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【957 二人で泣いたあの日】

誤字を見つけたので訂正しました。内容に変更はありません。

俺はあの時、まったく身動きできなかった。

突然の強烈な光、その正体が爆発魔法だという事は分かった。だけどあれほど巨大な光弾は見た事がない。


おそらく爆発の上級魔法、光源爆裂弾だ。

破壊力が強過ぎるがゆえに、めったな事では使用されないから、実物を目にする機会がなかった。

だけど光源爆裂弾が、どれほどの被害を生むかは分かっている。

王位継承の儀があったあの日、カエストゥスの町の一角が甚大な被害を受けたのだから。




死んだ・・・・・


それだけは理解できた。

逃げる事も躱す事もできないのだから、どうしようもない。俺は今ここで死ぬ。

頭でそれだけを理解したその時、例えようもない程大きな衝撃に襲われて、俺の意識は途切れた





・・・次に目を覚ました時、俺は自分が生きているとは思わなかった。


ここは死後の世界か?そう思ったが、俺の胸に飛び込んできた衝撃、そして聞きなれた声に、まだ自分が生きている事を自覚した。


「トロワ兄ちゃー--ん!」


「うおっ!?ん、お、お前・・・スージー・・・スージーか!」


小さな体で力いっぱいに抱き着いてくるスージー。

突然の事で驚いたが、泣きわめくスージーを見て、俺の方は返って冷静になった。


できれば優しく落ち着かせてやりたかった。

だが、ふと顔に当たるオレンジ色の明かりに顔を上げると、遠くに見える赤々と燃える街並みが目に入った。


空は暗く、どうやら今は夜のようだが、町を焼く炎の赤に照らされて、まるで昼間のように周りが見える。



「・・・お、おい・・・な、なんだよ、アレ・・・おい・・・ウソだろ・・・」


全身から汗が吹き出し、心臓が口から飛び出るかと思う程、強く大きく高鳴った。

信じられない・・・・・


あれはカエストゥスの町か?

燃えているのか?・・・カエストゥスが、燃えているのか?

なんで・・・なんでだ?なんでカエストゥスが燃えているんだ?



「・・・ス、スージー・・・な、なぁ・・・アレ、どういう事だよ?燃えているのか?町が、カエストゥスが・・・孤児院は?俺達の孤児院はどうなったんだよ!?」


「い、痛い!痛いよッ!」


意識せずにスージーの両肩を強く握ってしまっていた。

痛みをうったえるスージーの声に我に返り、慌てて手を離すと、強く掴んでしまった肩を優しく撫でながら、泣き止むのを待った。


「あっ!ご、ごめんスージー!悪かった!ごめん、本当にごめんな・・・」


「うぅ・・・痛かった・・・」


「・・・な、なぁ・・・スージー、あれは、なんだ?・・・孤児院は・・・?」


一度は泣き止んだスージーだが、俺の質問に答えようと口を開くと、再び目にいっぱいの涙を浮かべて話し出した。


「・・・私は見てないんだけど、チコリが・・・チコリがね、孤児院が壊されたって、言ってた・・・それでチコリがずっと、護ってくれてて・・・・・」


「チコリが?・・・じゃあ、チコリは・・・あっ!」


スージーが後ろを振り返るので、俺もそれを目で追って気が付いた。


スージーの少し後ろで、キャロルとチコリの二人が樹にもたれかかっている事に。

二人とも目を閉じていて、俺は慌てて駆け寄った。


「キャロル!チコリ!」


生きているのか!?

焦りを感じた俺は、二人の肩に手を置いて呼びかけた。


「トロワ兄ちゃん、大丈夫だよ!怪我はしてないし、ヒールもかけておいたから!」


チコリが後ろから俺の腕を掴んで止めに入る。


「大丈夫だから!私がちゃんと見たから心配しないで!」


「あ・・・お、おう・・・そう、か・・・・・」


真っすぐに俺の目を見て、強くハッキリと言葉を発するスージーに、俺はキャロルとチコリから手を離した。まだ8歳なのに落ち着いていて、俺よりしっかりと状況を見ている。



「・・・う、ん・・・・・」


手は離したが、チコリは目を覚ましてしまった。

頭が痛いのか、眉を寄せて額に手を当てている。


「あ、チコリ!大丈夫?」


スージーはチコリを気遣うように、背中に手を当てて寄り添った。


「う、うん・・・スージーも、大丈夫?」


チコリの顔色はあまり良くない。声にも力がなく、やっと話しているようだ。


「チコリ、お前大丈夫か?かなり具合が悪そうだが?」


俺はチコリの隣に腰を下ろした。いったい何があったんだ?

