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第85話 桃色決闘空間 *

「じゃあな、約束を果たす為にもう行くぞ」


「ああ、もう二度と会うことはないだろうけど、しっかりやってくれよ」


 ヴォルフがこちらに背を向けると、東へ向けてゆっくりと歩き出した。


「タクミ様、にい様は嘘をついています。先程の会話の中で何度もそういう臭いがしました……やはり今のうちに……」


 ルナが僕の耳元に口を寄せ囁いた。


「大丈夫だよ。僕はこの整合スキルを信じている。ルナもヴォルフではなく、僕と僕のスキルを信じてほしい」


 一瞬驚いた表情をしたルナがふわりと微笑む。


「はい! もちろんです!」


「僕らの姿が見えないように、一応木の後ろに隠れていようか。さあ、みんな急いで」

 

 僕、ルナ、美咲さん、メイとラヴィがそそくさと隠れる。


 ゆっくりと歩いていたヴォルフが、おもむろにこちらを振り返る。


「……あ……れ?」


 ぼんやりとした表情のヴォルフが、少しの間をおいて表情を取り戻し、二度、三度と大きく頷いた。


 そして……一切後ろを気にすることなく、森を東へと走りだす。

 

 ヴォルフの姿が目視できなくなるまで隠れ続けたのちに、僕たちも西へと森を進む。ルナがヴォルフの音も匂いも感知できないほど遠ざかった。


「もう大丈夫かな」


「巧君、分からないことだらけだから色々説明お願いね」 

 

 美咲さんの声にルナもコクコクと頷き同調する。


「じゃあちょっとこのアイテムを試してみようか。うまくいけば、これからはいつでも安全な野営ができるはず」


 僕がメイに、ルナと美咲さんにはラヴィに騎乗し、『暗黒決闘の手袋』をそっとルナに放った。 


 ルナが手袋を受け取った途端に、へそから体が裏返るような感覚を味わい、景色が一変する。真の闇と静寂に包まれた空間に全員が立っていた。


「わっ!? 真っ暗!?」


「これは……獣人の夜目をもってしても通常通りの戦闘をこなす程の視認は難しいですね……」


「おっ! やっぱり鑑定の説明通り、ちゃんと騎馬決闘や複数での決闘にも対応できるみたいだね。片方が降参して、相手が受け入れれば無傷で元の世界に戻れるから安心してね」


「こんな中で……あのにい様を屈服させるとは……さすがはタクミ様です」


「この中はアイテムも魔法もスキルも自由に使えるから……美咲さん、ライトの魔法をお願いできる?」


「まかせて! 光よ! 我が頭上に集い、闇を払う灯火となれ!『常光球(ライト・グローブ)』」


 美咲さんの体内の魔力が一気に練り上げられ、界理(ロゴス)を書き換えて僕らの頭上に光を生み出す。


「ついでに皆をきれいにしとこっか。 清らかなる水よ、不浄を払い、真の姿を現せ!『清浄化(クリーン)』」


 微かな水のせせらぎのような音と共に、温かい光の雫が全身を撫でていく。不快な汚れが霧散し、潤いを帯びた肌が露わになった。


「美咲さんありがとう」


「どういたしまして」


 アイテムボックスから水の入った大きなタライと飼い葉を取り出し魔馬達に与える。


 皆が落ち着いたところで暗黒決闘の間に飛ばされてからの詳細を語って聞かせ、新スキル『誓口』の能力についても伝えた。


【誓口】――対象が発した言葉を「言霊(ことだま)」としてお互いの界理(ロゴス)を介して固定し、絶対に違えられぬ「誓約」へと強制変換する能力。魂と記憶に直接刻まれた言葉は、本人の意志に関わらず現実を縛る理となり、記憶さえも塗り替えられる――


「簡単に言うと、口約束を現実のものとして強制する能力だね」


「タクミ様凄いです! ついに精神支配系の能力まで! かなりのレアスキルですよ!」


「……ゼニス王国からの追手のことはもう心配しなくていいってことなの?」


「そうだよ、美咲さん。後はヴォルフが上手いことやってくれるだろうから、もう安心してね。あと少しでフォレル王国からも出る。何の情報もなく国一つ跨いでまで、ヴォルフのような強力な追手が僕らの前に現れる可能性はなくなったはずだよ」

