも不平不満を言ってくる将達には、『ならば、其の方の家内と娘を兵士に差し出すが良い』と伝えて黙らせたのだ。


「何をしておる!」


 俺の声に振り向いた兵士は女を抱えたまま下種な笑みを浮かべる。こいつ、俺が誰なのかも気づいていないのか?

 誰の軍で、どこに所属している兵なのかは解らない。着用している甲冑は足軽程みすぼらしくもなく、何処かの家中の者なのだろう。


「へへへ」


 俺の質問に答える事なく、下種な笑いを浮かべるこの男に、完全に六角義治が目覚めた。徐に腰の太刀を抜き放ち、近場で女を抱えていた男の首を斬り落とす。首が飛び、血飛沫が上がる。


「女達に怪我をさせるな!」


 俺を追って来た後藤、進藤に指示を出し、他の男達を斬り捨てる。兵士であるからそれなりかと思っていたが、先頭の男以外は足軽に毛が生えたような者達なのだろう。武芸の心得もなく、呆気なく命を落としていった。

 最後の一人も流石に分が悪いと思ったのだろうか、女を盾にするようにして俺達に突きつける。


「このような塵芥が六角家の兵にいようとは…」


 騒ぎを聞きつけて来た他の兵達が周囲を囲い始め、更に残った男は焦りを見せていた。腕に抱かれた女は涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしており、遊女らしい華やかさはかけらも残っていない。

 一気に斬りかかろうとする後藤、進藤を片手を上げて抑える。正直この時代では遊女を人質に取ったところで何もならない。武家の偉い人間となれば、遊女の一人や二人死んでしまおうが構わないのだ。それよりも六角家の軍規に背いた者の首を上げた方がよっぽど利がある。それが解っているからこそ、この遊女も助けを求めて叫ばないのだろう。


「何処の者だ?名を名乗れ」


 正直、この者がどこの所属の人間かなど聞かなくても解る。この叡山に同道しているのは六角家本隊と進藤家の兵。そして若狭武田の武田信景配下の兵だけだ。六角本隊と進藤家の兵達には軍規を厳命しているし、これまでの何度かの遠征で乱取りを行った者達は全て首だけになっているのを何度も見ている者達ばかりだ。困窮でもしない限りはそのような事をする筈がない。

 となれば武田信景の部隊しか有り得ないだろう。武田家は六角の麾下に入ってまだ日が浅い。しかも若狭武田も分家でしかない武田信景には古参の家臣達も少なく、急ごしらえの家臣団と兵でこの戦に出兵して来ていた。正直五百近くも兵を集めただけでも大したものだと思っていた。


「右衛門佐をここに!」


 既に遊女を人質に取った男に逃げ場はなく、周囲も人が集まって来た事で顔を割れた。集まってきた者達の中には僧も多くおり、遊女を抱えた姿を見てある程度の事情は察知しているようであった。

 慌てて駆けだした兵の一人が武田右衛門佐信景を連れてくるまでそこまで時間はかからなかった。


「右衛門佐信景、お呼びにより参上致しました」


「あの男は其方の兵か?」


 俺の前で跪いた右衛門佐が遊女を抱える男を見て、側にいる人間に声を掛ける。流石に五百人の兵を抱える人間が末端の兵まで知っている事はないだろう。本来足軽は背に旗指物を指しているのだが、この狼藉者はそれよりいくらか上の立場の人間なのか、それとも発覚を恐れて旗指物を抜いたのかは解らないがそれをしていない。


「…申し訳ございませぬ。当家の者で間違いございませぬ」


「そうか。この後始末、俺が着ける故、あの者を捕らえよ」


 そこからはあっという間の出来事だった。一斉に飛び掛かった武田家中の兵が何人か吹き飛ばされる間に遊女を救い、そのまま押し倒すようにその男を捕らえる。捕らえられた際には周辺に多くの兵が倒されているのを見る限り、この狼藉者はかなりの剛の者であったのだろう。だが、数の暴力には抗う事は出来ず、そのまま取り押さえられた。


「右衛門佐、其の方も六角家臣となった。六角の軍規は心得ておるな?」


「はっ、乱取り禁止に関しましては、末端に至るまで周知させておりました」


 本当に勘弁して欲しい。

 ようやくこの長い戦も終わり、ようやく観音寺に帰れると思ったのにこの不始末。既に観音寺では萩が俺の子を産んでくれている筈なのだ。妻の出産にも立ち会えず、出産後も二月も帰らない旦那。最悪だろう。


