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101要請を受けちゃった

このお話の後書きに、業務連絡を書いています。



「ねぇ、衛介」

「姫乃?」


 あぁ。姫乃って呼んでもらえるのは後何回あるだろうか。


「ほんとに、衛介は……いえ、マリ姫様は、世界樹の管理人を継がなきゃならないの? もう、この世界のことなんて、諦めるってんわけにはいかないの?」


 衛介はこれまで十分頑張ってきたと思う。中身は男の子なのに、姫として振る舞い、世界樹と向き合い続けてきた。もう、いいじゃない。ここで逃げたって、誰も責められない。だって、管理人になることは、ある種の自殺行為なんだもの。


「私ね、衛介が死んだとき、文字通り世界が終わったと感じたわ。だから、衛介っていう個人が最後まで生き残れるならば、もう一度ぐらいそういう酷い目にあっても耐えられる気がするの。もちろん世界の崩壊がどれ程恐ろしいものなのか分からないよ? だけど、自ら死にに行くのと、皆で死を迎えるのは全然違うじゃない!」


 もし、衛介が世界を見捨てたとしても、私は衛介を見捨てたりしない。だいたいこの世界は、わざわざ外の世界からの犠牲ありきで成り立っているのがおかしいのだ。この世界の現地人ではなく、元日本人の私達がこんな重いお役目を背負わなきゃならないなんて、酷すぎる。


 熱くなる私に対し、衛介はあくまでも冷静だった。


「それは俺も何度も考えたことだ。幼い頃からも、姫乃がこちらへ来てからも、何度も何度も。だけど、もう決めたんだ」

「そんな強がり、やめなよ」

「ううん、姫乃。そういうことじゃない。」


 衛介は、私の手をとった。私よりも華奢で白いスベスベの手。


「なぁ、俺を英雄にしてくれないか。俺は元男だ。やっぱりなよなよした生き方はしたくない。日本では何の前触れもなく死んだけど、今はこうして別れを惜しむこともできるし、最後の時の形も自分の意思で選びとることができる。俺は華々しく、この命を使いたい。そして、当代の誰もが成し得ないことをやり遂げて、後世に名を残すんだ」

「って、言いながら泣いてるじゃない」

「泣くのはこれで最後だ。俺も怖い。でも怖いって素直に言わせてくれるのは姫乃だけだ」


 衛介はやっぱり狡いよ。こういう時だけ、そういう言い方をする。ますます引き止めたくなってしまう。でも、これはもう本当に決めてしまったことなんだね。握られた手の握力、そこから伝わってくる気持ちが、否応なしに私に畳み掛けてきて、「世界樹の所へなんて行かないで」なんて絶対に言えなくなってしまう。


「泣くなよ」

「こっちの台詞よ」


 ふと見ると、もう衛介は泣いていなかった。マリ姫様として、毅然とした体で私に向き合っている。


「ここは、俺達には別世界かもしれない。夢オチのラノベみたいなものかもしれない。でもな、リアルなんだよ、ここは。ちゃんと生きてる人がたくさんいて、その営みがある。それを守る王族として俺は生きてきた」

「うん」

「だけどたぶん、俺が背負っているのは、この世界最大の試練だろう。これに耐えるために、男の俺が日本から呼ばれたんだと思うんだ。姫乃、後は俺が何一つ心配することなく世界樹と一体になれるように、必ず、必ず幸せになってくれ」


 マリ姫様の手に力がこもる。


「頼む!」


 マリ姫様と目が合った。有無を言わさぬものがあった。

 私は、頷いた。



 その時、タイミングを計らったかのように人の気配が近づいてくる。


「あ、クレソンさん!」


 こんな時間にこんな所へどうしたのだろう?


「エース、ローズマリー、今から少しいいか?」

「どうしたんですか?」

「オニキスから謁見願いが届いていて、二人も同席してほしいんだ」


 オニキス様は隣国ミネラール王国の王子様。クレソンさんの戴冠式以来、しばらくハーヴィー王国に滞在しているのだ。以前、彼とは私も一度お目通りしたことがあるけれど、私の立場はあくまで単なる騎士。マリ姫様は王族だから分かるけど、私まで会わなきゃいけないなんて、何があったんだろう?


