476 変化
これは・・・!?
その攻撃に形はなく、レイチェルに視認できるものは無かった。
だが、自分に向けて発せられた波動、形は無くてもそれだけは感じ取れた。
感じ取れたゆえに理解する。
この攻撃は回避不可能と・・・・・
目に映る全てが攻撃範囲、瞬時にそれを理解したレイチェルのとった策は・・・・・
アルベルトのグラビティバーストが、レイチェルにぶつかるまでにかかった時間は瞬き程の一瞬であった。
その超重量の波動は、レイチェルの背後の壁や柱までも粉々に吹き飛ばし、城内に大爆音を響かせた。
爆風と爆煙を全身に浴びるアルベルトだが、その目は油断なく前方を見据えている。
本来ならこれで終わりである。
アルベルトの切り札グラビティバースト。その正体は超重量の衝撃波によって圧し潰す攻撃である。
炎や爆発などとは違い、盾などの物で防ぐことはできない。それごと圧し潰すからである。
回避も防御も不可能。これで終わりと判断していい状況だった。
だがアルベルトは剣を構え、左足を一歩後ろに引いて重心を下げる。
まるで、まだ戦いは終わっていないと言うように。
あの女は侮れん・・・
レイチェルの生死をこの目で確認するまでは、決して剣を下ろしてはならない。
それは危機を訴える本能。
やがて風も煙もおさまると、アルベルトの目の前には、さっきまで当たり前のようにあった壁も柱もさっぱりとなくなっており、見渡す限り風通しの良い吹き抜けになっていた。
そこにレイチェルの姿はなかった。
「・・・ふっふっふ・・・ははははは!やはりグラビティバーストで吹き飛ばされたか!当たり前だ!耐えきれるわけがない!俺の勝ちだ!」
アルベルトは歓喜の声を上げた。
剣を握る手にも力が入り、体全体で勝利を噛み締めている。
それはゴールド騎士であるアルベルトが、これ程感情をあらわにするほど追い詰められていたと言える。
その時、吹き抜けになった壁際で、石が砕けるような音がした。
音に反応したアルベルトが目を向けると、崩れかけた床の縁にしがみつくようにして、何者かの手が見えた。
いや、この場面で見える手に何者かなどない。考えられる人物は一人。
「はぁ・・・はぁ・・・」
荒い息遣いとともにレイチェルの赤い髪が見えると、右足を床の縁に引っ掛けて、一気に体を引き上げた。
「はぁっ!はぁっ!」
やはり左腕が重く、負担が大きかったのだろう。
体を引き上げるなり転がるように床に倒れこみ、左腕は無造作に投げ出された。
その重量を教える様に大きな音を立て、手の甲がぶつかった床にヒビを作る。
「・・・生きて、いたか・・・」
アルベルトは頬を引きつらせ、かろうじてその言葉だけを発した。
生きている可能性は十分頭に入れていた。しかし、それでも自分の最大の技だったのだ。
見たところレイチェルはダメージは受けているものの、この程度なのか?とアルベルトは感じていた。
「はぁっ・・・ふぅ・・・今、チャンス、だったんじゃ、ない?」
呼吸が少し整ったところで、レイチェルは体を起こし立ち上がった。
頭を斬ったのか、アルベルトに向ける顔は、額から流れた血で半分程赤く染まっていた。
「・・・いったい、どうやって俺のグラビティバーストを凌いだ?その程度のかすり傷でむような、そんな甘い技ではない」
「かすり傷?いやいや、結構危なかったよ。吹っ飛ばされてあちこちぶつけたから体中が痛い。大した技だ・・・」
レイチェルは額の血を袖で拭うと、自分の頭を指差した。
「点で受けたんだよ。防げないなら受ける面積を最小限にするべきだ。私はあの瞬間、両手で頭を抱えて床に伏せたんだ。まぁ、それでも凌ぎきれずに結局吹き飛ばされたけど、体を水平にし可能な限り衝撃波を流した。それでも壁に叩きつけられたんだ、凄まじい威力だったよ。私以外だったら戦闘不能だったんじゃないかな」
そう話すレイチェルの姿は、確かに衣服はボロボロになっていた事から、体中いたるところを床や壁に打ち付けられた事が伺える。
しかしそれ以上の、骨折など戦闘不能に陥るような重大なダメージは見られなかった。
「・・・それほどの技量を持っているとはな。騎士として尊敬しよう、レイチェル・エリオットよ」
アルベルトの目からそれまであった敵意が消え、黒く染まっていたグラビティソードの刀身が、元の鉄色に戻る。
「敬意を持って剣を交えたい」
左足を後ろに引いて重心を落とし、右半身を前に剣を構えた。
「・・・へぇ、ようやく私を認めてくれたって事かい?」
レイチェルは右手を軽く開き、右半身を前に構える。
グラビティバーストによってナイフを失っているレイチェルは、徒手で挑むしかなった。
まいったね・・・
コイツ、この場面で化けやがった。
こうなるとさっきまでとは全くちがう・・・
次に来る攻撃はおそらくあの歩方だ。
剛剣で押してきていたこの男から、ここにきて硬さが消えた。
レイチェルはアルベルトから感じる気配が、これまでとはまるで違うと感じ取った。
静かだが研ぎ澄まされた闘気・・・
ゴールド騎士アルベルト・ジョシュアの力の全てを乗せた一撃・・・・・
・・・いいよ、受けて立つ!私のこれまでの全てをぶつけてあんたを倒す!
学ばせてもらった。
これまでの俺は、重力を使い剣で圧し斬る。いわゆる力押しだった。
だがこの女レイチェルとの戦いは、俺自身の粗を見せられているようだった。
力だけでは駄目だという事か・・・・・
アルベルトが最後に選んだ技は、グラビティソードではなかった。
剣の能力には頼らない。
ゴールド騎士になるために血の滲む修練を重ねて得た、アルベルトだけの歩方・・・・・
地滑り
フッ・・・と、アルベルトは笑った。
この緊張感はいつ以来だろう・・・
勝敗の見えない戦いに挑むのは・・・
もうバリオスへのこだわりなどどうでもいい、俺は俺のためにこのレイチェル・エリオットという戦士に勝ってみせる!
全てを乗せた一撃を放つアルベルト
迎え撃つレイチェル
決着の時が来た




