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チートな俺が、チープなあたしに変わったら、くすぐりに悩まされる日々が待っていました  作者: 広瀬みつか


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57.後悔と不安、それから…

 人の目がほとんどない木々が多く茂る森の奥、盗賊団“赤狼の牙”はテントをいくつも張り、拠点にしていた。

 そんな中シュナは木の近くに背を預けて、配給されたパンを頬張っている。

 森の中のあちこちに、多くの男女が軽く武装したまま休息を取っている。

 子どものころから彼らと寝食を共にしていたが、どうも殺気に満ち溢れた血なまぐさいこの感じは好きになれなかった。

 しかし、妙に安心感がそこにはある。

 彼らはシュナを初めて受け入れてくれた本当の仲間、故郷のない彼女にとってはここが本当に帰れる場所。

 もしかしたら、自分が本当にいなければ鳴らないのはここなのかもしれないと思った。

 一度裏切ったシュナをヤグラは許してくれた。もう裏切ることは許されない。

 このままうちはここに居らないのだ。

 しかし、ミユウたちとの旅は楽しかったこともまた事実。

 確かに、危険な目や恥ずかしい目に遭ったこともあったが、今となってはどれもいい思い出ばかりだった。

 できることならもっと一緒にいたかったとも思う。せっかくみんなと仲良くなれたのに。

 ミユウは無事に逃げられたのか。計画通りであれば、サヤが助けてくれとるはずだ。

 しかし、ミユウにはひどいことをしてしまった。いくらヤグラたちの目を欺くためだからといっても傷つけてしまった。あれだけのことされたら、いくら痛みに耐性があるといってもきつかっただろう。

 ミユウは自分のことを恨んでいるに違いない。

 そんだけのことをしてしまったのだ。仕方がない。むしろ今回のことで自分のことを見捨ててくれた方が都合がいいのだ。

 その方がきっと……。


「どうしたんじゃ。覇気がないのう。しっかり食うとるか?」

 シュナに話しかけた赤髪の女性は“赤狼の牙”の頭領であるヤグラ・クリス、子どもの頃に村を追いだされて路頭に迷っていたシュナを助けた恩人だ。

 鬼人族である彼女は鬼のように恐ろしい人だが、シュナを本当の家族のようにかわいがった、シュナが尊敬する姉のような存在である。

 ヤグラは腰に差した二本の名刀“唐椿”と“高水城”を外し、シュナの隣の地面に腰を下ろした。

「すみません。あまり食欲がのうて……」

「そらそうじゃのう。仲間を傷つける手助けをしてしもうたんじゃけん」

「あいつは、仲間じゃないです……」

「あほう、隠さんでええ。長年おまんと一緒におるんじゃ。見るだけでどんなこと思うとるかぐらいわかるわ」

「そ、それは……」

 完全に見抜かれている。この人には嘘なんて一切通じない。

「そげにええ仲間じゃったんか?」

「……はい」

「そうか。小さいころから目をかけとったおまんにそげなもんができて、個人的には嬉しいのう。けんどそれじゃったら、あん女を殺したうちのことを恨んどるじゃろうのう」

「そんなのことは!」

「隠さんでええいうたはずじゃろう。仲間じゃったもんが殺されてなんとも思わんはずがない。逆になんとも思わん奴じゃったらおまんを見損のうとるわ。なんじゃったらこれでうちを刺してもええんで。おまんにはそん権利はある」

 ヤグラは“唐椿”をうちの前に差し出す。しかし、シュナは差し出された刀をヤグラに押し戻した。

「やめてつかあさい!ボクがヤグラさんを刺せるはずないです」

「……冗談じゃ。落ち込んどるようじゃったけん、からかっただけじゃ」

 そういうヤグラの表情は冗談をいったように見えなかった。

 もしかしたら、自分のことを試したんじゃなかろうか。もしここで刀に手を付けたら、どうなっていたのだろうか。

 そう考えたら、少し身震いしてしまう。

「まあ、飯はしっかり食うとき。明日には拠点を移すつもりじゃけんのう。じゃあ、失礼するで」

 ヤグラは腰を上げ、二本の刀を腰に差し直す。


 その時、メンバーの一人であるカガヤがヤグラの目の前に血相をかいて駆け寄ってきた。

「頭、大変です!」

「なんじゃ、カガヤ。飯時ぐらい静かにせ……おまん、どうしたんじゃ」

 ヤグラが驚くのも当たり前だ。

 カガヤは全身にあざがあり、身に着けている服もボロボロ、防具の大半が壊されていた。

「か、カチコミです」

「昨日壊滅させた盗賊の残党が仇討ちに来たいうことかのう。ほんまに殊勝なことじゃ。で、相手は何人じゃ?おまんのそん恰好を見たところ、五十人ほどというところじゃろうか」

「お、女二人だけなんです!半分以上がやられてしまいました!」

「半分って、七十人以上やられたいうんか?」

「それにその一人というのが、昨日頭が殺したはずのあの女だったんです」

 昨日殺したはずの女?

 もしかして。いや、もしかしなくてミユウしか考えられない。

 なんで、なんで自分なんかを助けに来たのか。

「は?死んだ人間が生き返るはずがないじゃろう!シュナ、どういう……もしかして、あの女、不殺族なんか?」

 シュナはヤグラの問いに対し、沈黙した。

「なるほどのう。噂に聞いとったが、ほんまにおったんじゃのう。それじゃったら、殺されて生き返ったことも、二人だけで七十人以上も倒せたんも合点がいく……よしわかった。カガヤ、そいつらをここに呼んじゃれ。うちが直々に対応しちゃる。大事な客人じゃけん、くれぐれも丁重にもてなしちゃれよ」

「は、はい。わかりました」

 カガヤは満身創痍な体を酷使して、森の中に戻っていく。なんとかわいそうな……。

「シュナ、おまんは幸せもんじゃのう。あげなことされてもなお、おまんを助けてくれる仲間がおって。そげな奴は世界広しと言えどもそうはおらんで」

「ありがとうございます……」

「けんど、そう簡単には渡すわけにはいけんのう」

「え?」

「安心しい。おまんを預けることができるか、ちょいとした試験をするだけじゃけん。今から楽しみじゃのう、ふふふ」

 ヤグラが不敵に笑う。

 この人がこんな表情で笑ったとき、平穏に終わったことは一度もない。

 シュナはあふれ出す不安を必死に抑え、ミユウたちを待つことにした。

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