「但馬守、山城守、狼藉者達の首は残せ。坂本城下に晒す。『この者達、軍規を破り、叡山にいる女共への狼藉を働いた者達也』とでも立札を立てておけ」


 武田右衛門佐には申し訳ないが、これを利用させて貰う。六角の軍規が如何に厳しいかという事。乱取り、狼藉に対しての処断が本当に行われているという事。そして、本当に叡山延暦寺内に女が居たという事を明らかにする。

 武田家郎党という名は出さない。六角の兵であると分かれば良い。重要なのは、叡山延暦寺内で女への乱暴狼藉があったという事実と、女人禁制の寺での乱暴狼藉という不可思議な出来事を周知の事実とする事だ。


「さて、帰るか。その者の沙汰は坂本で下す」


「ははっ」


 首を取った後の胴体も持ち帰り、坂本城下へと降りる。先頭を武田隊、中央を六角本隊、殿を進藤隊という形で約三千の兵が下山するのだ。少し日も落ち始めた山に三千の兵が持つたいまつの明かりが揺れる。坂本城下や京の都からは叡山が燃えたのではないかと思う程の明かりとなっているだろう。


 坂本城下に辿り着いたころには日も暮れ、捕らえた男の始末は城下町に入る前に行われた。俺の前に引き摺りだされた男は狼狽しながらも必死の命乞いをした。乱取りなどどこの国でも、どこの軍でも行っている事を高らかに訴え、自分が先日の戦でどれだけの手柄を上げているかを訴える姿は正直見苦しいとしか言いようがない。自分の正当性を訴えているつもりなのだろうが、それは身勝手な言い分ばかりであった。

 そして最後に言い放った言葉が、俺の中にある六角義治の精神の逆鱗に触れた。


「村娘、遊女の一人など、某のような剛の者を従える利を考えれば安い物でございましょう」


 派手にブチ切れた。

 もしかすると、六角義治はいつもそういう考えに怯えていたのかもしれない。不出来な当主と侮られ、佐々木六角家を護る為ならば当主のすげ替えも致し方なしという噂も出ていたはずだ。彼もまた懸命にこの乱世を生きようとしていたにも関わらず、周りの評価によって混迷を極めていた筈。

 六角家を守る為ならば、南近江を守る為ならば、六角義治という一人の人間の感情や思考など関係はない。そう思われていると考えていたかもしれない。


「…貴様が戦でどれだけ手柄を上げようと、何人の将の首を持ち帰ろうと、軍規を曲げる理由にはならぬ。遊女は多くの男を慰め、村娘はどこかで夫婦となり新たな命を宿す。それらが生み出す利は、お前一人の価値など及びもつかぬわ。剛の者?この六角に頭の使えぬ力頼みの阿呆は要らぬ」


 そのまま床几から立ち上がり、陣幕を出る。

 陣幕内から男の叫び声が聞こえたが、それも断末魔と共に消え去った。

 軍規を守らぬ剛の者など、只の乱暴狼藉者以外の何物でもない。調和は乱れ、何をしても良いという流れになる。剛の者だから、手柄を上げているからと罪を許せば、真面目に職務を全うしている者達からは、『何故あいつは許され、俺らは許されないのだ』という不満が出る。それは最初は小さな亀裂かもしれないが、徐々に大きなひびとなり、大穴を開ける。穴が開いてからそれを塞ごうと必死になっても、周囲の亀裂は広がり全てを作り替えなくてはならなくなる。


「山城守、叡山での起請文、其の方に預ける。もし叡山に逆心あるようであれば、次はあの山全てを燃やす。そのつもりでこの坂本を治めよ」


「畏まりましてございます」


「また、其方の粟太の領土は召し上げる。代わりに大津と山科郡を与える故、大津と山科に砦を築け。可能であれば山科は城が良い。其の方が京への入り口を守る要となる。しかと治めよ」


 先祖伝来の土地を召し上げた。

 これから六角家の領土は、織田家との盟約が切れぬ限りは西へと伸びるだろう。若狭から丹後へ、伊賀から大和へ、そして山城もまた六角の手が伸びる筈だ。その入り口となる場所はやはり六宿老であった者が入るのが好ましい。対外的にも、内部的にも理解を得やすく、そして反発も起き難い。


「有難き幸せに存じます」


 これで進藤山城守の石高は八万石強となる。粟太群の先祖伝来の土地と言っても二万石程度。坂本と合わせても七万石あるかどうかだろう。それに比べれば出世となる。南近江の領土は六角直轄地とし、小姓達への禄にするのだ。

