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1585 天賦の才と歴史

「ダァァァァァァーーーーーーッツ!」


虹色の闘気を纏うフェリックスの剣が、デューク・サリバンの闇を斬り裂き、その奥にある肉体にまで刃を届かせた。


「なにッ!?」


速い!


一瞬にして距離を詰められていた。デュークは反射的に身を捻ったが、胸を横一文字に斬られ、赤い血が飛び散った。

致命傷となる傷ではないが、皮一枚という程浅くも無い。デュークの反応がコンマ一秒でも遅れていれば、かなり危なかっただろう。



俺の闇を斬った?この男、これはまさか、この虹色のオーラの力なのか!?


「貴様!」


デューク・サリバンの目が一瞬にして鋭くなった。フェリックスの攻撃はデュークの想定を大きく超えてきた。アラタの光の力以外で、この闇を突破してくる者がいるとは思いもしなかったのだ。

どうやらゴールド騎士を軽く見ていたようだ。全て出し尽くしたと思っていたが、こんな切り札を持っているとは思わなかった。この虹色のオーラは危険だ。


拳を握り締め、デューク・サリバンがフェリックスを見た。


ほんの数分前は、手負いの獲物に止めを刺す。その程度のものだった。だがそんなあまい考えは、もう一片も残っていない。

今自分の目に映るこの小柄な男は、自分を殺せる力を持っているのだ。


今この場で、全力で叩き潰さなければならない!


「ぬおぉぉぉぉぉーーーーーーーーッ!」


デューク・サリバンの体から、ドス黒い闇の瘴気が溢れ出した。




「ハァァァァァーーーッ!」


拳を構えるデューク・サリバンに、フェリックスは正面から向かって行った。

デュークの攻撃力の高さを、フェリックスは身を持って知っている。一撃で肋骨を砕かれ、顎を割れたのだ。少しづつ削りながら戦う方が安全のはずだ。だがそんな戦い方が通用するような、あまい相手ではない。



いける!この闘気なら、僕の闘気に土の精霊の力を合わせたこの虹の闘気なら、こいつの闇も斬れる!

この力で、この虹の闘気でデューク・サリバンを倒す!


「セイッ!」


剣の射程内に踏み込む!左脇で構えた剣を、デュークの顎に向かって斬り上げる!


「フン」


デュークは拳を顔の横で構えたまま、上半身を後ろに引いて紙一重で躱した。スピードではフェリックスがデュークを上回っている。その剣速も常人では反応さえできるものではない。しかし集中したデュークの動体視力は、そのフェリックスの剣を目で追う事ができる。


「チッ、だが!」


頭上に振り抜いた剣を、手首を返してデュークの左肩目掛けて振り下ろす!

しかしこの一太刀も、デュークは左半身を後ろに引いて躱した。左半身を引いた事で、自然と右半身が前に出る形になり、デュークは左構え(サウスポー)にスイッチした。


サウスポーとは右腕が前に出る事であり、それはつまりデュークの攻撃の起点が変わった事を意味する。


「シッ!」


右ジャブ!


フェリックスの体は剣を振り抜いた事で、両腕が上がり胴体ががら空きである。そこを狙ったボクサーのジャブを躱せるはずがない。


ジャブは格闘技最速の技である、そう、躱せるはずがないのだ。


しかし!


「なッ!?」


馬鹿な!こいつ、俺のジャブを躱しただと!?ボクシングの素人が俺のジャブを!?


「へっ!」


フェリックスは腰を回すと、デュークの右ジャブを紙一重で躱した。数本の髪が切り飛ばされ、風に乗って空へと消えていく。

まさか自分のジャブが躱されると思っていなかったデュークは、次の行動に一瞬の遅れが出る。

その隙を突いてフェリックスが攻勢に出た!


「ハァッ!」


左中段突き!デュークが身を捻って躱すが、剣先が胸をかすめて血が飛び散る。

手首を返すと、そのままデュークの胴体を狙い、剣を真横に一線させる!だがこれもデュークは上体を後ろに反らす事で回避した。しかし完全には躱しきれない。腹部を微かに剣が斬りつけ、引っ張られるように赤い血が飛んだ。


左へ振り抜いた剣を、今度は右へ横一線に振るう!これも躱されたが、フェリックスはそのまま刃の角度を変えて、デュークの左腿を狙って剣を振り下ろした!

左足を引いて躱わすデュークだが、躱しきれずに太腿を斬られ、バッと血が飛んだ。フェリックスの手にも、肉を斬った感触が伝わってくる。それなりの手応えを感じる深さだ。


「ぐ、ぬぅ!」


両の拳を顔の高さで構えていたデュークだったが、足を斬られた事で、ガクリと膝が折れた。

左腿の傷口からは出血が多く、これでは踏ん張りもきかないだろう


デュークは防戦一方に追い込まれていた。

フェリックスの攻撃は、全て虹色の闘気が込められており、それはデュークの闇にも通用するのだ。

反撃の隙が無い。そして足を斬られた事で、デュークは機動力を奪われた。ここからは躱す事も更に難しくなる。


形勢は完全に逆転していた。


常に先手を取り、一呼吸も置かずに剣を振り続ける事によって、フェリックスはデュークに体勢を立て直す隙さえ与えなかった。

自分の虹の闘気はデュークの闇をも斬り裂ける!ならばここのまま一気に首を取ってやる!


「もらったぞ!デューク・サリバンーーーーーーッ!」


幻想の剣を頭上に掲げ、トドメの一撃をデュークの首に振り下ろす!


だが・・・


「ぐぁッ!」



突然フェリックスの顔面が弾かれた。

目の前で火花が散る。鼻の奥まで突き抜ける痛みに、目も開けていられなかった。


な、んだと!?・・・僕は、打たれたのか!?み、見えなかった、いったい!?


「ぐ、う・・・!」


左手で鼻と口を押さえ、よろめきながら、フェリックスは一歩二歩と後ろに下がった。


「はぁっ、はぁっ・・・お、お前、今何をした?」


「格闘のセンスは天賦のものがある。さすがゴールド騎士といったところか。だが、センスだけで攻略できるほど、ボクシングの歴史は浅いものではないぞ」



肩の力を抜いて、右腕をL字に構える。そして鞭のようにしならせて打つ。

直線で打つ普通のジャブとは軌道がまるで違う、相手の死角を突くこのジャブを、こう呼ぶ。



「フリッカージャブ、躱せるものなら躱してみろ」



デューク・サリバンの黒い目が、ギラリと光った。





そして・・・・・・・




「はぁ・・・はぁ・・・フェリックス、さま・・・・・」


闇の巫女ルナの声は震えていた。


バルデスとディリアンを連れて戻ってきたのに・・・・・

助けられると思ったのに・・・・・



「・・・闇の巫女ルナ、仲間を連れて戻って来たのか。だが少し遅かったな」


デューク・サリバンは、砂の上に倒れている黄金騎士の顎で指した。


「見ての通り、お前の騎士は俺に敗れた。そしてこれで最後だ」


「ダメ!やめて!」


デューク・サリバンは右腕を振り被ると、フェリックスの頭に振り下ろした。


「やめてぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」



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