477 全てを出し尽くしたその後
アルベルトから視線を切る事はなかった。
アルベルトは一瞬でレイチェルの眼前に距離を詰めていたが、瞬きもせずに見ていたレイチェルの目には、アルベルトの歩方、地滑りの正体が見えた。
僅かに爪先が動いている?これは・・・指か!?
アルベルトのこの歩方は、指だけで地面を滑るように移動している。
信じられない指の力だ・・・上半身、下半身、体の軸を全くぶらす事なく、指だけでこの速さを出すなんて、いったいどれほどの修練を積んだというのだ?
確かにこの移動方なら、足首も膝も腰も動かす事無く移動できる。
しかし技の理屈が分かっても、私には到底できない技だ。尊敬の念すら覚える。
そしてこの歩方は、これまで以上に速い・・・・・
いいだろう!この一撃は私が受け止めてやる!
お前の全身全霊を乗り越えて私が勝つ!
なるほど・・・・・
体から余計な力を抜けば、これほどの速さが出せるのだな。
レイチェル・エリオットよ、俺の地滑りが一つ高みにいけたのはお前のおかげだ。
だからこそ、この技でお前との勝負に決着をつける!
剣をどうするか?
上段から頭へ斬り下ろす。首を狙い斬り払う。的の大きい胸を刺し貫く。
いいや違う!
レイチェル・エリオットの目は俺を真っすぐに見ている。
この目は戦士の目だ!
騎士としての俺の剣を、戦士として受け止める覚悟と誇りを持った目だ!
そしてレイチェルは自分が勝つと信じている。
血がたぎるという言葉は、こういう時に使うのだろう・・・・・
面白い!
ならば俺が狙う場所はここだ!
勝負だ!レイチェル・エリオットォォォォォォーーーッツ!
アルベルトの突きが、レイチェルの目と目の間に吸い込まれるように入って行った。
「お前ならここを狙うと信じていた」
一瞬の後、その体が宙を舞う直前、アルベルトは確かに聞いた
アルベルトの突きは確かにレイチェルを突き刺した
しかしそれは、目と目の間に差し出された・・・レイチェルの右手の平だった
まるでその場所を狙う事を確信していたかのようなレイチェルの防御方法に、アルベルトは目を開き動揺してしまった
ほんの僅かだが反撃への備えに遅れが出る
結果、レイチェルの次の一手が先を取った
いかに重くても左腕を動かせないわけではない
動揺したアルベルトに一撃を与える事は可能だった
左腕を振り上げ、その重さを利用したレイチェルの手刀は、アルベルトの右腕を砕いた
「ぐぁッツ!」
アルベルトは痛みに顔を歪め、片手剣を手放した
レイチェルは右手に刺さっている片手剣を引き抜くと、そのままアルベルトの左手首を掴み、後方に投げ飛ばした
「・・・・・しばらく動けそうにない・・・・・お前の、勝ちだ・・・」
ふわりと、まるで風に乗ったかのように軽やかに体が浮いたと思った直後、背中から全身を突き抜けるような強烈な衝撃が体を駆け巡った
アルベルトに意識はあったが、大技グラビティバーストを使用した疲労、そしてこれまでの戦いで受けたダメージが一気に表面化し、もはや戦う力は残っていなかった
「はぁ・・・はぁ・・・あんた、強かったよ・・・」
レイチェルもまた、限界だった
最初に左肩を貫かれた時の出血は止まっていない
最小限に抑えたと言っても、グラビティバーストで吹き飛ばされたダメージは大きかった
そして、右手を犠牲にしなければ勝てなかったと言っても、血を失っているところに、更に右手を刺させての出血は大きかった
意識が霞んでいくが、レイチェルは倒れる事はしなかった
背後に聞こえる足音、それはアラタとエリザベートが階段を駆け上がってきている事を教えていた
今倒れては駄目だ
二人に余計な心配を与える
特にアラタはあまいし、エリザ様も足を止めて回復をしてくるかもしれない
時間が惜しい・・・だから・・・二人、が・・・行くま、で・・は・・・・・・・
視界の端に映るアラタとエリザベートの姿が、三階への階段を上がって行ったところで、レイチェルの力は尽きた
・・・・・店長、私・・・・・頑張りました、よ・・・・・・・・
足の力が抜け、後ろに倒れるレイチェルの体が優しく受け止められる
「レイチェル、頑張ったね」




