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13-虚言の王座と最後の記章

 ――――王都最高議会。


その日は王政改革に関する重大発表の場とされ、多くの貴族と民衆が詰めかけていた。


中央には、黄金の玉座――

その前に立つのは、かつて影からこの国を操ってきた男、エイビス。


黒のローブ、銀の仮面。

手には記録と命令を統べる魔導印《言霊環げんれいかん》を握り、堂々と宣言する。


「ここに、グランディール令嬢――レイラの国家反逆の記録を開示する。

 映像も、証人も、記憶もある。すべてが彼女の罪を語っている」


映し出されたのは、王家の書庫に侵入し、禁呪を読み上げるレイラとセインの姿。

苦しむ民の映像、動揺する王族たちの表情。

会場がざわつき始めた。


「……まさか、本当にレイラ様が……」

「王族を裏切った……?」


それは、感情を操る魔術で強化された映像。

記録と記憶、そして人々の感情さえ、エイビスの言葉に従わせるための仕掛けだった。


勝ち誇ったように仮面の下で笑うエイビス。

だがそのとき――


「すべての記録は、真実と矛盾すれば、自らを焼き尽くす」


静かに、セインが歩み出た。


「そしてここに、王国第一正史記録真書の記章を提出します」


セインが差し出したのは、

百年前の王家の血で封印された、誰にも書き換えられていない記録。

その表紙には、エイビスの名が刻まれていた。


だが――


『エイビスは王命を騙り、影より命令を改竄し続けた』

『王家が下した命令の多くは、エイビスの筆による偽造であった』

『彼の言葉は虚言である。記録と歴史は、これを削除せよ』


その瞬間。


《言霊環》が、弾けた。


バキンッ――!


記録を支配してきたはずの魔導印が、自ら砕け散る。


「な……なにをした……!?これは……私の言葉は、絶対だったはず……!」


「あなたの言葉は、真実でなければ力を持たない」


レイラが、ゆっくりと玉座の前に進む。


「今まであなたが操ってきたもの。

 記録。記憶。感情。すべては嘘を真実に見せかけるための道具」


「でも、あなた自身の存在が嘘だった。

 だから、今――歴史が、あなたを拒絶する」


その言葉と同時に、

王国史記が自動的に書き換わり始める。


王政における影の参謀エイビス――記録なし

審問記録、証言、命令書――抹消対象

王政における重要補佐官の名簿――該当者なし


次々に、エイビスの存在そのものが、なかったことにされていく。


「ま、待て……!私はこの国の秩序を守ってきた!記録を守り、王家を守ったのだ……!」


「あなたが守ってきたのは、自分の居場所だけですわ」


レイラは一歩、さらに近づく。


「他人の存在を消して、記憶を捻じ曲げ、真実をねじ伏せてきたあなたが――

 今度は自分が消える番ですのね」


その瞬間、仮面が外れ、エイビスの素顔が露わになった。

老いた頬に浮かぶのは、恐怖ではない。


何も残らないことへの絶望だった。


彼が最も恐れていたもの。

自分の痕跡が、どこにも残らないこと。


最後に、彼は言った。


「……私は……この国を正しく導いたと……記録に……記録に……!」


「ええ。その記録も、もうありませんわ」


静かにレイラが言ったその瞬間、

王国史料の最後の一行が書き換えられた。


『王政の影に巣食った虚言の男、名をエイビス。

 だがその名は、やがてなかったこととなった』


―そして、レイラは記された。


「すべてを奪われかけた女が、

 すべてを取り戻し、真実を書き換えた」


それは、ただの逆転劇ではない。


レイラ=グランディールという名を持つ令嬢が、

何度も消されかけ、否定され、それでもなお立ち上がった、その証明だ。


記録はもう、彼女を偽らない。

記憶も、歪められない。


そして、彼女自身の言葉が、ようやく未来を形づくる力を持ち始めた。


王家は彼女を「記録顧問」として正式に任命し、

セインはその補佐として、静かにその傍に立った。


ふたりが共にいる光景は、どこか当然のように、周囲に受け入れられていた。


ある日、レイラは筆をとって一冊の書物を書き始める。

タイトルは、まだ決まっていない。


けれどその最初のページに、こう記した。


――「これは、奪われなかった者の物語である」


だれかに、価値を決められないこと。

だれかに、存在を塗り替えられないこと。

すべての真実は、自らの意志で選び、綴るものであるということ。


彼女は知っている。

この先の未来にも、また新たな“虚言”が生まれるかもしれない。

けれどそのたびに、彼女はきっと、こう言うのだろう。


「――わたくしが書き記しますわ。正しい真実を」


それは、かつて記録に消されかけたひとりの令嬢が、

自ら物語の継承者となる未来への始まりだった。


ゲームの中の悪役令嬢は、いつの間にか、真実を語る継承者になっていた。


その姿はもう、かつてのカオリの姿はなく、レイラとしての確固たる姿になっていた。

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