マスコミの罠
「お母さん、幼稚園で作ったー」
アオイが持ち帰ったのは、桜の塩漬けののった蒸しパンだった。
「作ったの?」
「うん!」
「凄いわね」
「えーとね、みんなで水と卵と小麦粉を混ぜてね、先生が蒸してくれたの。みんなでお花を飾ったんだよ」
一緒に渡された手紙を読んでみると、園の名前は、入り口に有る大きな八重桜からとったらしく、その八重桜の品種が、「関山」というそうだ。その花を塩漬けにして、毎年年長さんが蒸しパンを作っているようだ。
「食べれるお花すごいね」
「そうね。食べられるお花って、桜と菊くらいしか知らないわね」
アオイと楽しく話していると、電話が掛かってきた。母親が出てみると、なんとテレビ局からで、超能力少女として番組に出てみないか?という出演依頼だった。
どこからそんな話を聞いたのか質問すると、どうやら、橘幸夫の知り合いからの推薦らしい。
その時たまたま当たっただけで、まぐれだったと説明し、この電話では諦めたようだった。
世の中では、スプーンを曲げるマジックを超能力と言い張るのが流行っていて、テレビ局は、いっそ本物を探そうと考えたらしい。
しばらくして、幼稚園に突撃取材が来た。
園長はアオイを守ってくれたが、職員の1人がポロっと喋ってしまったらしい。
「スプーン曲げなんかより凄いじゃないか!」
「未来を見定める奇跡の少女降臨てか?」
「どの子なんですか?」
園庭から、教室に乗り込んでくる勢いだった。
「お前たち、何をしているんだ! 立ち入りの許可は出していないぞ!!」
カメラやマイクを持ったテレビ局のスタッフを、園長は追い出した。
「超能力少女を隠すのか!」
「そんな子供は居ない!!」
「そちらの職員から聞きましたよ。未来を言い当て、人を救ったって。美談じゃないですか。なんで隠すんですか」
「偶然が重なって、勘違いした者がいたのだろう。そんな事実はない。帰ってくれ! 子供たちが怖がっている」
とりあえずは、幼稚園の敷地からは出ていってくれたが、門の外に待機しているようだった。
園長は花守家に電話をかけ、状況を説明し、自宅でも注意して欲しいと告げた。
電話が終わったと同時に、アオイが園長室を訪ねてきた。
「園長先生、私のせいでごめんなさい」
職員室と繋がる開けっぱなしの入り口から、アオイは頭を下げた。
「アオイちゃん、アオイちゃんはなんで謝るのかな? 何か悪いことをしたの?」
「してないと思う」
「だったら、謝る必要はないんだよ。でも、怖かったね。幼稚園にいるときは、先生たちみんなで守るから安心してね」
「園長先生、ありがとございます」
泣きそうだったアオイが笑顔になった。
「必ず、知っている大人と一緒にいるようにするんだよ?」
「はい」
アオイは教室に帰り、平和に過ごした。そして事件は、帰りのバスに乗り込むときに起きた。
「あおいちゃん!」
誰かからの声かけに、ほぼ全員が振り向いたが、いち早く、アオイが振り向いてしまったのだ。
「あの子だ!」
パシャパシャと写真を撮られ、週刊誌に友達ごと載ってしまった。
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奇跡の少女!
知人の危機を予言!
○○市に住む花守 葵ちゃん6歳は、父親の友人の危機を見事言い当て、死亡事故を防いだ。列車事故を予言し知人を助けたこともあり、現在通う幼稚園でも、職員の家族の危機を察知し、死亡事故を未然に防いだ。
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有ること無いことを書かれ、一躍有名人になってしまい、見知らぬ人々がやってくるようになった。
とにかく断り、だんまりを決め込み、徹底的に無視した。それでもマスコミの取材は後を絶えない。そのうち雑誌を見た一般人もやってくる。そういった輩は徹底的に追い返した。
両親は幼稚園を休ませ、アオイに家から出ないように言い、暫くは安全に過ごせていたが、父が断れない仕事上の付き合いの相手から頼まれ、その相手を家に招いた。
「アオイ、この人は、父さんの仕事を応援してくれる人なんだ。手を繋いでみてくれないか?」
「うん。わかったー」
事前に母と相談し、色々試した結果、アオイは左手のひらで触る。相手も左手のひらだと、色々見えて、左手の甲だと少ししか見えないとわかり、右手を下に、左手を上にして机の上で重ねてもらい、その上からアオイも手を組んで触る形にした。
「手を机にのせて重ねてね」
「おおぅ。こうか?」
「うん。触るよー」
アオイが、相手の左手の甲の上に左手を重ねた。
割りと平和な日常が見える。感情を大きく揺らすようなものは見えない。
「おじさんのお家って、大きな犬が2匹いて、髪の毛の長い女の人がいる? その人に綺麗なお花とケーキを渡すと、凄く喜ぶと思う」
「ん? うちの家内の事か?」
「かないってなあに?」
「えーと、妻の事だよ」
アオイに通じなくて、父が口を挟んだ。
「アオイ、アオイのお母さんは、父さんから見たら、妻なんだよ」
「わかったー」
「ん、ちょっと待てよ? あー! 今日、家内の誕生日だ!」
「これで良い?」
「アオイちゃん、どうもありがとう! 助かったよ」
父の仕事先の偉い人は、上機嫌で帰っていった。
こうして、新しい仕事を始めたばかりの父は、断りきれない相手をたまに連れてくるようになった。




