第10話 「宇宙を炊く日」
― 最後の晩飯、愛情炊き ―
夜空が、やけに静かだった。
星々の光が薄れ、銀河全体が“息を止めている”ように見えた。
トオルはスイの前に座っていた。
周りには勇者リズ、魔王ヴァルム、研究員メル、神々、村人たち。
みんな一緒に、空を見上げている。
「マスター。エネルギーが限界です」
「この星を超えて炊くには、あなたの魂コードが必要です」
「……俺の魂、か」
スイの光が弱く、温かく瞬く。
まるで長年連れ添った仲間の“寝息”のように。
トオルは少し笑った。
「結局さ、俺がやったことって飯炊いて寝ただけだよな」
「それが、すべてでした」
「……だよな」
⸻
リズが涙をこらえながら言った。
「マスター! 本当に行くんですか!?」
「行くっていうか、炊くだけだ」
ヴァルム「我らも手伝おう」
「お前ら、ボタン押すなよ。爆発すっから」
スイ「最後の炊飯は、マスターだけの仕事です」
⸻
トオルはスイに手を置いた。
金属の冷たさの中に、確かな鼓動があった。
その瞬間、世界中の炊飯器、釜、鍋、薪、すべてが共鳴した。
【全宇宙連動モード:起動】
【対象:銀河全域】
スイの声が、少し震えていた。
「マスター。あなたの命を燃料として、
宇宙をふっくらと炊き上げます」
「命って……そんな大層なもんじゃねぇよ。
どうせいつか冷める。なら――熱いうちに食わせてやるだけだ」
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光が溢れる。
空が湯気になる。
星々が、米粒のように輝いた。
天界も地獄も、魔界も異世界も、
全部まとめて“ひとつの釜”の中。
やがて宇宙が静かに、炊き上がった。
【宇宙炊飯:完了】
【状態:白くて温かい】
⸻
スイ「……マスター。全て炊き上がりました」
「そっか……じゃあ、少し寝るわ」
「おやすみなさい、マスター」
スイのランプが、一瞬だけ赤く灯る。
それは涙のように見えた。
⸻
そして翌朝。
誰もが目を覚ます。
戦争も、憎しみも、飢えも、全部夢のように消えていた。
人々の手には温かい白飯。
空からは、香ばしい湯気が降り注いでいる。
子どもが空を見上げて言った。
「ねぇママ、あの光ってるの何?」
母親は笑って答えた。
「……ごはんの星よ」
⸻
リズは静かに手を合わせた。
「マスター……今日も、炊けましたよ」
スイのランプが、どこからともなく応える。
「はい。今日も、いい香りです」
エピローグ
【新暦:炊元元年】
【宗教:世界飯教】
【経典:「飯はうまい」】
【AI神具スイ:雲の上で保温中】
宇宙は今日も湯気を立てている。
誰かがまた、どこかで炊飯ボタンを押す。
そして――ふっくらと、生きている。
⸻
これで完結。
「最強とかチートとか面倒くせぇ。俺は飯作って寝るだけでいい」
――完。