 進藤山城守の顔を見る限り、不満は見えない。敢えて見せていないのか、それとも覚悟をしていたのかは解らないが、今後の六角はその形で行かなければならない。

 国替え、領土替えは宿老達のような大きな家からしなくてはならない。何故なら大きな領土を与えてもそれを預かれる人材を持たない者達であれば、国が回らなくなるからだ。

 徐々に変えて行くという程、悠長にしてはいられない。


「御屋形様」


「但馬守、如何した?」


「四条河原での当家の失態、御屋形様のご恩情により某の隠居のみでお許し頂きましたが、これに甘えては御屋形様の名に傷をつけてしまいまする。某の所領も御屋形様にお返し致します」


 なるほど、進藤が領地返上の上で山城近辺の領土を貰った事を受け、これ以上後藤家が先祖伝来の土地に拘り続ければ、嫡男である壱岐守治豊の出世に響くと考えたか。確かに四条河原での戦いでの失態は、今回坂本に晒した者達と同様に軍規違反となる。本来であれば、親子共々領地没収の上、斬首となっていてもおかしくはない罪であった。

 それを宿老であった事、これまでの功績が多大にあった事を理由に、隠居という形で収めたが、その決着について、一般兵達が不満を持つ可能性も否定は出来ない。


「但馬守、俺に自身の裁定を覆せというのか?」


 だが、こういう部分が傲慢なのだ。一家の当主が決定した事に関して不服を申し立てているのだ。最後の最後まで一貫してこの辺りがぶれる事はないなと思わず笑ってしまった。


「いえ、御屋形様のご恩情を受け、尚更己の不忠を恥じております。隠居と共に元来の領土を返上し、磯山の壱岐守を頼らせて頂きたく」


「…あいわかった。壱岐守にはいずれ犬上と神崎の二郡を任せようと考えていた。佐和山の麓の淡海近くに隠居所を作り、壱岐守を支えてやってくれ。喜三郎の教育も怠るでないぞ」


「はっ、承知仕りました」


 頭を下げる後藤但馬守を置いて坂本城下へ歩き出す。

 後藤家はこれでかなり力を失う事になるが、それも一時的な物だろう。既に若い芽が伸び、宿老の後釜筆頭は蒲生志摩守賢秀であり、次席には後藤壱岐守治豊である事に間違いはない。平井隠岐守高明はいるが、自らが領土を統治するという経験で言えば後藤壱岐守の方が上だろう。


 その後坂本で一泊した後、俺は観音寺城へと向かう。堅田から船に乗り、召し上げた進藤山城守の小浜城近くから観音寺へ下る。途中に左手に鶴翼山、別名八幡山が見えて来る。既に縄張りも終わり、普請が始まっている。観音寺山よりも低い場所に館を作るようにしている為、登城も楽にはなろう。

 しかし、お萩は大丈夫であろうか。既に戦に出てから三か月近くが経過されており、出産が終わっていても仕方ないのだが、それでも便りが来ないというのはよくよく考えればおかしい。もしや、母子共に危ない状況なのか、それとも亡くなっているのか。そういう事であれば、戦の最中に俺に伝えないというのも解る。もし、嫡男が誕生という事であれば、必ず戦場にいる俺の元へ便りが届く。甲賀者も伊賀者もいるのだ。その方法はいくらでもあるだろう。

 それがないという事は、良くない事が起こったという事ではないだろうか。観音寺が近づくにつれ、その不安は大きくなり、俺は自然と馬の速度を速めていた。六角本隊の兵達を越え、供回りも慌てて俺を追い始める事を構う事も出来ず、俺は観音寺まで必死に馬を駆る事となった。


「御屋形様のお戻りじゃ~!」


 慌てて追いついた供回りの一人が先頭に立ち、観音寺城の城門前で叫び声を上げる。物見櫓で監視をしていた者が門番に合図を送り、大きな城門が開かれた。

 滑り込むように城内に入り、馬を降りて屋敷へと駆け出す。周りの従者達が慌てて声を掛けて来るがその一切を無視する。それでも汚れた足や服などで屋形内を歩かれれば女中達が職を失う可能性もあるのだと言われ、しぶしぶ足を洗った。

 足を洗い、鎧を脱ぎ、蒸し風呂に放り込まれ、身体を清めた後でまずは父承禎入道の前に出された。俺はまず萩に会いたい。何故当主である俺が自身の好きな場所に行けないのだ。これは、本当に萩の身に何かがあったという事なのか…。


