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星空

 いつもの場所にもどってきたとき、日はもう陰っていて、黄色と赤のまだら模様だった落ち葉の色も、薄い赤と濃い赤しかないように見えていました。

 はじめてみたような、なつかしいような……そんな感じがして。

「姉さん……?」

「ねえ、ハル。あのね……今日は、日が暮れるまで、ここにいようよ……」

「……うん、わかった」

 また二人で腰掛けに座って、空や雲、木や草の色が変わっていくのを見ていました。

 ハルの手をとって、手の中でもてあそんで……それから、手をつなぎました。

 ハルは何も言いませんでした。

 あたりは、どんどん薄暗くなっていきます。

 あのとき……目を覚ましたとき……小雨が降っていて、あの木の根元で、私は目を覚まして……立ち上がって、それから……。

 そんなことを考えてる間、私は、ハルの冷たい手をなでたり、さすったりしていました。

 だいじょうぶ……だいじょうぶ……って。

 目をつぶると、土の匂いをかいで、雨の音を聞いた気がして。

 それでも、私の心は、もう乱されたり騒いだりしませんでした。

 何度も何度も、同じ痛みを繰り返すようにして、そうして、私はその痛みに慣れてしまったのでしょうか。

 目を開けて、空を見ました。

 満天の星空……。

 ずっと見ていると、星が動いて・・。

「ハル、星が動いてるよ!?」

「え? ……うん、そうだね」

 授業で聞いたことがあったけれど、でも、こんなふうにはっきりと目で見えるくらいなのに驚いていました。

 そうして、そのまま二人で星を見ていました。

「ねえ、ハル……ほんとはね……」

「ん?」

「お姉ちゃんが、森で迷子になった日があったでしょう? ほんとはね、とっても、ね、いやなことがあったの……ここ、で」

「……うん」

「ずっと、どうすればいいのかわからなかったの。そのときのことを思い出すたびに足がすくんだり、怖くなってその場に座り込んでしまいそうになったり……。何度も何度も、そのときの事を夢に見たり、ふとした瞬間に頭に浮かんだりして、それで……心がくじけそうになったこともあったけど……」

「……」

「でもね、もうだいぶ平気になったよ」

 そう言って、ハルの顔を見たとき、月と星の光に照らされたハルの顔が、なぜかとてもさびしそうに見えました。

 私はハルの日記を思い出しました。

 私のために何が出来るのか考えてくれて、でも、それが何なのか分からなくて、悩んでいたこと。

 もしかしたら、ハルは、自分には何も出来なかったって思ってるのかな?

 ううん、ちがうよ、ちがうんだよ。

 ……そんな私の気持ちをハルに届けたいって思いました。

 なんだか座っていられなくて、ハルの手を引いて私は立ち上がって……。

「ねえ、ハル。星が降ってきそうだね」

「うん」

 ハルの正面に立って、私は……。

「……ハル、ありがとう」

「ん?」

「お姉ちゃんに優しくしてくれて、ありがとう……

 

 毎朝、来てくれたこと。

 暇ができるたびに、来てくれたこと。

 たくさん心配してくれて……夜、私の手をにぎってくれたこと、とか……。

 それに、あのとき……なんでもするよっていってくれたとき、うれしかった……。

 本当にうれしかったんだから!

 だから……

 

 ありがとう、なの」

「……? ね、姉さん?」

「なによ、似合わない?」

「え……あ……うん、たぶん」

「ふふっ、そう?」

 正直に言われて、でも、腹は立ちませんでした。

 ありがとう、って素直に伝えられたことが、うれしかったです。

 まったく照れずに言えたことが自分でも不思議でした。

 夜の空気はいっそ冷たいくらいで、空の星は本当に綺麗でした。

「ハル」

「なあに、姉さん」

「寒い」

「え?」

「寒い、って言ってるの」

 私がそう言うと、ハルは自分の上着を脱ごうとしました。

「ちがう、ちがう」

「え……ど、どうすればいいの?」

「ほら」

 そういって、両手を広げて見せました。

 ハルは少しだけ戸惑ったようでした。

 でも、結局は、私を抱きしめてくれました。

「もっと、つよくしてよ」

「うん」

「華奢なのに、力つよいんだね、ハル。男の子だもんね」

 私は、ハルの背中にそっと手を添えて、

「ちょっとだけ、このまま……」

 そういって、目を閉じました。

 夜の風が、私のほおをなでて、私の髪を梳いて、私のストールをはためかせて。

 私の腕の中のあたたかいものは、私のたからもの。

 私の中のなにかが満たされていって、いっぱいになって……すこしだけあふれてしまいました。

「……ありがと、ハル。もういいよ」

 そういって、私はからだを離しました。

「帰ろっか」

「うん」

「ほら」

 私の横に並んだハルに手を寄せると、ハルは私の手をにぎってくれました。

 そのままで、手をつないだままで、私たちは家路につきました。

 本当に、降ってきそうなお星様でした。


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