表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
956/1598

【956 聞きたくなかった】

耳元で感じる荒い息遣い、怒鳴っているような大声も途切れ途切れ頭に入ってくる。

深い海の底に沈んでいたような意識が、少しづつ引き上げられてきた。


「・・・う・・・ん・・・・・・・」


薄く目を開けると、真っ暗闇で何も見えなかった。

だけど頬にあたる風や、髪が後ろに振られている事から、自分がすごい速さで移動している事が分かった。


そして自分が手をついているのは誰かの背中で、落ちないように太腿がしっかりと抱えられている事から、私は今背負われている事も理解できた。


「気が付いたか?」


私が目を覚ました事に気づいたのだろう。

私を背負っている男が、前を向いたまま短く言葉を発した。

暗くても誰かなんて声で分かる。だって毎日聞いている声なのだから。


「えっと、トロワ・・・これはなに?なんで私、トロワに背負われているの?」


トロワは私の質問にはすぐには答えなかった。しきりに周囲に顔を向け、警戒しながら走っている。

その切羽詰まった様子にただならぬものを感じて、私は質問を重ねる事ができず、じっとしている事しかできなかった。


「はぁッ・・・はぁッ・・・キャロル、頭を低くして・・・はぁッ・・・じっとしてろ」


呼吸も荒いが、汗もずいぶんとかいている。

なにがあったのか分からないけれど、ここまで相当無理をしてきた事が分かる。


「トロワ、止まって!あんたいつから走ってるのよ!?下ろして、自分で走るから!」


私を背負ったまま、いったいいつから走っていたのだろう?

そしてトロワの様子から見て、これじゃまるで逃げているみたい・・・いいえ、逃げてるんだ!

なにから?決まってる・・・帝国だ!


だけど私が呼びかけても、トロワは答える事もせずに走り続けた。

後ろから見えるトロワの顔は厳しく、焦りも見える。


「トロワッ!」


背中を掴む手に力を入れて、強く言葉を発すると、そこでやっとトロワは足を止めた。


「・・・トロワ、私が気を失ってる間に、何があったの?・・・みんなは?」



足は止めたけど、トロワは振り返りはしなかった。

思い詰めたように俯いている。


嫌な予感がした。



「・・・・・あ」


何を聞いても答えないトロワに、不安と苛立ちを感じ始めた時、ふいにトロワがしゃがんで私を下ろした。

柔らかい雪に足が抵抗なくスっと入り、足首まで雪に埋まってしまう。

風はないが空気が冷たくて、吐く息が白く目に映る。


月の明かりが僅かに差し込み、薄っすら見える樹々に、ここが森の中だと理解できた。


「ここ・・・孤児院から西の森だよね?なんでこんなところにいるの?」


トロワは俯いたまま振り返ると、やっとその重い口を開いた。


「・・・もう・・・もう、カエストゥスには帰れない・・・俺達はクインズベリーを目指す」


絞り出すような声だった。

眉間にシワを寄せ、唇を噛みしめながら、悔しさを滲ませながら話すトロワに、私は何も言葉を返せなかった。あまりに唐突だったからだ。



もう帰れない?・・・なんで・・・・・


「え、も、もう帰れないって・・・・・なんで?」


嫌な予感がした。

ハッキリとは覚えていないけど、気を失う前に見たあの光・・・あれは、まさか・・・・・


声が震えているのが自分でも分かる。聞きたくない、でも聞かないといけない。

でも涙を滲ませるトロワの顔を見て、答えを聞く前に全てを理解した。



「・・・孤児院は無くなった・・・カエストゥスは・・・・・火の海だ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