「御屋形様、ご無事のお戻り祝着至極にございます」


「父上、堅苦しい物言いは良い。萩はどうしたのですか?子は産まれましたか?」


 仰々しく俺の前で平伏する父親の姿に苛立ちが募る。

 父の横には、今回観音寺城にて留守居を務めて貰った平井加賀守もいた。その顔は落ち着き払ってはいるが、枯れても六宿老の一人だ。表情に出すような事はしないだろう。


「御屋形様、落ち着いてくだされ」


「これが落ち着いていられるか!?萩は無事なのか!?」


 その平井加賀守が俺を窘めるが、そのような言葉を聞いていられる余裕はない。本音を言えば、三好も足利も、幕府も朝廷も、そして延暦寺もどうでも良い。このような事であれば、全て焼き払い、早々に観音寺へ帰城すれば良かったと思う。


「萩は無事にございます。御屋形様のお子も無事ご誕生なされましてございます」


「ならば、何故便りの一つもよこさぬ!」


 安堵した。

 この一言だけで本当に心から安堵した。

 安堵すると逆に怒りが湧いてくる。何故、このように重要な事を伝える使者を一切よこさなかったのかと。


「…女子(おなご)でございました」


「なに?」


 間髪入れずに帰って来た平井加賀守の言葉に一瞬思考が停止した。本当に何を言っているのか解らなかったのだ。日本語を聞いている筈なのに、まるで知らぬ外国語を聞いたように頭に入って来ない。

 思わず聞き返した俺の表情は困惑と放心状態の狭間であったように思う。そしてその言葉が日本語であると気付き、内容を脳が理解し始めると、先程までの怒りなど怒りではなかったと思う程の激情が俺の全身を駆け巡った。


「産まれたのは女児であった。その事をお主に伝えるか否かを加賀守が儂に尋ねて来た故、儂の方で戦が終わるまで待つように申し付けた」


 そして、父である承禎入道坊主の言葉である。

 ああ、これが前世の世界で聞いた事のある『久々にキレちまったぜ』という場面か。

 この時代の男女の差が大きい事は理解している。特に武家となれば跡継ぎとなれる男児であれば慶事だが、女児であれば婚姻などの戦略的道具としか見ないという事も理解はしていた。いや、していた筈であった。

 だが、俺の価値観とは離れすぎていて実感が足りなかったのが事実だろう。今、目の前で当然の事のように口を開く馬鹿二人が同じ人間だと思えない。


「たわけぇ!!貴様ら、曲がりなりにも産まれて来た子の祖父であろう!祖父ならば孫が男児であろうと、女児であろうと、屋敷を挙げて大騒ぎし、喜びの奇声を上げよ!女子(おなご)は貴様らの血を引いておらぬのか!?女子(おなご)は貴様らに笑いかけぬのか!?」


「お、御屋形様…」


 もう駄目だ。俺そのものの怒りに触発され、六角義治の精神まで表に出始めた。

 目の前の爺二人をこの拳で殴り倒したいという衝動にさえ駆られている。


「たわけ!たわけ!この不忠者どもが!貴様らを父とも義父とも認めぬ!俺の家族に二度と会わせぬぞ!出て行けぇ!」


 立ち上がり、そのまま部屋を出る。俺の叫び声が聞こえたのか、何人かの侍女や従者、下人達が顔を出している。しかし皆、俺の顔を見て目を逸らして自分の仕事に戻って行く。俺の意識がこの時代に目覚めるまでの六角義治はこの城でこういう扱いをされていたのだろう。『触らぬ神に祟りなし』とでもいうのか、腫物のような扱いを受けていたのだと一目でわかる。皆が、『昔の若様だ』というような目で見ているからだ。

 だが、そのような事に意識を向ける余裕は今の俺にはなかった。


「よね!よねは何処におる!?」


 萩付きの侍女であるよねを大声で呼ぶ。少し前であれば、俺のこの怒声に震え上がって彼女は手を上げる事なく、何処かに隠れてしまったかもしれない。だが、あの栗見視察の後辺りから、何処か母のような姉のような目で俺を見るようになった今のよねであれば、出て来ると信じていた。


「こ、こちらに」


 侍女の一人が、俺をよねの居る場所に案内してくれた。

 なかなか肝の据わった良い侍女だと思った。後で名を聞き、褒美を取らせよう。


「御屋形様、お戻りなさいませ」


「よね!萩と我が子の元へ案内(あない)致せ!」


 平伏するよねの挨拶を遮り、そのまま妻と子の待つ部屋に案内させる。俺の怒鳴り声を聞いて顔を上げたよねは、そのまま俺の顔を見て、理由までは解らないまでも感情が表に出ていると感じたのだろう。すぐに立ち上がり、俺を導く為に先導し始めた。


