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チートな俺が、チープなあたしに変わったら、くすぐりに悩まされる日々が待っていました  作者: 広瀬みつか


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59.試練の開始、絶対に…

 もうそろそろ昼頃だろうか。

 空に厚く黒い雲が覆い始めてきた。最近晴れてばかりで、日光に慣れきっていないミユウにはちょうどいい。

 そんな中、ミユウとサヤは鎖で両手を拘束されていた。

 彼女たちはシュナを取り返すために彼女の所属していた“赤狼の牙”に乗り込んだ。

 そして彼らの頭領ヤグラと交渉した結果、二人が三時間ヤグラからの拷問を耐え抜くことができたらシュナを返してもらえることになった。

 まず身に着けていた服をすべて脱がされ、下着姿にされた。

 “拷問を受けるんじゃったら、裸になるんが当たり前じゃろう”と訳の分からない理屈を言われた。

 最初に反抗したが、“脱がんかったら今回のことはなしじゃ”と言われて仕方なくその指示に従うことにした。

 そして、両手に鎖のついた手錠を付けられて、鎖の真ん中を近くにある木に杭で打ち付けられた。

 せめての配慮として、男メンバーたちが覗かないように周りに幕を張って周囲を女メンバーが見回りをしてくれる。立ち合いをするのもヤグラとシュナの二人だけだ。

 正直、冷酷なのか優しいのかまったくわからない。

「そんじゃ説明するで。外で見張っとるもんに午後二時になったら、声をかけてもらう。それを合図におまんらへの拷問を始める。そんで五時になったら、外から声をかけてもらう。それまでにおまんらのどちらかが『シュナのことを諦める』と言うたらうちの勝ち、シュナのことを諦めてもらう。声をかけられるまで言わんかったらおまんらの勝ち、シュナをおまんらに譲る。それでええのう」

 ヤグラの問いかけに首を縦に振り、同意の意思を伝える。

「ええ目つきじゃ」

 ヤグラは懐から懐中時計を出し、時間を確認する。

「まだ時間があるようじゃ。よし、おまんらにも心ん準備が必要じゃろう。うちは不届きもんが居らんか見に行くけん、準備しときや。シュナも話があるんじゃったらすましとき」

「はい」

 そういうと、ヤグラは幕をめくり外へ出ていった。

 彼女が出ていくのを確認すると、シュナはその場で腰を抜かすように崩れ落ちた。

「シュナさん、さっきのことなんだけど、本当はあたしたちと一緒に居たいんだよね。そういうことでいいんだよね」

「今はヤグラがいないんだから、本当のこと言ってもいいんだよ」

「……」

 ミユウたちの問いにシュナは答えないどころか、目すら合わせない。

 シュナが何を考えているのか、読み取ることができない。それが少し心もとなく思える。

 その後何度も話しかけても返事がない。仕方なく隣に拘束されているサヤに小声で話しかける。

「怒ってるのかな?」

「それもそうだよ。さっきシュナさんに『バカ』なんて言ったから」

「え~。そんなことで怒るかな?ねえ、謝った方がいいかな?」

「う~ん。でも、違う理由で怒ってるかもしれないし、そうだったら変に謝るとより怒らせちゃうかもしれない」

「じゃあ、どうすればいいの?シュナと気まずい状態で拷問とか受けたくないよ」

「まあそれは後でもいいんじゃない。そんなことより、あたしの心配はこの後の拷問だよ。にぃにと違ってあたしは慣れてないから」

「いや、あたしだって慣れてないよ」

「どうしよう。三時間耐えられるかな。にぃにが受けてたあの板に挟まれるやつ、あれきつそうだな。ねえ、耐える秘訣って何?」

「だから、慣れているみたいに言わないで!……でもそうだね。何も考えないことかな?変にいろんなこと考えちゃうと精神が先にやられちゃうからね」

「さすがにぃにだね。伊達に拷問を受け続けてないね」

「だーかーらー!もういいよ。でも大丈夫でしょ。あたしたちは痛みや苦しみに耐性があるんだし、手足を引きちぎられてもまた治るんだし」

「だよね。その分あたしたちは得してるのかもね。けど、くすぐり責めにされたら耐えられないかも」

「確かにくすぐり責めにされたら三時間は厳しいかな」


 そんな話をしていると、ヤグラが幕をめくり入ってきた。

 どうやらもうそろそろ時間になるのだろう。

「ようシュナ、話しできたか?って、そんなとこでムスッとした顔で座っとるん?喧嘩でもしたんか?」

「なんでもないです……」

 シュナの機嫌が悪いというミユウたちの予想は当たっているようだ。

「まあええわ。そんで、そっちはどうじゃ?」

「準備は出来てるよ。どんな拷問にだって耐え抜いてみせるんだから!」

「にぃに、お願いだからあまりあおらないで……」

「ほう、妹さんはそうでもないようじゃが、姉貴の方は自信満々じゃのう。これは手ごわそうじゃ。あの算盤板責めが効かんとなると、どう責めればええんじゃろうか?」

 やはり思った通り、責め方に悩んでいるようだ。これだったら、なんとかなるかもしれない。

「のうシュナ、こいつらの弱点知っとるか?」

(いやいや、シュナがあたしたちの弱点をいう訳ないでしょ)