  

 美咲さんが安堵の表情を浮かべ、僕の事をギュッと抱きしめてきた。 


「ありがとう巧君……私のせいで皆が酷い目にあわなくて良かった。みんなが無事で……本当に良かった。……ふふっ、そのスキルで……私の心も支配されちゃうのかな?」


 上目遣いで僕を見る美咲さんの瞳は潤んでいた。


「誓口スキルは約束を守らせるスキルだから……仲間にそんな使い方はしないよ」


「ふふっ、冗談だよ。そんな事しなくても……私は巧君に心底ぞっこんだからね」


 美咲さんと僕の唇が引き合い、そっと合わさった。


「チュッ……巧君……突然消えたから、すっごく心配したんだからね」


「心配かけてごめん」


「タクミ様。私もお姿が消えてから気が気ではありませんでした。なにせ、性格はともあれ相手は強敵。あの(・・)にい様でしたから……」


 横からルナも僕に甘えるように抱きつき耳元で囁く。


「ルナにも心配かけたね」


「ですが……タクミ様がにい様を屈服させて再び現れた時、私は歓喜すると同時にタクミ様の力強さに胸の奥がキュンとしました……群れを危険な敵から守る強いオスの姿……」


 ルナの瞳が陶酔したような怪しい熱をはらんでいた。


「タクミ様……とても素敵でした……」


 ルナが僕の顔をペロペロと舐め始めた。発情期に匹敵する欲情のこもったルナの愛情に僕の方も臨戦態勢を整えていく。


「ちょっとルナちゃん……勝手に始めないでよ……一人だけはずるいじゃない……私も巧君の格好良さに惚れ直しているんだから」


 ぽっと頬を染めた美咲さんもキスの雨を降らせつつ、その白魚のような可憐な手で僕の肌をスリスリと触って来る。


 二人の想いに応えつつ、ルナと僕の野営用のマイベッドをアイテムボックスから取り出し、二つを並べる。どこまでも広がる漆黒の空間の中に、ぽつんと浮かぶ純白のベッド。美咲さんの放つ魔法の光に照らされ、そこだけが艶めいて見えた。


「誰の邪魔も入らないのですから……徹底的に可愛がってくださいね。……決闘の勝ち負けはこれで決めるのでしょうか?」


 完全にルナが捕食者の目になっていた。つられるように美咲さんも嫣然と微笑み、瞳は爛々と輝いている。魔法の光は光量が抑えられ、妖艶な光を放っていた。


 これはまずい……性豪スキルがあるとはいえ、二対一だ。このままでは僕は一方的に受け身になって干からびてしまう。彼女たちにも気持ち良く幸せになってもらいたいのに……


 ルナと美咲さんの胸に触れ、二人の根幹たる界理(ロゴス)と深く繋がりステータス値を操作する。


「「ひぁあぁぁん!?」」


 一瞬にして二人の知覚を上げると、その新鮮な感覚にビクビクと痙攣するルナと美咲さん。


「ちょっ……巧君……不意打ちはだめだよ」

「あ、ありがとう……ございます」 


 頬を上気させ涙目になる美咲さんと、いつもご褒美としておねだりする知覚のアップに対して素直にお礼を言うルナ。


 よしよし。卑怯と言うなかれ。負けられない戦いがそこにある!


 二人が自分の欲求だけでなく僕を喜ばせたいと思っているのと同じように、僕だって彼女たちを喜ばせたいのだ。 


 更に、とある事を思いついた僕は、自分のステータス値も変更することに。


 他を削って知覚と耐久にそれなりのポイントを振り、残りを全て器用に極振りしたのだ。


「ルナ……」


 名を呼び、優しく抱きつつ丁寧にキスをする。


「ん……んむ……ん~~~~!?」


 愛を込めてチュクチュクとルナの口内を攻め続けると、腰砕けとなったルナがビクビクと痙攣し崩れ落ちる。


「うそ!? 体力おばけのルナちゃんが!? 巧君、何をしたの!?」 


「ほら、美咲さんも……」


 ルナの痴態を見てたじたじとなった美咲さんの唇を容赦なく奪い、こちらにも愛を込めて精一杯のおもてなしをする。


「あ、あ……い……い……♡♡♡♡♡」








 