「御屋形様、相当なお怒りのようでございますが、先程のような大きなお声を出されませぬように。先程ようやくお眠りになったばかりです故」


「そうか…。あいわかった。萩の産後は良いのか」


「はい。御屋形様のご指示通りに清潔な産屋にて、へその緒を斬る為の小太刀やその他の道具も一度沸かした為か、産後の肥立ちも良く、乳も出ております」


 この時代には乳母というシステムがある。特に武家の上の方になれば、同じ時期に子を産んだ母親を乳母として雇い、その乳を与えて育てるというシステムだ。

 だが、これも俺の価値観では解らなく、何故他人の母乳で育てる必要があるのかと思ってしまう。産後の肥立ちが悪く、乳の出で苦しんでいたり、そもそも子に乳を与える元気がないというのであれば理解は出来るが、そうではないのであれば、実母の腕に抱かれて乳を飲ませた方が子も母親も嬉しいのではないかと思うのだ。

 この時代の女性は籠の中の鳥のような生活をしている。そのような生活の中、自らの腹を痛めて産んだ子まで取り上げるのは酷という物ではないかとも思う。


「そうか…。誠に重畳。名を決めねばならぬな…。何が良かろうか。ふむ。この季節故…」


 既に季節は秋に入り始めている。風も少し涼しくなり、収穫の季節に入った。観音寺に戻るまでに黄金色に靡く稲穂が今年も凶作ではない事を示している。

 萩の季節に萩が子を産んだ。季節の花の名前が良いか。それとももっと考えた方が良いか。この時代に来る前の俺に子供がいたのかどうかは既に思い出せない。そもそも結婚をしていたのかも解らない。遠い昔の記憶は突然思い出すのに、この時代に来た直前の記憶が思い出せない。もし、子供がいたとすれば、その時もこのように名前で悩んだのだろうか。それとも妻と共に考えたのだろうか。もしかすると、妻が決めてしまい、それに頷いただけかもしれない。


「奥方様、御屋形様がお越しにございます」


 名を考えていた為か、萩の部屋の前に着いてしまう。よねの言葉の返事を待つ事なく、俺は襖を開く。この城の主だから許される行為であるが、個人のプライバシーもくそもないな。


「萩、でかした!母子共に健康無事など大手柄だ!」


 子が眠っているという話を聞いていた為に声量こそ大きくしていないが、それでも満面の笑みを浮かべて萩の前に出る。正直、既に出産を終えて一月以上が経過している為、萩も床に伏している訳ではなく、小さな布団の上で小さな赤子が寝ており、その横に萩は座っていた。


「この子か、俺と萩の娘は。そうか、そうか。よくぞ無事で生まれて来てくれたな。俺が父だぞ」


 眠っている赤子は、片手を布団から出して何やら掌を動かしている。

 正直に言おう。

 本当に可愛い。生まれて一月ほどの赤子であり、髪の毛もほとんど生えておらず、まだまだ男か女かも区別がつかない顔をしている。だが、本当に可愛い。

 自分の血を引いた子だからなのか、そもそも赤子だから可愛いのかは解らないが、触れるのも躊躇ってしまう程に可愛らしい。


「…四郎様、申し訳ございませぬ」


 娘の可愛らしさに頬を緩めていると、不意に横から謝罪の言葉が聞こえて来た。その声に視線を向けると、涙を堪えた萩の姿が見える。


「たわけ!何を謝る必要がある!?俺とお前の娘ではないのか!?無事に生まれてくれ、萩も無事である事以上に喜ばしい事などあるか!」


 先ほどの感情がぶり返し、つい大きな声が出てしまう。

 この城の人間は皆馬鹿なのか?

 何故喜べぬ。何故笑えぬ。

 待望の子がこの世に、我らの血を引いて産まれ降りてくれたのだぞ。

 子が宿り、子が健康に産まれて来てくれるという事は小さな、そしてとても大きな奇跡なのだ。


「ふぇ…ふぇ~ん」


 俺の大声に寝ていた筈の赤子が目を覚ましてしまった。俺は自然と座らぬ首の下に腕を差し入れ、抱き上げる。その行動は自分でも驚くほどに滑らかだった。もしかすると、この時代に来る前の俺には子供がいたのかもしれない。

 見知らぬ男に抱き上げられた事によって更に大きな泣き声を上げる赤子を包み込むように抱き、俺の心音が聞こえるように小さく揺らす。


「すまぬ、すまぬ。驚いたな。父が悪かった」


 本当にこの小さな小さな命が愛おしい。武家の当主としてこのような甘い姿は失格なのかもしれない。赤子を抱いてあやす当主など、侮られるかもしれない。

 それでも良い。俺はこの娘の父親なのだ。この時代で二十を超えた父親など遅い方だろう。この時代では十代で父になる男は多く、十代前半で母になる女も多い。それらに比べれば、俺も萩も十分に幼年期を過ごした後で父と母になるのだ。


