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魔女と呼ばれるまで  作者: 葉山麻代
本編

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14/21

ターニングポイント

「お父さん、今日はお仕事行かないで、お家にいて」

「え、アオイ、それは無理だよ。父さん仕事しないと」

「お母さん、お父さんを止めて」

「アオイ、何が見えたの?」

「良くわからないけど、お父さんが倒れてる。何処も行かないでお家にいて」


 アオイにはわからない場所で、状況が理解できない状態で、ボロボロの父が倒れ込む姿が見えたのだ。


「今日は都内の会社に招かれているから、倒れ込むような所には行かないよ。アオイ大丈夫だよ」

「お父さん、白っぽい部屋に入っちゃ駄目だよ」

「わかった。白っぽい部屋には、入らないよ」


 アオイに止められたが、郁夫は稼がなくてはならないので、仕事に出かけた。

 部屋で倒れるパターンを想像し、ガス中毒や、白い部屋といえば病院だろうかと考え、それらを避けようと考えていた。


 仕事相手に、食品工場を案内され、ガスも使っているし、割りと壁が白いため、怖々と緊張していたが、一通り見学が無事に終わり、喫煙者と共に、休憩室で休むことになった。その道すがら、半開きになっている倉庫を見かけたのだ。


「あの倉庫、なんで開いてんだ?」

「ちょっと見てくるか」


 倉庫なら壁も白くないだろうし、ガスもないだろうと考え、一緒についていったのだ。

 同行者は、たばこを咥えたままだった。


「何の倉庫だ?」


 案内人の次に郁夫が覗き、真っ暗な中に入った。外の明るさのせいで、中は真っ暗に見えていたが、目が慣れてくると、粉が舞っているのがわかった。あ!白い部屋!と思った時には遅かった。同行者が後ろから覗き込み、大爆発をして、倉庫の扉ごと吹っ飛ばされた。粉塵爆発をしたようだ。


 郁夫は、すぐに病院に運ばれたが、内蔵まで到達する怪我の他に、目と耳をやられ、仕事も駄目になり、その入院費すら払えない状況になってしまった。


 母の真子は、幼い子供と看病する夫がいて働けないと言い、花守家で入院費を捻出するには、アオイがテレビに出るしかなかった。


「お母さん、私、頑張る」

「アオイ、ごめんね。守ってやれなくて、ごめんね」

「でも、大人の人と話すのは、お願い」

「勿論よ」


 母が出演交渉し、アオイはテレビ番組に呼ばれた。


 アオイは、全出演者の手を触り、なるべく喜ばしいことを伝えたが、それではテレビ映えしないと怒られ、再び全員の手を触ることになった。

 それでも、緊急性の有るものは見えず、スタッフも全員触ることになり、やっと1人、怪我をする恐れのある人がいた。


「あのお兄さん、夜、頭から血が出てる」

「お!そうか! 良くやった。もう少し詳しく話してくれ」

「ビールかなぁ? 茶色い瓶で、怪我すると思う」

「そうか。そうか。他には何か見えないのか?」

「うん。それだけ」


 そしてテレビ番組は、当人に教えること無く、追跡取材をし、そのスタッフが酔っぱらいと喧嘩をしてビール瓶で殴られ流血するところまでをフィルムに納めてきたのだ。


 アオイは、何ヵ所かの番組に呼ばれたが、いずれも、不幸な予言しか取り上げてもらえず、不幸を予言する不気味な少女として、有名になっていった。


 アオイの頑張りは、家族が生活するには充分な収入になり、父の病院代も余裕で支払うことができ、少し贅沢もできた。

 しかし、もうすぐ卒園にも関わらず、アオイは、幼稚園の卒園式すらまともに出席出来なかった。


 何とか小学校へ入学するも、たまに学校へ行けば、不気味な予言をすると言われ、回りから避けられ、誰も友達になってくれず、学校へ行くのが苦痛だった。


「学校に行きたくない」

「何言っているの。ただでさえなかなか行けないんだから、行けるときに行かなかったら、いつ行くのよ?」


 アオイの母は、幼い息子の養育と、夫の看病で、精神的に目一杯で、アオイの心情まで気が回っていなかった。大金を稼いでくる健康な娘について、心配する必要性を全く感じていなかった。


 1年も経つと、だんだん雑誌にもテレビにも呼ばれなくなり、少し贅沢を覚えてしまった花守家の家計は、火の車になっていった。


「あなたがもっと良いことを言っていれば、不気味だなんて言われなかったのに」


 アオイは常に良いことを伝えていた。放送に一切使われなかったのだ。8歳の誕生日は忘れられ、それでもアオイは頑張った。それなのに、母に理解してもらえていなかった。


「私はどうしたら良かったのよ!? お母さんなんて、大嫌い!!」


 アオイは感情を爆発させた。すると、弟のツカサが泣き出し、母はアオイに返事すらすること無く、ツカサをあやし始めた。


 アオイは家を飛び出し、行く宛もなく、公園のブランコを1人寂しく漕いでいた。


「もしかして、アオイちゃんかい?」


 アオイに声をかけたのは、幼稚園のそばに有った大きな組の(あね)さんだった。


「お花のお姉さん」

「こんなところに1人でどうしたんだい?」

日も暮れて、辺りは真っ暗なのだ。

「お母さんと、喧嘩……すらしてもらえなかった。うわーん」


 アオイが泣き出し、(あね)さんは、アオイが泣き止むまでそばにいてくれた。そして、アオイが辛かったことを話すと、(あね)さんは、全面的にアオイの味方をしてくれた。


「そうか。アオイちゃんのお母上も大変なんだろうが、娘の話も聞かないのは、いただけないね」

「もうおうちに帰りたくない」

「そりゃ困ったね。落ち着くまで、うちに来るかい?」

「いいの? お姉さんは、私が不気味じゃないの?」

「センシティブなのは、アオイちゃんの長所だよ」

「せんしてぃぶ?」

「繊細とか、敏感とかそんな意味だね」

「お姉さん、ありがとう!」


 やっとアオイが笑顔になった。


 (あね)さんは、アオイを連れ帰り、花守家には電話を入れた。


(わたくし)午時(ごじ)と申します。お宅のアオイちゃんを、暫く預かる所存でございます。こちらの電話番号は○○○-○○○○、住所は○○区○○町○-○番地です。落ち着いたら帰るよう声をかけますんで、ご心配なさらずお過ごしください」

「は? あなた、何言ってるんですか? アオイを出してください」

「アオイちゃん、お母上が電話口に呼んでるよ」


  (「やだ!) (出たくない」)


 真子は気がついた。お母上なんて言葉遣いをする人物は、1人しか心当たりがない。それに、アオイの拒絶の声が遠くに聞こえる。


「すまないね。お嬢さんは電話に出たくないようだ」

「大変申し訳有りません。アオイをよろしくお願いします」

「あいわかった。落ち着いたら電話をするように伝えます」

「よろしくお願いします」


 真子は絶望した。なんたってアオイは、ヤクザの家になんて行ったんだろう? 私への当て付けなのだろうか? 

 生活にいっぱいいっぱいだった真子は、結局何処までもアオイの心情には、無頓着だったのだ。

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