怪訝な顔でチコリを見る俺の疑問に答えたのは、スージーだった。


「トロワ兄ちゃん・・・あの時のあの光は、多分光源爆裂弾だった・・・そしてあの爆発から私達を護ってくれたのはチコリなの。チコリが結界で私達を護ってくれたの」


「チコリが・・・?だがあれは、チコリの結界で防げるものじゃ・・・」



あの一瞬、俺は死を受け入れた。どうしようもない魔力に生きる事を諦めた。

チコリは優秀な青魔法使いだと思うが、まだ天衣結界も使えないし、あれを防げるはずがない。

そんな俺の疑問を感じ取ったように、スージーは言葉を被せるように答えた。


「天衣結界だよ」


「え!?」


「チコリが使ったのは天衣結界だった・・・私も気を失う寸前で、一瞬しか見えなかったけど・・・チコリが使ったのは天衣結界だったよ。それと多分・・・チコリは魔力だけじゃなくて、生命力も使ったと思う」


スージーの言葉を受けて、俺はもう一度チコリの顔を見た。

血の気が無く、青白い顔をしている。呼吸も浅く、頭は酷く痛むようで両手で額を押さえている。

かなり具合が悪そうだ。


「・・・生命力って、前に師匠が言ってたアレか?魔力を使い切った魔法使いの最後の手段だって・・・やったら死ぬってヤツだよな?」


スージは黙って頷いた。


俺は愕然とした。チコリはあの土壇場で、天衣結界を発動させた。それは極限状態に追い込まれた事で、チコリの才能が開花したという事だろう。

しかしチコリの魔力では、あの光源爆裂弾は防ぎきれなかった。

だからチコリは、俺達を生かすために生命力まで削って・・・・・



「そ、そんな・・・チコリは俺達を助けるために・・・な、なぁ、チコリは大丈夫なのか?このまま死んだり・・・」


「大丈夫よ!トロワ兄ちゃん、さっきも言ったでしょ?チコリは大丈夫!多分だけど、私達はあの爆発でここまで吹き飛ばされたの。だからチコリは、最後まで生命力を使わなくて済んだんだよ」


「・・・吹き飛ばされた事で、耐える必要が無くなった・・・そういう事か?」


「多分ね・・・状況を考えると、そういう事だと思う。これでもヒールをかけたら少しは回復したんだよ?回復したって事は、体力が戻ったって事だから、時間をかければチコリは大丈夫なの」


なるほど・・・ここまでは火の手も来ていないし、チコリも吹き飛ばされた時に意識を失ったんだろう。死ぬ寸前で魔法が切れて助かった・・・という事か。


「・・・なるほど・・・俺達はチコリに助けられたのか。分かった・・・ここからは俺に任せろ。四人で・・・・・・生き残るぞ」



四人で・・・・・・・

メアリーちゃん達の事は、あえて聞かなかった。


炎に飲まれたカエストゥスの町・・・あそこに戻る事はできない。

俺は・・・俺はこの三人を・・・・・キャロルとスージーとチコリだけは、絶対に護る。


俺に残った三人の家族・・・・・この三人だけは命に代えても護る。


そう誓った・・・・・・・





「・・・キャロル、俺は意識の戻らないお前を背負い、スージーはなんとか歩けるようになったチコリを支えながら歩いた。だが、帝国の追っ手が来て・・・俺は二人を先に行かせた。眠っているお前と、あの二人を護りながらは戦えなかったからな。それで、なんとか帝国の追っ手を倒した俺は、お前を背負って二人の後を追いかけていたんだ」



俺の話しを聞いたキャロルは、俯いて肩を震わせていた。

俺達四人以外はあの爆発で・・・・・・・確認したわけではないが、とても生きているとは思えない。


昨日まで笑い合っていた家族が、今日はもういない。

とても受け入れられる事じゃない。

俺だって辛い・・・・・帝国が憎い・・・・・憎しみでどうにかなってしまいそうだ・



「・・・トロワ・・・・・ちょっとだけ・・・・・ちょっとだけでいいから・・・・・・・・」


そう言ってキャロルは俺の胸に顔を埋めた


そして、声を押し殺して泣いた



キャロル・・・・・あの日もそうだったな

初めて人を殺したあの日・・・・・あの日も俺とお前で泣いたよな



キャロル・・・・・



俺は何も言わずにキャロルを抱きしめた

いつの間にか、俺も涙が零れていて止まらなかった


嗚咽がもれると、キャロルは俺の背中に手を回して、俺を抱きしめてくれた



だから俺達は二人で抱き締め合った・・・・・



僅かな月明りがだけが差し込む暗い夜空の下、二人ずっと・・・・・・・



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