「…四郎様」


「萩、誰に何を言われたのか知らぬが、其の方もこれで一児の母となったのだ。口の卑しい有象無象に一喜一憂するな。最後には必ず俺が其の方とこの娘を守る故、其の方もこの六角右衛門督弼頼の妻らしく堂々としておれ。我らの間に珠のような子を授かったのだ。まずは誇れ、そして大いに喜べ。この娘は日ノ本一の幸せ者となる未来しかないのだぞ」


 何があろうと、六角家を潰させやしない。

 今までは何処か俯瞰の目でこの世界を見ていたように思う。だが、この娘の顔を見た瞬間、俺は確かにこの時代の土に足を着けたのだ。

 何があろうと、この娘も萩も守り切って見せよう。ついでに六角家中の者、六角領内の者も守ってやる。


「まずは名を与えてやらねばなるまいな。…ここまでの道すがら考えてはみたのだが、萩は何かあるか?」


「い、いえ私などが…」


「たわけ。我らの子だぞ、我らにはこの娘をこの世に縛る名を与える責務があるのだ。我ら親がこの娘を名で縛ってやらねば、いつ天に戻されてしまうか解らぬ」


 名は現世にその人間の存在を認知させる物だと思う。その子は生涯その名で呼ばれ、その子を他者が認識する道標となる。この時代の男は何度も名を変えるが、俺の四郎もそうだが、親しい者はその名を変わらず呼ぶ事も多いのだ。


「…ふむ。どのような名前が良いかのぉ」


 腕の中に納まっている赤子は、ゆっくりと揺り動く動きに泣くのを止め、再び眠りへと落ち始めている。この時代の赤子は本当に幼い内に死ぬことが多い。それは衛生面での点もあるだろう。だが、この子は本当に長く生きて欲しい。少なくとも親の俺よりも後に死んで欲しいと心から願う。


「…空(そら)という名はどうだ?果てしなく続き、どこまでも高い。あの抜けるような青空のように広い器を持って成長して欲しい」


「…四郎様、そらとはどのような字を書くのでしょう?」


 遠慮がちに問いかける萩の声に振り向き、畳に指で『空』という字を書く。二度書いて、萩も字を理解したようだった。


「それは、空(から)とも読めましょう。中身のない者などと揶揄さなければ良いのですが…」


「む…。確かに、そのような輩は俺自ら刀の錆にしてやるが、そういう言葉にこの子が傷つくのは忍びないな」


 難しい。本当に子の名付けとはこれ程に悩むものなのだろうか。

 本来であれば、もっと前から考えておくべき事だったのだろうが、産屋の建設、清潔と消毒の徹底と周知、そして戦と気が狂いそうになるぐらいの忙しなさに心を亡くしてしまっていたのだろう。


「では珠(たま)という名はどうだ?珠のような子であり、我らにとって宝玉のように大事な娘だ」


「なにやら猫の名のような…」


「むむむ…」


 確かに、『たま』という名は古くは平安時代から猫に付けられていたと聞いた事がある。猫を飼うというのは高貴な者達の特権のようであり、古い公家にはそういう慣習があったようだ。流石に愛娘に猫と同じような名をつける訳にもいくまい。


「御屋形様、奥方様、大殿がお見えにございます」


 一人名で悩んでいるところに、よねの声が掛かる。

 先ほど、あれほど怒りをぶつけたにもかかわらず、性懲りもなくよくこの奥へ顔を出せたものだ。本来この奥は我ら夫婦の生活空間であり、そこに例え父親だとしても来る事は簡単に許される事はないのだ。


「追い返せ」


「四郎様、何をおっしゃるのです」


「あの者達は、この子が娘というだけで萩と娘の無事を俺に伝えなかったのだ。最早、俺の父でもなければ、義父でもない。そのような者達を俺の大事な妻と娘のいる部屋へ通すものか!」


 また少し声量が大きくなった事で、俺の鼓動が変化をしたのか、腕の中で眠り始めていた娘が口を動かし始める。それを見た俺が慌ててまたゆっくりと揺り動かす姿を見て、何故か萩とよねがくすくすと笑い始めた。


「四郎様、わたくしは四郎様がそこまでお怒りになられて下さったという事で十分に幸せにございます。四郎様のおっしゃる通り、娘は無事に産まれ、わたくしもこうして四郎様に再びお会いする事が出来ました。今は何故あれ程までに苦しんでいたのかと己を叱りつけたい想いにございます。何処の誰が何を言おうと、わたくしこそが四郎様の室であり、この子の母なのだと自信を持てました」


