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クラスメイトを間違えて前世の妹の名前で呼んだら陰でベッタベタに甘えてくるようになった  作者: 蒼唯まる


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8/8

最初のワガママ

 午後の授業が始まってからは、望月とは一言も交わさずに過ごした。

 単純に彼女と関わる機会が無かっただけなのだが、下手にコミュニケーションを取ろうものなら、周りから色々と訝しまれそうなのも理由の一つではあった。


 これまでまともに望月と会話などしてこなかったのに、急に距離感が近くなったとなれば、何かあったんじゃないかと詮索する人間も出かねない。

 俺たちの関係を悟られない為にも、表面上だけでもただのクラスメイトであることを装った方が賢明だろう、という判断によるものだった。


 けれど、望月の体調は万全ではないこともあって完全に目を離すこともできず、時折視線を彼女に傾けては異変がないかを確認してしまっていた。


 望月に対する心配から行ったことではあるが、ぶっちゃけやっているのはストーカーのそれと大して変わらない。

 なので、偶に「何やってんだ……」と、我に返っては自嘲するのを何度も繰り返し、ようやく変に気にならなくなった頃には既に放課後を迎えていた。


 帰りのHRが終わり、各々が自身の目的の場所へ散って行く。

 俺も手早く荷物をまとめて教室を後にするが、その際に視界の端で部屋の中に残る望月の姿が見えた。


(……ああ、そういえば今週の掃除当番、望月のとこのグループだったか)


 思い出しつつ、俺は昇降口へ向かう。


 朝は一緒に登校したが、別に帰るタイミングを合わせる必要はない。

 そもそもそんな約束など交わしてすらもいないんだ。

 なのに律儀に待つ方がおかしな話だろう。


 言い聞かせるようにそんなことを考えていた時だった。


「望月さんがいてくれて助かった〜! これで部活に遅れずに済む〜!」


 ふと背後から女子生徒の声が通り過ぎる。


「マジでそれ。HR無駄に長引くから、練習開始時間に間に合わないんじゃないかってヒヤヒヤしたよ」


「ほんと勘弁してほしいよね。それで鈴木に怒られるのあたしらなんだから。しかも、掃除で遅れましたーって説明しても、言い訳すんなって理不尽過ぎない?」


 愚痴を溢していたのは、クラスの女子だった。


(あいつらは——)


 確か望月と同じ掃除グループだったはず。

 今の会話……もしかして当番を押し付けたのか?

 ……いや、押し付けは少し語弊があるか。


 だとしても、望月に掃除当番を任せたことは事実。

 けれど、掃除当番は他にも何人かいるので、別に気を揉む必要はないのもまた事実ではある。


 ——なのだが、


「……一応、様子だけ見に行くか」


 またしても体が勝手に動いてしまう。

 俺はすぐに来た道を引き返し、再び教室に足を運べば、


「はあ」


 ついため息が溢れた。

 教室の中にいたのが望月ただ一人だったからだ。

 彼女は、一人で黙々と椅子を机に上げていた。


「……他の人らは?」


 扉を潜って声を掛ければ、望月は振り向くや否や、目を見開いた。


「え……瀧澤、さん。どうして、ここに……?」


「他の掃除当番が部活に行くのを見かけたから、気になって様子を見に。あとタメ口でいいぞ」


 ここにいるのは俺とお前だけなんだし。

 そう付け加えれば、望月に纏っていた澄んだ雰囲気が柔らかくなる。

 ——月詠の面影が垣間見えるようになる。


「二人はバイト、二人は部活。皆んな急いでたみたいだから、先行っていいよって言っちゃった。放課後、予定がないのわたしだけだし」


「だからって、一人でやる必要ないだろ」


「……そうだね」


 望月は小さく頷き、困ったような微笑を浮かべる。

 その反応を目の当たりにして、二度目のため息が溢れた。


「……分かってたなら、遠慮しないで頼ってくれ。体の調子もまだ良くなってはないんだし」


 言いながら、俺は近くにあった椅子を机に上げる。

 俺の行動を見て望月は目を丸くしていたが、構わずどんどん椅子を机に上げて、言葉を続ける。


「昨日も言ったけど、人に甘えられる時は甘えとけ。たとえ優等生をしている時でも、今みたいな感じでいる時でも。——言質、取ったんだろ?」


「……えっと、うん、確かに取ったんだけどね。でもあの時は、文字通り熱に浮かされてたといいますか——」


 指先を合わせて、か細い声で口籠もる望月。

 この口振りからすると、勢いで言ってしまった部分もあるってことか。


「だったら、今から一切の遠慮はなしで。月詠がしてたみたいにさ。……まあ、朝陽ほどスマートにはいかないかもだけど、最大限応えられるようにはするから」


「月詠がしてたみたいに……か」


 噛み締めるように望月はぽつりと呟く。

 俯きがちになりながら手のひらを胸に当てると、程なくして意を決したように顔を持ち上げた。


「じゃあ、最初のワガママ言っちゃうね」


「っ、……!」


 瞬間、望月の蠱惑的な笑みに心臓が高鳴った。


 ——ああ、これは逆らえないな。


 直感すると同時、望月は目を細めたまま、それを口にした。


「きみのこと……()()()()()って呼ばせて」


「……ん?」

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