その後のお話+あとがき※
※第三者視点で、その後の話を少し進めた後、本作を振り返るあとがきも書こうと思います。よろしければお付き合いください!
エースが王妃になってから一年後。ハーヴィー王城北門前は、微妙な緊張感が漂っていた。何せ、この国でも指折りの重要人物二人がいるのだ。しかも、さりげなく愛用の槍を握っているあたり、オーラに凄みが出てしまっている。新人騎士の数人は、驚きのあまり敬礼するのも忘れて物陰に逃げる程である。
「お前、それ、もうすぐ生まれるんだろ? 早く部屋に帰れ」
エースは大きくなったお腹を手で擦りながら、相変わらず荒っぽい言葉遣いの元上司、オレガノ総帥をジト目で見上げた。
「じっとしていたら、運動不足で難産になっちゃうんです。それより、総帥。なんでこんな所にいるんですか? まさか、また事務仕事が嫌で逃げてきたんじゃないでしょうね?」
急に空を見上げて口笛を吹き始めるオレガノ総帥。分かりやすすぎる反応に、エースは苦笑した。
そんな二人に近づいてくる男が一人。
「何だ、用か?」
「タラゴン隊長!」
タラゴンはオレガノの後を継いで、第八騎士団第六部隊を率いるようになっていた。当初は南班の班長がエスカレーター式で昇進していたのだが、当然のごとくオレガノ程のカリスマ性は無い。急激に弱体化の一途を辿るのを見るに見かねたオレガノが、ヘッドハンティングしてきたというわけだ。タラゴンも冒険者稼業ではトップに上り詰めた身で、次なる目標をちょうど見失っていたということもある。すぐに快諾した。
しかし、他の騎士との待遇に差をつけるわけにはいかない。そこで普通に新人騎士として採用されたわけだが、すぐに行われた青薔薇祭で圧倒的な勝利を重ね、文句なしの一位に輝いた。その実績が認められ、異例の昇進となり、今では騎士団の中でも「兄貴」として慕われる存在になろうとしている。やはり強者は憧れの的であるし、あのエース王妃と仲が良いことも、彼が慕われる背景となっているのだろう。
タラゴンは、エースのお腹、そして胸元にある白い石のペンダントをジロリと睨む。
「ここに来ることはいいが、怪我だけはするなよ?」
「大丈夫ですよ。ちゃんと気をつけてますし、これでも私、もと騎士なんですよ?」
エースはぷっと頬を膨らませるが、タラゴンは見ないフリをする。
「いいか? この国の王は嫉妬深いんだ。こうしてお前がここにいるだけで、俺は後々ねちねちと嫌味を言われたりするんだぞ?」
もちろん、クレソンのエースに対する溺愛っぷりのことである。これにはオレガノも心当たりがあるらしく、はっと口を手で抑えると、
「いけね。俺、ちょっと外で仕事があるんだったわ」
と抜かして北門をくぐろうとした。すると。
「逃げるなよ?」
「あ、クレソンさん!!」
噂をすれば何とやら。エースにだけは天使の笑みを浮かべるこの王は、暦年の戦士でもあるオレガノを慄かせる程の凄みをもって、すぐ近くに立っていた。
「エース、ここにいては身体を冷やしてしまうよ? 一緒に中に入ろう」
クレソンはエースの肩を抱き寄せて、顔だけは、サボり中の男二人に向ける。
「また、今度な」
オレガノとタラゴンは、去っていく二人を凍りついたまま見守った。また今度というのは、別の機会に説教をするから覚えておけよ?という意味なのである。
タラゴンは、ぽつりと呟いた。
「クレソン王って、前はもう少し可愛げのあるガキじゃなかったっけ?」
「そんな頃もあったな」
「エース、なんであんなのがいいんだろうな? 他にもいい男いっぱいいるのに」
「おい、変な気は起こすなよ? 命いくつあっても足らねぇぞ」
「分かってるって。代替わりの時だって、ほら、前宰相の葬り方を見ても、今の王はやるときゃやるタイプだ」
「そう、殺るタイプ」
「……とりあえず、出産祝いを何にするか考えとくか」
「そうだな」
二人は、とぼとぼとそれぞれの持ち場に戻った。
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本作をお読みの皆様、ここまでお付き合いくださいまして、どうもありがとうございました。作者のまゆらです。無事に50万字近くの物語を書き終えることができて、大変ほっとしております。
本作は恋愛ジャンルの小説になりますが、恋と愛で言うと、愛の成分が多めのお話となりました。まず、姫乃と衛介の愛。これは友情や男女の恋という垣根を超えた、運命で結ばれた親愛でした。オレガノ隊長(最後に出世したけど、隊長のイメージが強いのでコレでいく!)とエースの関係性も、上司と部下の愛でしたし、姫乃が両親と再会するところでは親子愛でした。トリカブート、アルカネット、リンデンも不思議な愛で結ばれていましたし、正統派の恋愛をしていたのはエースとクレソンぐらいだったかと思います。少し恋愛モノとしては物足りない読者様も多かったかもしれませんが、いろんな愛の背景があってこその恋愛を描きたくて、このような編成になっております。
本作の中で一番難しかったのはマリ姫様でした。最後まで姫乃とくっつかないのか?!と期待してくださっていた方にはごめんなさいとしか言いようがありません。マリ姫様は本当に浮かばれない役どころだったかもしれませんが、本作の中では一番カッコいいヒーローだと作者は思っています。マリ姫様は、結局のところトータルで三十三年生きてるんですよね。そのために悟りの境地を開いていたり、エースよりは賢かったり、いろんな気くばりをしていました。
そして正統派ヒーロー(だと信じている)のクレソンは、恵まれた環境で生まれたにも関わらず不遇の時を過ごし、ちょっと歪みながらも再起を図る努力の王子でした。かっこ悪いところもたくさん書いてしまいましたが、彼の人間らしさをお楽しみいただければと思います。
本作はあくまでファンタジーですが、リアル感のある人間をたくさん住まわせたいと思い、積極的に人間の駄目なところを書いています。完璧な人なんていないと思うし、もしそう見えたとしても、本当は弱いところもきっとある。いつも元気で明るいわけではなくて、人を疑ったり、悲しくなったり、いろんな面があると思うので、そういう人間らしさを許容して、皆で支え合える世界を書こうとしていました。そして、人は運命的な逆境にも負けない強さを持てることを表現したいと思っていました。
ラストのエースではありませんが、いろんな業を背負い、矛盾を抱えながらも、精一杯生きている人がたくさんいると思います。綺麗事だけで生きられないのは悲しいですが、その中でも自分の幸せや自分のしたいことと真面目に向き合って、もがいて、躓いても前に進もうとする本作のキャラクター達は、癖のある人が多いですが皆キラキラしています。本作を読んだ方には、不思議な余韻をお楽しみいただきたいのと、自分を許したり、また明日もがんばろう!と思える活力をつけてもらえたら、とってもとっても嬉しいです。
最後になりましたが、いつも読んでくださったり、応援してくださる皆様、誤字脱字をたくさん見つけてくださった方々、Twitterの宣伝に協力くださった仲間達、ご感想までお寄せくださった方々、そして本作を気に入ってくださった神様のような方々に心からの御礼を申し上げます。
また、別の物語を紡いだ折にもお会いできますように。
山下真響