↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/4

一歩出たら即死の極狭空間に、瀕死の女騎士を引きずり込んだ結果

「ガハッ……!」


紫色の瘴気が渦巻く荒野に、重々しい金属音が響き渡る。

強烈な一撃を食らい、私の体は乾いた大地を無様に転がった。


「ハァッ……ハァッ……」 毒を含んだ空気を吸い込み、肺が焼けるように痛む。


誇り高き騎士の証であった銀の軽装甲は、強烈な一撃であちこち砕け、ところどころに亀裂が走っていた。

ボロボロになった服が、その隙間から覗いている。

辛うじて握りしめている剣にも、今にも砕けそうな致命的なヒビが走っていた。


視線の先には、悠然とこちらを見下ろす巨竜。

熟練のパーティーですら苦戦する中ボス級の魔物。

共に戦った仲間たちはすでに全滅し、立っているのは私ただ一人だった。


(普通なら、ここで諦めて死を待つだろう……)

絶望的な状況。

だが、私は奥歯を強く噛み締めた。


(まだだ……! こんなところで終わるわけにはいかない……! 私は、絶対に生き延びてみせる……!)

ひび割れた剣を杖代わりに、震える足で再び立ち上がる。


しかし、無情にも巨竜は太い尾を大きく振りかぶった。

「しまっ――」

防御の姿勢をとる間もなかった。


凄まじい衝撃と共に、私の体は木の葉のように宙を舞う。

はるか後方へ吹き飛ばされ、ドサッと無様に地面に叩きつけられた。


「くぅ……っ!」 全身の骨が軋み、視界がぼやける。いよいよ限界だ。


薄れゆく意識の中。

ふと、視界の端に「あり得ないもの」が映り込んだ。


見渡す限りの荒野。

猛毒の瘴気が立ち込めるこの死地に似つかわしくない、淡い青緑色に発光する幾何学的な『光の枠』。


四角い光の壁が地面から垂直に伸び、大人の背丈を少し超えるほどの高さまでそびえている。

上部も光の壁で覆われ、透明な箱のような形をしていた。


「いってて……え? 何だここ、どこだ……?」


そこには、鎧も着ていない軽装の男が、ペタンと座り込んでいたのだ。

男はキョロキョロと周囲を見回しているが、この猛毒の死地のど真ん中にいながら、苦しむ様子すらまったくない。


(な、なに、あの人……!? 装備もなしに、こんな場所でくつろいでいるの……!?)


ズシンッ……!!

絶望が、すぐ目の前に降り立った。

私を吹き飛ばした巨竜が地響きを立てて着地し、大きく顎(あぎと)を開く。


その喉の奥で、全てを灰にする灼熱の炎がチリチリと圧縮されていた。

(……あぁ、今度こそ) 私は全身の痛みに耐えながら、ギュッと目を閉じた。


――ゴォォォォォォォォッ!!!

視界を真っ白に染め上げる業火が放たれる。しかし。

「……あれ?」 いつまで経っても、私自身は焼かれなかった。


恐る恐る目を開けた私の視界に飛び込んできたのは、信じられない光景だった。


巨竜の放った灼熱の炎が、パニックになっていた男の鼻先。

『光の枠』の境界線で、まるで透明な岩にでもぶつかったかのように、綺麗に左右に割れていたのだ。


(嘘でしょ……!? 竜のブレスを無傷で……あの男、一体何者!?)


炎が収まり、男は自分の無事を確認してポカンとしている。

しかし、枠のすぐ外に倒れている私の体は、いよいよ限界を迎えていた。

竜の炎の余波と、猛毒の瘴気。

意識が急速に遠のいていく。


「おい、お前!」 その時だった。

透明な壁の中から、スッと男の腕が伸びてきた。

彼は私の血まみれの腕を力強く掴むと、『光の枠』の中へと私を引きずり込んだのだ。


「死にたくなければ、こっちに来いっ!」

ドサッ、と男の胸の中に引き寄せられる。

その瞬間。(え……?) 私を蝕んでいた猛毒の苦しみが、嘘のようにスゥッと消え去った。


ボロボロだった傷口が淡い光の粒子に包まれ、みるみるうちに塞がっていく。

(ただ傷が癒えるだけじゃない。なんだろう、この全身が温かく満たされるような、極上の感覚は……)

昨日から何も食べていないはずなのに、空腹すらも消え去っている。


しかし、安堵したのも束の間。私はある「重大な異常事態」に気がついた。

……狭い。

あまりにも狭すぎる。


どう見ても、大人二人が立つには狭すぎる。

わずか60センチ四方ほどの空間しかない。


つまり、私とこの男は現在――顔と顔が触れ合うほどの『完全なゼロ距離』で、正面から強く抱き合っている状態だったのだ。


「っ……!?!? な、ななっ……!」

(ち、近いっ! 男の人の匂い……それに、胸の鼓動まで伝わってくる……!?)

物心ついた時から、騎士として剣だけを振るい続けてきた私なのに……。


男性と手を繋いだことすらないのに、いきなりこんな全身を密着させるなんて……!

「ちょ、ちょっと! 近いですっ! 離れて、くださいっ……!」


顔から火が出るほど赤面し、私は男の胸をバシバシと叩いて突き放そうとした。


しかし、男は真顔で私の腰をさらにギュッと強く抱き寄せた。

「バカ暴れるな! 離れたらお前の足がこの枠からはみ出て、また毒で死ぬぞ!」


「ひゃうっ!?」


「それに、俺もお前に押し出されたら一歩で即死するんだ! 悪いけど、外のバケモノが諦めてどっか行くまで、大人しく俺に抱きついててくれ!」


「だ、抱きっ……!? え、ええっ……!? 〜〜〜っ!!」


私はそれ以上何も言えなくなり、茹でダコのように顔を真っ赤にして、彼の腕の中で小さく固まるしかなかった。


チラリと外を見ると、攻撃が無駄だと悟ったらしい巨竜が、つまらなそうに鼻を鳴らして飛び去っていくところだった。


私の騎士としての誇りは、この60センチの密着空間の中で、音を立てて崩れ去ろうとしていた。


竜のブレスを無傷で防ぎ、一瞬で私を全回復させたこの不思議な空間と、目の前の男。

(まさかこの人……とんでもない力を持った、伝説の『賢者様』なのでは……?)


こうして、最弱の男・ナギと、彼を最強だと勘違いした女騎士・ミュラの、狭すぎるゼロ距離サバイバルが幕を開けたのである。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

「続きが気になる!」と少しでも思っていただけましたら、ページ下部の【ブックマーク登録】や【★評価】をポチッと押していただけると、執筆の大きな励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。