「実は、内々にある打診を受けている」


 クレソンさんの表情は固いまま。


「世界樹絡みか?」

「そうだ」


 私とマリ姫様は顔を見合わせた。

 とりあえず、今日のお茶会は流れたな。



   ◇



 私は、廊下で待機してくれていた侍女さん達に、今日のお茶会を延期させて欲しいと王妃様達に言付けてもらえるよう、お願いした。さらに、なぜか目を血走らせて興奮しているラベンダーさんにマリ姫様の衣装部屋へ連行され、半強制的にお召変え。この後お会いするのはオニキス王子なので、失礼があってはならないと着飾られることになったのだ。


 服だけじゃない。私は、女の子として城に戻ってきて以来、伸びてきた髪は後ろで一つに縛っていることが多いけれど、今回はハーフアップにまとめられて、毛先もゆるふわにセットされている。お化粧もされて、鏡の向こうにいる女の子は完全に別人だよ。この世界も化粧テクがかなり進んでるみたいだ。嬉し恐ろし。


 準備が整ったところで、さらに豪華なドレスに着替えたマリ姫様と共に城の薔薇園を臨む応接室へ移動した。


「お待たせいたしました」

「いや、こちらこそ急に呼び立ててすまなかったね」


 オニキス様は、前にお会いした時よりも、少しだけやつれて見える。ハーヴィー王国のお食事が口に合わなかったのかな?

 私は、先に部屋へ到着していたクレソンさんとオニキス王子に促されて、マリ姫様と並んでふかふかソファに腰を下ろす。


「早速で悪いが本題に入る」


 クレソンさんの厳しい表情と言い、これはかなり重い話であることが分かる。でも、ここまで来て聞かないという選択肢はない。私とマリ姫様は姿勢を正して耳を傾けた。


「先程本国から急ぎの使いがやってきた」


 つまり、ミネラール王国からってことだよね。私も知識でしか知らないけれど、あの国はここからは南へ馬車で一週間ぐらいかかるぐらい遠かったはず。その距離をわざわざやって来るということは、余程のことだ。


「実は、また突然変異の魔物が現れて、我が国を暴れ回っているらしいのだ。しかも今回は、黒の魔術を使う魔物らしい」


 わぁ……それ、ハーヴィー王国と同じだよ。そっか、世界中でよく似たことが起こってるんだね。


「また、とは?」


 クレソンさんは、オニキス王子に聞き返す。


「これで、大規模なものは八回目だ。魔物自体は毎回小型から中型。しかし、通常の個体よりも遥かに強く、多くの国民が突然変異であることに気づかずに近づいて、命を落としている」


 先日ハーヴィー王国で発生した大蜘蛛騒ぎも大変だった。たくさんの冒険者などがお亡くなりになった。でも、あの辺りは元々人がほとんど住んでいない森だったし、冒険者でも腕に覚えのある人でないと踏み込まない奥地だったから、被害はあれで済んだのだろう。でも、もしあれがミネラール王国のように街の近くなどで発生していたら……想像するだけで悪寒が走る。


 オニキス王子は居住まいを正して、私とマリ姫様に向き直った。


「単刀直入に、ミネラール王国からハーヴィー王国に申し入れる。今すぐ、世界樹の元へ向かい、管理人交代を成し遂げてほしい。このままでは、人の世だけでなく、世界が崩壊してしまう。既に始まった無秩序の連鎖が、あらゆるものに波及して、もう誰も止めることができないのだ」


 オニキス王子の気迫に、私はビクリと体を震わせた。正直、そこまで猶予がないとは分かっているようで、分かっていなかったのだ。大蜘蛛との対決で、突然変異の恐ろしさは思い知ったはずなのに、どうしてもマリ姫様と一生の別れになることは別問題のように考えてしまっていた。だって、大切な……幼馴染なんだもの。


 でも、もう別れを惜しんでグズグズしているわけにはいかない。クレソンさんが、オニキス王子の言葉に続いて、ローテーブルに広げたたくさんの書類がそれを物語っている。それは、近隣のほとんどの国で魔物関連だけでなく、農作物の被害、前代未聞の大洪水など、多くの異常な現象の報告書。中には、オニキス王子のように直接訴えるのではなく、書面で世界樹への出発を要請している国もあった。


 もう、待ったは効かない。


「マリ姫様」

「えぇ、参りますわ」


 マリ姫様は薄っすらとほほ笑んで、オニキス王子に語りかけた。


「旅支度は随分と前から進めてまいりましたが、最終確認のために今日と明日をいただけませんでしょうか。準備を怠って、無事に世界樹へ辿り着くことができなければ、意味がありませんから。おそらく出立のセレモニーもあるでしょうし、その準備が整い次第、明後日中にはここを発ちますわ」

