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618 上を目指して

「えっと・・・こっちね。この先に、機関室の出口があるはずよ」


バルカルセル大臣が入手した船内の見取り図を片手に、リンジーが先頭に立ち、機関室を進んでいた。

レイチェルは国王を背負っているし、ファビアナは特に体力が少ないため、四人の進むペースは遅かった。

そのため大人数で移動しているフランク達の集団に追いつく事もなく、お互いがその存在を認識する事はなかった。


「あ、ドアが見えたよ」


後ろを歩くシャノンが前を指差すと、計器の残骸や折れたパイプの先に、重厚そうなドアが半分開いたままになっているのが見えた。


「あ、良かった。じゃあ道は間違ってなかったみたいね。でも、こんな重そうなドアが開いたままなんて、なんだか不自然ね。やっぱり転覆のせいかしら?」


障害物をどかし、リンジーはドアの前まで行くと、周りを見回して首を傾げる。



「・・・私達より先にここを通った人がいる・・・そうは考えられないか?」


レイチェルの一言に、僅かな時間だが沈黙が降りた。

それは十分に考えられる事だった。自分達以外にも当然生き残っている者はいるだろう。

それが敵なのか味方なのか、または全く関係の無い人なのか、それは分からない。


だが、誰かがここを通って行った。それは間違いないだろうと、全員が感じ取った。


「・・・用心して進もう。もし、先に進んでいるのがラミール・カーンや、ラルス・ネイリー達だったら、戦闘は避けられない。こんな状況だ・・・できればこっちが先に見つけたいものだな」


レイチェルの言葉にも緊張感があった。

それぞれが黙って頷くと、リンジーが先頭で半開きのドアに足を踏み入れる。



「・・・へぇ、やっぱり誰か先に行ってるのね。しかも一人や二人じゃないわ。それなりに大人数みたいよ」


踊り場に立ったリンジーは、上に行く階段に手をふれる。

逆さまになっているので、当然普通には登れない。しかし先を行く者達は、どうやら手すりを利用した事が分かる。


「・・・普通、手すりに靴の跡は付かないわよね。しかもこれ何種類もあるし、汚れもすごいわ。ベタベタするし、何人もしがみついて登っていったのね・・・レイチェル、先に行ってる人達はカーン達じゃないわ。カーンならこのくらい軽々と越えていけるから。多分、日頃戦いの場には立たない一般人ね。体を鍛える事もないし、魔法の練習をする事もない。そんな人達よ」


「なるほど・・・うん、リンジーの言う通りみたいだね。それなら、私達が追いついても問題無さそうかな?」


「いや・・・油断しない方がいいと思うよ。なにがあるか分からないからね。それにアタシらは狙われている立場でしょ?逆に巻き込む可能性もあるんじゃない?やっぱり相手の素性がはっきりするまでは、このままの距離を保った方がいいと思うね」


リンジーの推測にはレイチェルもシャノンも納得するが、様々な可能性を考えて、一定の距離を保ち進む事で話しはまとまった。



「よし、じゃあとりあえず上には行こうか?水かさもずいぶん増してきたようだ」


下を向くと、あと十数センチ程度で、足が水に浸かるところまで来ていた。


「そうね、あまりモタモタしてられないわね。レイチェルは国王様を背負ったまま登るのは難しいでしょ?私と一緒に協力して登りましょう」


「いや、心配するな。国王一人くらいなんてことないさ。私より、シャノンとファビアナはどうだ?」


魔法使いの二人に目が向くと、シャノンは親指を立てて笑った。


「アタシは大丈夫。風魔法で飛べるから。ファビアナの事も任せてよ。一緒に上に飛ぶだけなら、なんとかなるから」


そう言ってシャノンはファビアナに手を差し出した。


「掴まって」


「あ、はい」


差し出された手に手を重ねると、ファビアナの足元に風が巻き起こった。


「わっ、う、浮いてる!?」


「手、離しちゃ駄目だよ?じっとしてれば大丈夫だから。じゃあ、アタシらが先に行くね」


ニカっと笑うと、シャノンはファビアナと共にゆっくりと浮かび上がり、そのまま上の階へと昇って行った。


「黒魔法使いはこういう時いいわよね。ねぇレイチェル、あなたの事だから本当に大丈夫なんでしょうけど・・・」


「あぁ、このくらい楽勝だよ」


この手すりを人一人背負ってどうやって登るのか?

リンジーの心配をよそに、レイチェルは何てこと無いと笑って見せた。


確かにここまで人一人かついできても、レイチェルからはまだまだ余裕が感じられる。

しかし、この手すりをその状態でどうやって登る?

疑問はあったが、レイチェルの力強い返事と自信を見て、リンジーは、分かったと頷き、手すりを掴んで登り始めた。


体力型のリンジーは進むのも早い。

あっと言う間に半分以上進んだのを見て、レイチェルは国王を背負い直し、両手でしっかりと支え 

た。


「フゥー・・・・・じゃあ、行くか」


レイチェルは呼吸を整え、全神経を足に集中させると、床を強く蹴って飛び上がった。


最高到達点まで飛び上がると、右足を伸ばし、手すりを踏むようにして足を乗せる。

そして反対側の壁に向かい、手すり蹴って飛び上がった。

国王を背負ったまま体のバランスを保ち、両膝を腰の高さまで上げて壁に両足を付けると、今度は壁を蹴り、手すりに向かって飛び移る。


レイチェルはそれを繰り返し、ついには男性一人を背負ったまま、上の階まで足だけで登り切った。



「・・・フゥ、さすがにちょっと疲れるな・・・おや?ポカーンとして、みんなどうかしたか?」


フロアに着地して背負っていた国王を下ろすと、レイチェルは目を丸くして自分を見ている仲間達に気付き首を傾げた。


「いやいや、どうかしたって・・・レイチェルさぁ、アタシもこれは驚いたよ」


「う~ん、私も同じ体力型だけど・・・とても同じ事はできないわ」


「す、すごいです!か、かっこいい!」


「え?いやー、あははは、そんなに見ないでくれ。なんだか恥ずかしいじゃないか」


シャノン、リンジー、ファビアナの三人から、驚きの声と憧れの眼差しを向けられて、レイチェルは照れ隠しのように笑って、両手を顔の前で振った。


「まぁ、レイチェルのおかしな運動能力はさておき、先に行こうか?この上が元の一階で、今は最上階でいいんだよね?」


シャノンは少しクセのある黒髪をかき上げると、通路に親指を向けて先を促した。


「あぁ、そうだな。アラタ達みんなも来ているといいんだが」


「そうね、でもきっと大丈夫よ。みんな強いから」


「し、信じましょう・・・」


仲間の無事を信じ、レイチェル達は一階を目指し足を進ませた。



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