はじめまして(前半)
【高城 翔】
多分、この物語の主人公。
27歳で身長167cmくらいな日本人。
【東和重工株式会社】
略称 : 東和重工
カケルの勤め先である、
戦前から続く大手総合重工メーカー。
10年前に発生した異界接続後からは新技術開発へも事業を拡大している。
東和重工・本社ビル――食堂フロア。
昼休みのピークを少し過ぎた時間帯。
人の流れはまだ多いが、席には余裕が出始めている。
トレイを片手に席を探していた高城翔は、不意に聞き覚えのある声に呼び止められた。
「高城、こっち空いてるぞ」
振り向くと、同僚たちが手を振っている。
そのうちの一人の肩に、小さな影がちょこんと乗っていた。
「……それ、まだいたのか」
思わず口に出る。
同僚の肩の上で、手のひらサイズの獣が尻尾を揺らした。
犬とも猫ともつかない丸いフォルム。
つぶらな目がこちらを向く。
「いいだろ、昨日出したやつ。三日くらいは持つらしい」
「持つって言い方やめろよ」
苦笑しながら席に着く。
小型召喚獣――簡易召喚術式によって幻界から呼び出される存在。
術式はすでに一般化され、
今では個人向けアプリにまで落とし込まれている。
呼び出せるのは魔力の弱い小型個体のみで、
数日もすれば自然と幻界へ戻っていく。
(安定性優先で、定着は捨ててる設計か)
翔はコップの水を一口飲みながら、ぼんやりとそれを眺める。
仕事柄、こういうものの構造はどうしても気になる。
術式の簡略化、出力制限、安全装置。
どこまでを削って、どこを残しているのか。
「高城もやれって」
同僚がスマートフォンをこちらへ向ける。
画面には、簡素化された魔法陣。
簡易召喚:小型召喚術式
その横で、別の同僚の肩にもまた一体、小さな召喚獣が乗っている。
「いや、いいって」
口ではそう言うが、視線は自然と画面へ落ちていた。
(術式、かなり簡略化されてるな)
構成要素は最低限。
無駄がない。
個人端末で動かす前提の設計としては、よく出来ている。
「一回くらいやってみろよ」
「……まあ、興味はあるけどな」
正直に言う。
興味がないわけではない。
むしろ、ここまで一般化された技術なら、一度は触れておきたい気持ちもある。
「じゃあ決まりな」
軽く笑いながらスマホを押し付けられる。
(……まあ、一回だけなら)
観念して、翔は画面に指を伸ばした。
タップした瞬間。
空気が、ぴんと張り詰めた……。




