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キタカゼ Nordvento
不眠に悩んでいると、北風が頭を丸めた姿でとつぜん訪ねてきた。
――あなたがお探しの猫を見つけることができませんでした、この上はこれから南方に赴き波の数をかぞえて一生を過ごすつもりです。
そんなふうに詫びる。
猫なぞ飼ったことはないがこちらも難しい顔をつくり、容易には赦さんぞという雰囲気を出す。無言で対峙したまま七日が過ぎた。
どの風かは知らぬが軽く窓をたたいて、もうそのへんにせよと促す。
寝不足の頭にふと思い浮かんだ。
北風が猫と呼んでいるのは、ずいぶん前からわたしの心に見かけなくなった「憧れ」のことではなかろうか?
たしかめようと身を乗りだすと、もう北風はいない。退屈しのぎにわたしをからかっただけらしい。
それ以来街を歩くと薄暗がりに憧れが潜むように思えてしまう。
そして他にもいろいろ心から去ったものがありそうで、確認しはじめると眠るひまがない。
Fino