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チートな俺が、チープなあたしに変わったら、くすぐりに悩まされる日々が待っていました  作者: 広瀬みつか


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58.取り返す、そのために…

 光が遮る森深く、ミユウとサヤは盗賊集団“赤狼の牙”のメンバーと戦闘していた。

 いや、“戦闘”という言葉は正しくない。ほとんど一方的に彼らを蹴散らしていったという方がいいだろう。

 彼らは見るからに武器と防具を物々しく身につけていた。しかし、肝心の腕は大したことはない。

 攻撃を軽く避けて一撃を加えるだけで倒れてくれるのだから、こんな簡単な作業はない。

 もちろん全力で拳をぶつけているわけではないので、誰一人死んではいない。その手加減をしながら多人数と戦うのはとても難しい。

「ねえ。本当ににぃにはこんなのに捕まったの?めっちゃ弱くない?」

「あの時はティークにくすぐられた後だったから疲れていたの。だから油断してしまっただけで……」

「またそうやって言い訳する。そんなんだからすぐに捕まっちゃうんだよ」

「う、うるさい!そういうサヤも弱くなってるんじゃない?一人倒すのに時間がかかっているみたいだけど?」

「あたしは余裕をもって戦っているだけだもん。なんだかここで全力を出すのって恥ずかしいじゃん」

「ふ~ん。随分えらくなったもんだ。それじゃ何人倒せるかここで勝負しようよ。今あたしが三六で、サヤが三十だからあたしの勝ちだね」

「あ、ずるい!それだったらあたしもこれから本気でやる!」

 こんな話をしている間にも敵は襲いかかってくるけど、軽くあしらうように倒していく。

 そんなミユウたちの戦闘を森の陰から見守る少女がいる。アストリアだ。

 彼女はもともと戦闘向きではない。なので、前線を避けて後方でミユウたちを支援している。

 もちろんバレないように認識阻害をしている。

 しかし、怪我を負うような危機は一切なかったため、ほとんど何もせず見守っている状態だった。


 一人ひとり着実に遊び感覚で倒しているそんな中、森の中から一人の少年が駆け寄ってきた。

 全身傷だらけで、身に着けている服や防具はボロボロになっていた。

「あ!さっきあたしが逃がした……」

「もうサヤ、何してるの?倒すんだったら、しっかり倒さないと」

「違うよ!ちょっと油断していて」

「サヤも人のこと言えないじゃん。仕方ないな。ここはあたしが……」

 その少年の腹部に向けて、拳撃を加えようとしたその瞬間だ。

「待ってくれ!俺は戦う気はない!頭に言われて、案内しに来ただけだ!」

 その言葉を聞いたとき、ミユウの拳は直前のところで止まる。ミユウたちと戦っていたメンバーたちも動きを止める。

「頭?もしかして、にぃにを殺した“ヤグラ”って人のこと?」

「そうだ。頭に“あんたらを自分のところに連れてこい”と言われて。だから、俺について来てくれ」

 ミユウとサヤは顔を見合わせる。

「どうする?もしかしたら罠かもしれないよ?」

「そうかもしれない。けど、ついていけばシュナに会えるかもしれない」

「それもそうだ。このまま戦い続けても、時間の無駄だろうし」

 ミユウはさりげなくアストリアが隠れているであろう方向に目線で合図を送った。なんとなくアストリアも賛成している気がする。

「それじゃ、案内よろしく」

「ああ、わかった」

 ミユウたちが少年の案内に従って、棟梁ヤグラのもとへ向かうことになった。

 ちなみに、ミユウたちと戦っていたメンバーたちは、さっきまで殺気むき出しだったのに、お預けをくらった犬のように静かになった。

 名前が出ただけでここまで静かになるとは。ヤグラがメンバーたちに恐れられていることがよくわかる。


 少年に案内されるまま十分ほど歩くと、木々が倒されて作られた空間が見えてきた。

 そこにはいくつかのテントが張られ、無傷のメンバーたちが控えていた。その中には見覚えのある男たちがちらほらいる。

「よう。久しぶりだな」

 そう声かけたその男は、ミユウを拷問にかけたシガラキだ。

 彼は入り口近くの大きな岩に腰かけ、ミユウたちを見ていた。

「ヤグラさんに“死んだ奴が生き返った”って聞いて、アンデッドでも出てきたのかと思ったが、まさかあんた不殺族だったとはな。随分肌色がよさそうじゃねえか」

「これはどうも。昨晩はかわいがってもらって」

「で、そんなかわいい娘を連れてきて何しに来たんだ?お友達と一緒に俺たちの遊びにまた付き合ってくれるのかい?」

「まさか。あの時のお礼をしっかりとつけさせてもらおうと思ってね」

「ははは。お礼参りときたか。しかし、俺たちはあんたとやり合う気はない。ヤグラさんに止められているからな」

「そうなんだ、あなたの全身の骨も粉々にしてやろうと思ってたけど、残念。戦わない相手を叩きのめしても後味が悪いからね」

