曇りの日の夕方
その日の夕方になって。
誰かが私の前髪をなでる感覚に、私は目を覚ましました。
「え……?」
「……ごめんね、姉さん。起こしちゃった?」
「ハ……ハル?」
「うん、そうだよ」
そのとき、私は寝ぼけていたんでしょうか……ハルの手にべっとりと何か汚いものがついたのを見た気がしました。
それが、私を取り乱させました。
「だ、だめ……ハル……、さわら……ないで」
「え?」
「さわらないでよッ!」
そう叫んで、ハルの手を払いのけて、ベッドの上で後ずさりして。
「ね、姉さん? 姉さん、どうしたの……?」
「いや……いやぁぁぁぁぁぁぁッ……!」
「ね、姉さん……」
「さわらないで……。お姉ちゃんにさわらないで……。きたないんだもん……きたないんだもん……ハルが……ハルがよごれてしまう……」
「そんなこと……」
「お願い……出てって。お願い……ハル……」
ハルは、何もいわずに、私の部屋を後にしました。
ハルの泣きそうな顔が目の中に残りました。
ハルを傷つけてしまったことを、心のどこかで感じていました。
私ははじめて……自分の身に起こったことが分かったんです。
手に残る、あの男の人たちの腕の毛の感触。
痛くて痛くて喘いだときに吸った空気、かいだ匂い。
股のあいだに残る鈍い痛み、違和感。
「い……や……」
私のからだ、全部が汚れてる。
汚れてて、穢れてて、嫌。
いや……いや……。
また叫びだしたいような気がしていました。
でも、何かがのどにつかえて、それは出来ませんでした。
そして……。
そんなの嘘だって、思いました。
あんなのが、そうなわけないって。
私の……私の想像の中の、その光景は……。
私の身近にいる歳の近い男の人が、弟だけだったからでしょうか。
弟によく似た男の人が、私を優しく抱きしめてくれて。
私は、愛されて守られるしあわせに、泣きそうになって。
そういうものなんだって思っていました。
でも、あの男の人たちは……。
私は、あのとき、生まれてはじめて、私をあんな目で見る人に出会いました。
金縛りにあったみたいに、その場から動くことが出来ませんでした。
あとは、なんだか、物のように、私を押さえつけたり、引っ張ったり……。
私を怖い目に合わせても、なんとも思わない人がいる。
私が許してって言っても、許してくれない人がいる。
そのことが……こんなにも怖いことなんだって思って。
その光景を思い出して、怖くなって、ベッドにもぐりました。
怖くて、怖くて、震えていました。
ハルによく似た男の人の想像を呼び起こそうとして。
でも、もう頭にもやがかかったみたいになって。
自分を抱きしめるようにして縮こまってみても、震えが止まらなくて。
いつのまにか、私は泣いていました。