「私が言うのもなんだが、そんなに早くて良いのか? 家族と別れを惜しむ時間も必要なのでは……」

「そういったことも、以前から少しずつしておりましたので、二日もあれば十分です。私も後の世まで糾弾されるような管理人になりたいわけではございません。ただ、成すべきことを粛々とやり遂げたく存じます」


 オニキス王子は、落ち着き払ったマリ姫様の様子に心底驚いているらしかった。きっとクレソンさんから、世界樹に辿り着くイコールマリ姫様の死であることを知らされていたのだろう。でもね、オニキス王子。マリ姫様は、ただの清楚な幼いお姫様じゃないんだよ。なんてったって、中身は衛介なんだ。精神年齢的には三十路超えだから、オニキス王子よりも年上になっている。


「ローズマリー姫、快諾してくださり感謝申し上げる」


 オニキス王子は、立場上頭を下げることはできないからか、軽く目を閉じて微かに俯き、手を胸にあてる仕草をした。


「感謝するということは、オニキス、ローズマリーのために何かしてくれるのか?」

「あぁ、もちろん」


 王家の人間ともなれば、感謝を正式に表明すると同時に、その心を具体的な何かで示すのがお作法らしい。これは、マリ姫様がこっそり教えてくれた情報ね。


「私を、世界樹への旅に連れて行ってくれ。旅は長く険しいと聞く。女性二人では心許ないだろう」


 あ、そっか。

 私はオニキス王子の言葉で、軽く頭を殴られたような気がしていた。てっきり、クレソンさんも一緒に行けるものだと思い込んでいたのだ。これまでは、クレソンさんの用事にクレソンさんの権限で随行することはできていたけれど、今回は違う。しかもクレソンさんはハーヴィー王国の国王だ。代わりのきかない立場の人が、長く城を空けることなんてできるわけがない。またトリカブートみたいな者が現れてもいけないしね。


 クレソンさんは私の心を読み取ったのか、こちらへ寂しげな視線を投げていた。


「エース、すまない。いつも一緒にいたいのに」

「いえ、これは私に課された使命。マリ姫様ががんばるのに、私だけ逃げるなんてできません。ちゃんと世界樹へ行ってみせます」


 クレソンさんは、声を出さずにありがとうと言った。私には、そう見えた。


「オニキス以外にも、人をつける予定だ。ミントも途中までは付き添ってくれる。後はタラゴンだな。ローズマリーの世話係としてラベンダーを抜擢するかどうかは、まだ調整中だ。ミント程長くは随行できないが、王都を出て数日のところまでは、第九騎士団も護衛に回ることにする」


 つまり、クレソンさんもそこまで見送りしてくれるってことかな?! 目で確認すると、クレソンさんはにっこりしてくれた。嬉しい!


「そういうことで、今日から私もエースも、旅の支度期間とする。明日も通常業務は免除。騎士団と隊への連絡はこちらから入れておく。だから」


 クレソンさんの目が、ここで妖しく光る。


「今夜は、僕の部屋においで」


 きたーー!

 

 やっと、クレソンさんとゆっくり会えるのね。しかも二人きりで。でも一つ言わせてほしい。なぜ、こんな公式の場所でそんなこと言ったのよ?! オニキス王子とマリ姫様から注がれる生ぬるい視線。私、こんなの耐えられない!!



【業務連絡】


★誤字報告くださっている方へ

どうもありがとうございます。

間違いが多くて申し訳ございません。

もし、また見つけてくださった折には、お知らせいただけると大変助かります。



★いつも読みに来てくださっている皆々様へ

物語がラストスパートに入りました。

おそらく、5月中には完結するものと思われます。

よろしければ、最後までお付き合いくださいませ。

あいにく連休中も連休が無く、お話のストックを増やせそうにありません。

少し更新頻度が落ちるかもしれませんが、完結までしっかりと描いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

完結後は、推敲作業に加えて、様々な人物視点でショートショートを挟み込み、これまで書ききれていなかった(エース視点では書きにくかった)シーンを追記していく予定です。



最後に。

読んだ!報告や、ご感想をいただけると、とっても励みになります。よろしければ、Twitterやなろうの感想欄からお寄せください。






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