「見た目に似合わん恐ろしい言葉だな。奥でヤグラさんが待っている。さっさと行きな」

 ミユウはシガラキに対し舌を見せて、彼の近くを横切った。


 テントが並ぶ中を進むと、それらに囲まれるように広場があった。

 その真ん中に赤い長髪の女性ヤグラが仁王立ちしていた。その姿はまさに鬼そのものである。

「よう、久しいのう。まあ、一日も経っとらんけん“久しい”いうんもおかしいんじゃろうけんど」

「まさかもう一度会えるなんて思わなかったよ」

「あほう。それはこっちのセリフじゃ。で、そこにおるんはおまんの妹か?」

「どうも。うちの兄がお世話になったようで」

「兄?姉やのうて?えーと、あともう一人おるみたいじゃけんど、ええか」

 認識阻害を使っているアストリアにも気付いているのか。歴戦の勘というものか?

 これはジークと違う方面で、実際に戦うとなると手ごわいかもしれない。

「そんで、わざわざこげなところに何しに来たん?というても目的は一つだけか。おい、こっちに入ってきいや」

 ヤグラが呼びかけると、テントの群れの陰からシュナが現れた。

「シュナ!」「シュナさん!」

「君ら、なんでここに来たん?」

「それはシュナさんを連れ戻しに来たに決まっているじゃん!」

「余計なお世話じゃ!そんなこと頼んどらんし、本来居るべき場所に戻っただけ。もううちのことは忘れて!」

「シュナさん……」

 きっとミユウたちを危険な目に遭わせたくないのだろう。

 しかし、シュナも自分たちと一緒に居たいはず。シュナを見れば、そんなこと簡単にわかる。

 だから……

「シュナのバカ!」

「だ、誰がバカじゃ!」

「バカだからバカだといったの!本当はあたしたちと一緒に居たいのに、そんなことを言うなんて、バカ以外の何物でもないよ!シュナ、何度も言ったはずでしょ!あたしたちはシュナの仲間、仲間が一緒に居るのに理由なんていらない!だから、シュナもあたしたちといてもいいんだよ!」

「う~~、うちの気も知らんのに、そげな子どもみたいなこと言いよって~」

 ミユウとシュナはにらみ合いながら、言い合いを続けていた。

 そこに傍観していたヤグラが割り込んでくる。

「あんな、おまんらうちの存在忘れとらん?」

「あ、すみません!」

 ヤグラの存在を思い出したシュナは、ミユウと距離を取る。

「ごほん!まあ、おまんのシュナに対する想いはようわかった。妹さんも同じ想いじゃろう。つくづく仲間に愛されて、シュナは幸せもんじゃのう」

「それじゃ、シュナを返して……」

「いや、それはまだできんのう」

「「え?」」

「確かにおまんらのシュナに対する想いはようわかった。けんど、それは言葉の上でのことじゃ。人間口だけじゃったらなんぼでも言える生きもんじゃけんのう。そんだけではよう信用できん。信用できんもんにうちの大事なシュナは渡せん」

「じゃあ、どうすれば信じてくれるの?」

「話は簡単じゃ。今からおまんらに試練を受けてもろうて、合格すればおまんらを信じてシュナを渡そう」

「試練?それはどんなことをするの?」

「今からおまんら二人をうち自ら拷問する。そん拷問に二人が三時間耐えることができたら合格、どっちかがシュナを見捨てた時点で不合格じゃ。どうじゃ?」

 ヤグラから提案され、ミユウとサヤは顔を合わせる。

 ミユウは長年拷問を受けてきた。くすぐり以外の責めであればなんとか耐え抜くことはできる。

 問題はサヤだ。サヤが拷問を受けた経験なんて、“シュターナリクス”で受けたミンクのお遊戯ぐらい。場合によっては耐えることはできないかもしれない。

「あの、それはあたし一人じゃダメなの?サヤはそういうのに慣れていなくて……」

「そんでもええけど、その場合はおまんに妹さんの分まで受けてもらうことになるで」

(仕方ない。自分が耐えればいいんだから)

 そう思い、ミユウ一人が拷問を受けることを受け入れることを伝えようとしたその瞬間……

「いや。あたしも受けるよ、にぃに」

「ちょっと待って!サヤ、自分が何言っているか分かってるの?どれだけ痛いことや苦しいことをされるか分からないんだよ?」

「あたしにもやらせてよ。にぃにだけに負担を負わせたくない。それにこの人にあたしの本気も見せつけてやりたいから」

「サヤ……」

 ミユウはサヤのことをまだ子どもだと思っていた。しかし、その言葉を聞いて、自分の考えを改めないといけないと思った。

「なかなか肝の座った姉妹じゃのう。よし、そこまで言うんじゃったら、うちも手加減せんで。あとで泣きべそかいても知らんけんのう」

 ヤグラは手ぐすねを引いて、ニッと笑う。

「ふん!望むところだ。必ずシュナを返してもらうんだから」


 こうしてミユウとサヤは、シュナを返してもらうためにヤグラの拷問を受けることになった。

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