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ご機嫌ななめ


「ただいま……」


 そう言って、玄関の扉を開ける。


 初めてのダンジョン業務で、

 身体は思った以上に疲れていた。


 靴を脱ぎつつ、

 そのまま、壁へ寄り掛かってしまう。


「お疲れ様でした」


 後ろから、リオンが続く。


「疲れた……」


「……そうでしょうね」


 珍しく、少しだけ刺があるような気がした。


 リビングへ向かいつつ、

 チラリとリオンを確認する。


 いつも通りの顔。


 だけど、耳がまだ少し下がっていた。


「なあ。さっきは悪かったって」


「何のことでしょう」


 即答だった。


「いや。絶対分かってるだろ」


「気のせいです」


 そう言いながらも、

 耳はさらに下がっていく。


 そして、

 それ以上は話したくないと言うように。

 リオンは、さっさと台所へ向かってしまった。



 夕飯を食べて。


 風呂へ入り。


 気付けば、寝る時間になっていた。


 それなのに、

 隣に座るリオンはまだ少しだけ静かだった。


「……なあ」


「何ですか?」


「まだ気にしてるだろ……?」


「気にしてません」


 即答。


「……本当か?」


「本当です」


 そう言って視線を合わせてくれたが、

 その目は少しだけ不機嫌そうだった。


 いや。


 不機嫌というよりも、

 傷付いているの方が近い気がした――。


 やっぱり、

 心配してくれたとこにアレは良くなかった。


「……なあ、オレが悪かったから」


「別に、マスターは関係ありません」


 視線を逸らされてしまった。


「……」


 その表情に、なんとなく手が伸びる。


「え?」


 わしわし。

 リオンの頭を少し乱暴に撫で始める。


「ちょっ――」


 珍しく、慌てた顔で手を掴まれてしまった。


「やめて下さい」


「嫌だ」


「子供じゃないんですから」


「知るか」


 さらに、わしわしと頭を撫でてやる。


「……マスター!」


「ごめんって」


「本当に……!」


「だから、機嫌直してくれよ」


 抵抗しているくせに。

 どこか、本気ではない気がした。


 耳も少しだけ、

 元の位置へ戻ってきた気がする。


「……もう」


 最後には、

 諦めたような声になっていた。



 電気を消すと、

 暗闇の中で部屋が静かになる。


「おやすみ」


「おやすみなさい」


 そう言ってベッドへ横になるが、


 何故か自分よりもデカい男と、

 同じベッドで寝ることになってしまった。


 冷静に考えてみると、

 これってどうなんだろう――。


 だけど。


 頭を撫でた時のリオンが、

 なんだかスゴく嬉しそうだったのだ。


 その顔を見ていたら。

 なんとなく、

 その後のお願いを断れなくなってしまった。


 狭いなあ……。


 そんなことを考えながら天井を眺めていると。


 ふわり――。


 柔らかな感触が頬に触れる。


「……ん」


 視線を向けると、

 リオンの尻尾がゆっくりと揺れていた――。


 本人は気付いていないらしい。


 眠い頭でぼんやりと、

 その感触を感じていると。


 どことなく懐かしい、そんな気がしてきた。


 いつだったか――。


 前も寝る時に、

 こんな感触を感じていたような気がする。


 けれど。


 眠気に沈む頭では、

 それ以上思い出すことは出来なかった。


 今日は、本当に疲れたな。


 柔らかな温もりを感じながら、

 翔は、静かに眠りへ落ちていった。

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