曇りの日の昼
その日。窓の外には曇り空が広がって、お昼になっても部屋の中はあまり明るくなりませんでした。
私は、仰向けになって、天井を眺めていました。
起き上がろうとして、でも出来なくて。
体に力が入らなくて、ただそこにいるだけの私でした。
何かが私から流れ出て、消えてしまったみたい。
いつのまにか涙がこぼれて、ちょっとだけ、耳が気持ち悪くなってしまいました。
どうしてこうなってしまったんだろう?
これからどうなるんだろう?
そんなことを考えていました。
そうしていると、ドアをノックする音がしました。
私が返事できないでいると、ドアが開いて、ハルが私の部屋に入ってきました。
「ごめんね、勝手に入って」
私が起きているのに気づいて、ハルはそういいました。
そうして私のベッドの脇に来て……。
「ほら、なにか食べないと、体によくないよ」
「……うん」
私の背中に手を回して、私を起こしてくれました。
ハルが持ってきてくれたのは、くし型に切られた梨でした。
フォークに刺して口に持っていくと、とても甘く感じました。
ハルはベッド脇の椅子に腰掛けて、食べる私を見ています。
「……あ、あんまりじろじろ見られたら、食べにくい、でしょ……?」
「えっ、あ、ご、ごめん……」
そう言ってハルは席を立って、窓のところへ行きました。
窓を開けて外を見ているハル。
そんなハルの後ろ姿を見ながら、私は梨を端からかじっていました。
とても静かな時間でした。
窓際にいるハル、まっしろいお皿にぽたぽた落ちる梨の汁の音、甘い匂いと味、素足に感じるおふとんの感触……。
ただそのことだけを考えるようにして、昨日のことを頭の片隅に追いやっていました。
「ご、ごちそうさま」
「うん」
ハルは私から食器を受け取って、
「姉さん、だいじょうぶ? お医者さんに来てもらおうか?」
そう聞きました。
「ううん、だいじょうぶ。あのね、なんだか疲れてるみたい……。もうすこし眠ろうかな……って」
「そっか……。わかったよ、姉さん」
「ハルは……? ハルは今日、どうするの?」
「僕は、これからクルと領地をまわることになってるんだけど……」
「そうなんだ。がんばってきなさい」
言葉尻をにごした弟の気持ちを引き立てるように、そういいました。
たぶん……ちゃんといつものように笑えていたと思います。
「うん……わかった」
ハルは安心したように笑ってくれました。
「それじゃ、おやすみ、姉さん」
「うん、おやすみ……ハル」