「こしょばしです」

 …………。

「ちょっとシュナ!何でいうの!」

「すまん。これも君らのためなんじゃ……」

「ぬぬぬ……」

 もしかして自分を諦めさせるためにわざとそんなことを……。いや、さっき「バカ」だと言った腹いせかもしれない。

 その情報を手に入れたヤグラはニヤッと笑う。

「ほう、これはええことを聞いたで。くすぐり責めとは全く発想がなかったのう。これは楽しみじゃ。ふふふ……」

「ひぃ!そ、それはその……嘘だよ!あたしがくすぐりに弱いわけないじゃん!あはは……」

「にぃに、もう手遅れだよ……」

「う!あの~、やっぱり今日はやめに……」

「ヤグラさん!時間です!」

 ミユウの提案の声は、女メンバーの拷問開始の合図の声にむなしくかき消された。

「よ~し、まずどっちから受けたい?」

「ねえサヤ、先に受けてみたらどう?」

「あ、ずるい!さっきまで“拷問なんてどんとこい!”と言ってたじゃん!」

「そんなこと一言も言ってないわ!ほら、何事も経験だからさ」

「こんな経験なんていらないよ!」

「あ~、面倒じゃのう。わかった。ここは年上先行で姉の方からじゃ」

 ヤグラは標的を見つけた獣のような目線でミユウを見つめながら、近づいてくる。

「待って!まだ心の準備が……」

「おまんさっき“心の準備は出来ている”というとったじゃないか。安心せえ。こう見えても、うちのこしょばしの技術は天下一品と言われとるんよ」

「誰に言われたの?!というか、全然安心できないんだけど!」

 ヤグラがどんどん両手をワキワキしながら近づく。

 逃げたいが、まったく動けない。辛うじて動く足をじたばたさせて抵抗する。

 その足の上にヤグラは腰を下ろして固定する。

「お願い!やめて!」

「それじゃったらシュナのこと諦めるか?」

「それは……無理」

 確かにここでシュナを諦めれば、くすぐり責めを避けることができるかもしれない。

 けど、シュナとこれから旅をするためにも挫けるわけにはいかない。

 まあ、これだけ追い詰められた状況にあるのは半分シュナのせいだけど……。

「それじゃ覚悟きめえや」

「や、やめ、あ、あああああああああははははははははははは!」

 ヤグラの細い指先がミユウの上半身を襲う。

 なるほど。“くすぐりの技術は天下一品”というのもあながち間違いではないようだ。本当に誰が言ったか分からないけど……。

「お、思った以上じゃな。シュナから言われたときはまさかと思っとったけんど、ここまで弱いとは」

「そう、お、思うんだったら、や、やめ、あははははははは!」

「あほう。ここでやめたら意味ないじゃろう。まあ、シュナのことを諦めるんじゃったら今すぐやめちゃる」

「ぜ、絶対に、諦め、あ、あはははははははは!」

 ヤグラのくすぐりの手は力抜くことなく、三十分続けられる。


「そういや、妹さんを放っておくんもかわいそうじゃのう」

 くすぐられているミユウを他人事のように眺めていたサヤを、ヤグラを眺めながらそう言った。

「ひい!お、お構いなく!あたしは、見ているだけでいいから」

「あはははははは!ひ、卑怯なあははは、しゃ、しゃっき、あたひだけに、ふ、負担をかけたくないって、言ってたのにいいいいやはははははは!」

「そんなこと言ってないもん」

(く、裏切りやがって!こうなったら……)

「いひひひ、シャヤは、わ、両脇腹が、よ、弱いんだあははははははは!」

「にぃに!それ言っちゃ……あ」

 ミユウの告白にヤグラの目がキランと輝く。

「ほう、そういわれたら試さんとのう」

 ヤグラはミユウへのくすぐり責めをやめ、足の上から腰を上げる。

(やっと休憩することができる。サヤを犠牲にして……)

「あたしはもっと後でいいから!待ってよ!」

「いやいや、こういうんは姉妹平等にせんとなあ」

「でも、このままにぃにを責めていた方が効率いいかもしれないし」

(なんてことを言う!一緒に拷問をうけてくれると言ったときの感動を返してほしい)

「安心しいや。姉さん、いや兄さんか?このまんま休ませるわけないじゃろう」

「え?」

「シュナ、うちは妹さんの方をやるけん、おまんはそっちを頼むわ」

 突然声を掛けられ、しっぽを立てて驚くシュナ。

「な、なんでボクが?!」

「何言いよる。おまんは今うちの配下なんじゃ。うちの命令に従うんは当たり前じゃろ」

「う~~」

 シュナが不満そうな表情でミユウを見つめ、しぶしぶ腰を上げる。

「ねえシュナ、うそでしょ?あ、そうか!あたしを助けてくれるんだ!この手錠を外して、ってなんであたしに背を向けて座るの?そして、あたしの左足を抱えてるの?ま、まさか……」

「ミユウ、すまん!」

「あ、あ、ぎゃあああああああああああああはははははははははははは!」

 シュナの右手の人差し指で、左の足の裏をくすぐられる。

 細く鋭い爪が魔術印を刺激し、強烈なくすぐったさが襲う。

「シュナあああああああ!あ、あとで、覚えて、おきなさい!宿に戻ったら、耳もモフモフの、刑だあはははははははは!」

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