ご機嫌ななめ
◇
「ただいま……」
そう言って、玄関の扉を開ける。
初めてのダンジョン業務で、
身体は思った以上に疲れていた。
靴を脱ぎつつ、
そのまま、壁へ寄り掛かってしまう。
「お疲れ様でした」
後ろから、リオンが続く。
「疲れた……」
「……そうでしょうね」
珍しく、少しだけ刺があるような気がした。
リビングへ向かいつつ、
チラリとリオンを確認する。
いつも通りの顔。
だけど、耳がまだ少し下がっていた。
「なあ。さっきは悪かったって」
「何のことでしょう」
即答だった。
「いや。絶対分かってるだろ」
「気のせいです」
そう言いながらも、
耳はさらに下がっていく。
そして、
それ以上は話したくないと言うように。
リオンは、さっさと台所へ向かってしまった。
◇
夕飯を食べて。
風呂へ入り。
気付けば、寝る時間になっていた。
それなのに、
隣に座るリオンはまだ少しだけ静かだった。
「……なあ」
「何ですか?」
「まだ気にしてるだろ……?」
「気にしてません」
即答。
「……本当か?」
「本当です」
そう言って視線を合わせてくれたが、
その目は少しだけ不機嫌そうだった。
いや。
不機嫌というよりも、
傷付いているの方が近い気がした――。
やっぱり、
心配してくれたとこにアレは良くなかった。
「……なあ、オレが悪かったから」
「別に、マスターは関係ありません」
視線を逸らされてしまった。
「……」
その表情に、なんとなく手が伸びる。
「え?」
わしわし。
リオンの頭を少し乱暴に撫で始める。
「ちょっ――」
珍しく、慌てた顔で手を掴まれてしまった。
「やめて下さい」
「嫌だ」
「子供じゃないんですから」
「知るか」
さらに、わしわしと頭を撫でてやる。
「……マスター!」
「ごめんって」
「本当に……!」
「だから、機嫌直してくれよ」
抵抗しているくせに。
どこか、本気ではない気がした。
耳も少しだけ、
元の位置へ戻ってきた気がする。
「……もう」
最後には、
諦めたような声になっていた。
◇
電気を消すと、
暗闇の中で部屋が静かになる。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
そう言ってベッドへ横になるが、
何故か自分よりもデカい男と、
同じベッドで寝ることになってしまった。
冷静に考えてみると、
これってどうなんだろう――。
だけど。
頭を撫でた時のリオンが、
なんだかスゴく嬉しそうだったのだ。
その顔を見ていたら。
なんとなく、
その後のお願いを断れなくなってしまった。
狭いなあ……。
そんなことを考えながら天井を眺めていると。
ふわり――。
柔らかな感触が頬に触れる。
「……ん」
視線を向けると、
リオンの尻尾がゆっくりと揺れていた――。
本人は気付いていないらしい。
眠い頭でぼんやりと、
その感触を感じていると。
どことなく懐かしい、そんな気がしてきた。
いつだったか――。
前も寝る時に、
こんな感触を感じていたような気がする。
けれど。
眠気に沈む頭では、
それ以上思い出すことは出来なかった。
今日は、本当に疲れたな。
柔らかな温もりを感じながら、
翔は、静かに眠りへ落ちていった。