「ふぁ〜、太陽が眩しいなぁ」


『暗黒決闘空間』改め『桃色決闘空間』で一晩過ごし、無事に? 生還した僕たち一行は、緑豊かな森の中から木漏れ日の温もりを感じリラックスしていた。


「もう……巧君! 何なのよあれは……乙女の尊厳が……」

「二人がかりで精一杯ご奉仕したのに負けっぱなしでしたね……」


 あそこはいいとこだったなぁ……宿と違って誰にも声を聞かれる心配もないので、二人の可愛らしい声も遠慮なく聞かせてもらえましたし……


 でも……二人の巻き返しがとんでもなかったから……性豪スキルがなかったら……ヤバかったね。


「ちょっと巧君! 聞いてるの?」

「性豪のタクミ様相手に二人では……やはりこれは群れ(ハーレム)の拡充を急がなければなりませんね」


 !?


 外敵から身を守るために群れ(ハーレム)を形成するという話が、いつの間にか男と女の桃色決闘の勝ち負けの話に変わってる!?


 今でも辛勝だったというのに……不満気なルナの雰囲気をなんとなく感じ取ってしまった僕は、聞こえなかったことにしてヒラリとメイに跨る。


「さあ、先を急ごうか。後数日で国境だよね?」


「そうですね。行きましょう」


「後ちょっとで完全に自由だね! そうしたら旅ももっと楽しめるかな」


 僕の差し出した手を掴んだルナが、器用に滑り込んでメイに座った。後ろから僕の腰に回されたルナの腕、そして豊かな双丘と心地よい体温を背中に感じる。美咲さんもラヴィに乗ると、手綱を引いて並び立つ。


 振り返れば、暗闇の世界から始まった僕の旅は、いつの間にかこんなにも温かい光に満ちていた。


 美しい森に響く二頭の魔馬が刻む軽快な蹄の音。


 僕たちはまだ見ぬフォレル王国の先、無限に広がる西の空を目指して、笑顔で新天地へと駆け出していった。





 ―― 第一部 完 ――


巧と美咲はゼニス王国からの完全な自由を手に入れ、ルナは一族の呪縛から解き放たれ心のままに愛に生きる事ができるようになりました。


時間はかかってしまいましたが、なんとか第一部完結まで執筆する事ができました。ここまでこれたのも読者の皆様の温かい応援のお陰です。


心より感謝申し上げますm(_ _)m


巧達の冒険はまだまだ続きますが、作者の本業の方の忙しさによる執筆時間の減少と、他にも書きたい物語がいくつかありまして、それに脳のリソースを大幅に奪われているという問題により、ひとまずWEBでの連載は第一部完結までとさせていただきます。


よろしければ完結記念として星レビューを評価していただけますと、とても嬉しく思います。星は1〜5までいくつでもよいので感じたままに付けていただければ幸いです。


このまま下部の☆☆☆☆☆をタップすると評価できます。星1個でも十分嬉しいので、是非お願いします(*´∀`*)


また、栞がわりのブックマークも評価の対象となりますので、外さずにそのまま残していただけますと作者としてはとてもありがたいのでよろしくお願いします。


作者のお気に入り登録をしていただけますと次回作の発表時に通知が参りますので、本作が面白いと思っていただけましたら、この機会に作者のお気に入り登録もお願いしたいと思います。


お願いばかりになってしまいましたが、ここまでお読みいただいた皆様、本当にありがとうございました。


それでは次回作でお会いできるのを楽しみにしております。


 2026年5月24日 


 大木げん拝

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― 新着の感想 ―
Web版ラスト更新お疲れ様です。 良い意味で「俺たちの戦いはこれからだ!」エンドですね。まぁ戦いは昼と夜の二重なんでしょうけどww それでは今日はこの辺りで失礼致します。此処までの執筆、お疲れ様で…
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