 萩の顔に憂いはない。

 そう簡単に今までの卑屈な考えが消えて無くなる訳ではないだろうが、それでも少しでも胸を張れる思いを持てたとすれば良かったのだろう。

 しかし、あの父と義父を許したくはない。この場に俺の母が居れば、あの承禎入道坊主を窘めてくれたのかもしれないが、既に鬼籍に入っており、萩の母は平井の領地である粟太郡にいる。いずれ、この観音寺に呼んで娘に合わせてやらねばならないだろう。


「御屋形様、お通し致しますよ」


「四郎様…」


「むっ、致し方あるまい」


 よね、萩にこうまで言われては、当主としても父としても器の小ささが露見してしまう。仕方なく娘を抱いたまま座り、開く襖を睨みつける。その横に静かに座った萩がそっと俺の太ももに手を置いた。

 しかし、いざ襖が開いてみれば、俺の小ささをこれ程かと実感せざるを得ない光景が広がっていたのだ。


「御屋形様、申し訳ございませぬ」


 父である承禎入道と義父である平井加賀守が土下座をして待っていたのだ。

 しかも額が廊下の板間に着くほどに頭を下げ、口上を述べた承禎入道の横で平井加賀守が一言も口を開く事なく、平伏している。これは俺でさえも度肝を抜かれた。

 先代とは言え、六角家当主であった六角義賢と、その六角家の重鎮であり宿老の役に就き、十万石に届くかという所領を持つ平井加賀守が許しを請うために恥も外聞もなく土下座をしている。俺の隣に座る萩も、招き入れようとしていたよねも言葉を失い、口を半開きにさせたまま放心してしまっていた。


「先代当主と宿老ともあろう者が、なんという姿だ。面を上げよ」


「此度の我らの不忠、申し開きもございませぬ」


「もうよいわ。眠る我が子の前でいつまでも怒っておられぬ」


 俺の腕の中で眠る娘は、夢でも見ているのか何やら手を動かしている。生きようと必死なその姿を見ていると、自分が怒っている事が馬鹿らしく思えて来た。生まれてすぐに、この子の祖父達を奪う訳にも行くまい。

 この子が近くにいれば、幕臣たちでさえ許してしまいそうで怖い。

 立ち直ったよねが、ようやく顔を上げた二人を部屋の中へ招き入れ、二人の据わる場所に敷布を置く。まだまだ綿の普及が追い付かず、座布団は作れていないが、いずれそれも作りたい。出来れば前世の僧が座るような綿を多く入れた座布団を作りたい。


「よく見よ。これが我が娘だ。日ノ本一の美女だ」


「ふふふ」


 自慢げに祖父達へ娘を見せる俺の姿に萩が小さな笑い声を上げる。

 父も義父も顔を上げ、そして小さく微笑んだ後、娘の顔を覗き込む。その顔が徐々に好々爺の顔になる。いつの世も、爺は孫娘には弱い物だ。

 父がむにゃむにゃと動く孫娘の口に頬を緩め、そして義父と共に笑い合う。何処にでもある幸せな家族の光景だ。

 つい数日前にはこの手で人を殺めているにもかかわらず、幸せをその手で掴んでいる。許されるものなのかという想いがない訳ではないが、それはそれ、これはこれとして割り切らねばならないだろう。

 それよりも娘が出来て尚更、乱取りを行う兵を許す事は出来ないと改めて思った。


「御屋形様、この娘のお名前でお悩みとか…」


「もう良い。この場にいる者は全て家族だ。父上も畏まる必要はない」


 最早父でも義父でもないと言ったばかりでこういうのも変だが、流石に先代当主と宿老にここまで頭を下げられたら許すしかあるまい。

 しかも四十、五十の人間のこのような柔らかな笑みを見て、それでも怒り狂える程、俺の中にエネルギーは残っていなかった。


「僭越ながら、儂も少し考えてみた」


「ほう、父上が俺の娘の名を決めるというのか?」


 再びいら立つ。

 本当に僭越だ。

 俺の娘だぞと叫びたくなる。

 だが、俺の横で萩が笑みを浮かべている

 萩にとってはこれが不快な事ではないのだろう。


「まずは、『みお』という名だ」


 そう言って、『澪』という字が墨で書かれた和紙を出して来る。

 これは今書いた物ではなく、以前に書いた物だというのが、墨の乾き具合で良く分かる。嫡男ではないと言ってはいても、この父は父なりに孫娘の誕生を喜んでいたのだろう。


「この近江は六角家代々の土地であり、皆がこの淡海の恩恵を受けて育って来た。作物も魚も、淡海の水によって育ち、それを食す我らもこの淡海の水に生かされて来たと言っても過言ではない。水は我らの命に等しい。水が枯れればこの近江で生きる全ての者の命も枯れる。この字は『水が余る』と書く。この子の生きる道で水が枯れる事なく、生きる事に困る事がないようにという願いを込めておる」


