お酒
客間に入ると、中にいた人たちがいっせいに私たちを……私を見て、会釈をしました。
笑いかけてくれたり、手に持ったグラスを少し上に持ち上げてくれたりしました。
若い人や、クルやトートン先生と同い年ぐらいの人がほとんどで、みんな体つきがとてもがっしりしていました。
思い描いていたお客様のいる光景とは、ちょっと違っていて、すこし嬉しいような、でも、なんだか寂しいような気がしました。
ハルは、一番奥のソファにいて、その両脇にクルとトートン先生が立っていました。
ハルは、私と目が合うと、すこし笑ってくれました。
「おーっと、来たか! それじゃ、はじめるか!」
クルの声とともに、ミスティが私たちのところにやってきて、ノリスさんたちにお酒の入ったグラスを配りました。
「リーゼロッテ様にはこれですよ」
ミスティは、ちょっと意地悪そうに笑って、私に林檎ジュースをくれました。
「おい、雨が降ってきたぞ!」
誰かが、そう声を上げて、
「なに言ってるんだ! 雨降ったほうが酒がはかどるだろが!」
誰かがそう返して。
笑い声が起こって、その笑い声に調子を合わせるようにして、クルが乾杯の声を重ねました。
みんなが、それに和して、そうして、パーティーが始まりました。
一時間もするころには、もうみんな、すっかり酔っていました。
子どもの私が言うのも変かもしれませんが……みんな、子どもみたいにはしゃいでいました。
私は、ハルのところに行こうとしたけれど、なぜかみんなに取り囲まれて、挨拶を受けたり、頭をなでられたりしました。
はじめは、その光景や雰囲気が少し怖かったけれど、でも、慣れてくると、落ち着いてまわりを見回せるようになりました。
クルは、数人の男の人たちと、にぎやかにおしゃべりをしていて、トートン先生はソファに座っていて、隣の人と何か話しこんでいるみたいでした。
ティトやミスティや召使いのみんなは、傭兵さんたちの間を縫うよう歩いて、お酒を補充したり、お客様のご用を聞いたりしていました。
でも、ハルの姿は、どこにも見えなくて。
私は、ハルを探しに行こうと思って、
「あ、あの、ちょっとごめん下さいませ……」
「おっと、どちらへ?」
「あ、あの弟を探しに行こうと思って」
私がそう言ったとき……。
「おいぃ、クルゥ! 飲み比べしようぜ!」
てらてらの赤ら顔をした、クルと同い年くらいの少し太った人が、そう大声を出しました。
それまで、他の人と話していたクルは、その声に振り返って、にやっ、と笑って、
「ああ、いいだろうさ」
歓声が上がって、二人の近くにあったテーブルにお酒の瓶が集められました。
二人とも少しにらみあってから、酒瓶をさらうように手にとって、合図も待たずに、口をつけて逆さにしました。
口元からお酒が水のようにあふれて、ふたりの胸元をぬらして、クルのひげも濡れて光って……。
周りのみんなは、そんな二人に歓声を浴びせていました。
私は……こんな乱暴な飲み方をする人をはじめて見て、びっくりしてその場で固まっていました。
何本目かに差し掛かったとき、太った人のほうが口からお酒を吹いて、よろよろして、たたらを踏んで。
そのまま、私の前のテーブルに倒れこんで、ガチャンと大きな音を立てました。
「だっ、だいじょうぶですかっ!?」
「おう、りーじぇろてしゃーまぁ、やしゃすぃですなぁ」
その人は、そういいながら、私のほっぺたをつまんで、
「おぅ、ふにふにふにふに……・」
……なんだか、本当に酔っ払ってしまったみたいでした。
私はどうしたらいいのか分からなくて、ただ困ったように笑っていた気がします。
そうしていると、私のとなりにいたキルシュさんが、その手をそっとふりほどいてくれました。
「おいわかぞー、なにやってんだ」
その人は据わった目をしてキルシュさんにすごんで、キルシュさんは何も言わずに、その人に少し笑ってみせました。
「へっ、にやにやしやーがって! ちったぁハルさまぁ見習えや……」
そういったあと、その人は私のほうに向き直って、にっこり笑って、
「リーゼロッテさま、ハルさまぁ、ほんとにりっぱにおなりですなぁ……。ヒンメル家のみらいぃ明るいですよ。あのゴミィ見るよぉな目がさいこぉでしたねえ……」
ハルがゴミを見るような目……?
私は、なにかの聞き間違いかと思って、
「ゴミを見るような目って、なんのことですの?」
そう聞いていました。
その人は、すこし酔いの醒めた目で、私を見て、
「なんのって……あのクズどもれすよ。ぶっ殺したじゃなぁですか」
「……?」
「えっ?」
その人はクルを振り返って、
「おい、クル……」
クルは、いかにもまずい、というふうに苦笑いをしていました。