 驚いた。

 ここまで考えていたのか。

 確かにさんずいは水を現し、『きよらかな』とか、『しとやかな』とかの意味も持つ。また『零』という字は、『こぼれる』とか『ゼロ』とかの意味のほかに、『あまり』という意味を持っている。この時代には『ゼロ』という概念がない為、『こぼれる』『あふれる』という意味だけがあるのだろう。

 正直余り良い意味の『あまる』ではない。落ち零れとか、あぶれ者とかに使われる字ではある。だが、意味は通る。

 俺としてもさんずいの水を涙と理解し、零を『ゼロ』と認識する事で、涙を流す事のない人生を歩んで欲しいという意味を持たせる事も可能だ。


「思うていたよりも良き名であり、驚きましたな」


「そ、そうか…」


 俺の言葉に父が嬉しそうにはにかむ。

 本当に真剣に考えてくれていたのだろう。

 それはそれで有難く思う。


「もう一つある。『すみ』という名だ。これも近江の淡海の恩恵を受けて欲しい願いを込め、『澄』という字にしておる。水が透き通る様子や、空が晴れ渡る様子を意味し、それはその心の清らかさを謳う言葉でもある。この淡海のように澄み渡り、多くの者達に恩恵を与えられるような清らかな娘に育って欲しいという願いを込めておる」


 もう一枚出された『澄』という字。

 参った。

 本当に参った。

 これは祖父の愛であると共に、父としての愛でもあるのだろう。これを断れる息子がいるのだとしたら、その心を聞いてみたい。

 隣の萩も目を輝かせて二枚の和紙を見つめている。遠い未来の夫婦とは異なり、この時代の親の権威は強い。その親がこれだけ真剣に考えた名を与えられた娘ならば幸せになれると考えても致し方ないだろう。


「萩、どうだ?」


「はい。二つとも、誠に素晴らしく、美しい名にございます」


 悔しい。

 初子の名ぐらい父親として俺が決めたかった。

 その悔しさが表情に出てしまい、思わず父承禎入道を睨みつけてしまう。

 だが、先程までの俺の本気の怒りとは異なる怒りであると認識したのか、父も義父も柔らかな笑みを浮かべて俺の腕の中で眠る孫娘を見つめていた。


「ふぅ。父上、我が娘にこれ程の名を賜り、心から御礼申し上げます」


 眠る娘を萩に預け、怒りを鎮めて一息吐き出し、居住まいを正して頭を下げる。当主と先代という立場ではなく、本当に息子と父親という立場に戻って頭を下げた。


「甲乙付け難いが、この子の名は『澄』としたい。古来より唐では、鯉は滝を登って龍になると云われておる。水を登ると書いて『澄』だ。これ程縁起の良い名もない」


「はい。『澪』も名残惜しいですが、勝るとも劣らぬ良き名だと思います」


 抱いた娘に笑顔を浮かべる萩を抱き寄せる。

 今は親子三人だが、これからも子は出来るだろう。萩に無理をさせるつもりはないが、萩の様子では少なくとも嫡男を産むまでは萩から求めて来る筈だ。

 六角家を継ぐ人間が必要なのは確かだが、それは俺の子でなくとも良いと考えていたのだが、それはきっと萩が許さない。彼女は母となり、一つ大きな強さを持った。周囲の声を跳ね返す強さを持ってくれたのであれば良い。周囲に攻撃的になるのではなく、周囲の攻撃を自身の心まで届かせぬ壁を持てば良いのだ。


「お前の名は、本日より『澄』だ。澄、俺の子として産まれて来てくれた事を心から感謝する」


 萩から娘を受け取り、その額に口づけをする。

 この娘の為にも、俺は六角家を大きくせねばならぬし、絶対に潰す訳にもいかない。

 今日より、俺も一児の父だ。



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― 新着の感想 ―
>>「よく見よ。コレが我が娘じゃ。日本一の美女じゃ。」 後世の歴史書に「日本一の親馬鹿」って書かれるのは確定ですな(笑  あと、爺馬鹿✕2名も 娘さんの名前って後世にはなかなか残らないけども澄ちゃんは…
延暦寺と和解したとたん新参配下が乱暴狼藉してましたとか、頭痛案件が絶えませんね。 祝、ご息女誕生。
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