プロローグ
「一流になったら帰ってくるよ」
そう言って村を飛び出したのが1年前、未だに俺はD級冒険者。駆け出し卒業といったところかな。
自分としても少し背伸びした挑戦だとは思ったんだけど、スキルアップのために挑んだ『沈黙の森』今までの狩場よりも足場は悪く視界も不良。ただ、希少価値の高い薬草や歯ごたえのあるモンスターがいるとの情報。
ただ今のように安全な場所で仕事をこなしたってランクはすぐには上がらない。それはもうこの1年間で充分分かった。
「だからと言って俺は別に死にたいわけじゃないんだけど」
「グラァッ!ヴゥグググ……」
今、目の前にはB級モンスター「トライデントウルフ」がいる。いるというかまぁ、襲われる三秒前だ。
俺はD級冒険者だって言ったけど、ギルドで扱われるランクというのは『D級冒険者3人でD級モンスターを安全に倒せる』という指標だ。無論1人で来たあげく2階級も上のモンスターを狩れるはずもない。
腰にさしたショートソードを抜く。
「逃げられる可能性ってあったりする?」
「グァウ!」
その逞しく鍛え上げられた脚がバネのように動作し、俺の体を遥かに超える巨体が猛スピードで迫ってくる。
キンッ!
「危ねぇ!」
名前の通りにそびえる三叉の角に剣を合わせ弾く。衝撃を逃がすことを目的に。
だが、だが弾かれたのは俺の剣。刃の部分がポッキリと折れている。
「その剣高かったんだぞ!とかいってらんないよね」
もう逃げるしかない。わすがな希望だとかそんなのあるのかも分からないけど。俺はまだ死にたくない。
走る。ここまで採取した薬草だとか、苦労して倒したエリートゴブリンの持ってた腕輪だとか今はもう邪魔でしかない。
ただでさえ初めてきた場所。なりふり構ってはいられない。今まで生きてきた中で一二を争う窮地だ。
こまわりがきくことを活かして闇雲に走り回る。ここがもうどこかすらも分からない。
「お、終わった」
追いかけっこが終わってくれれば良かったんだけど、どうやら終わったのは俺の人生か?
断崖絶壁に追い込まれてしまった。背には崖。登るなんて到底不可能。
「ガゥヴ……」
散々追いかけっこに付き合わせたことを根に持っているのか、トライデントウルフはどうやら機嫌が悪いらしい。素通りで引きかえすなんてことは出来ないだろう。
『生きたい?』
どこからか声が聞こえる。
もちろん生きたい。まだ村に帰れてないんだ。
「ずっと世話してくれたじいちゃんに面目立たないしな」
『そう』
「こんな所で野垂れ死にしちゃ両親にもガッカリさせてしまう」
って、今際の際に何言ってんだ俺は。
唐突に目の前の空間が歪む。……魔法?だが、こんなものは見たことが無い。
まさか森の妖精みたいな摩訶不思議ななにかが助けてくれるのか?
とか馬鹿みたいな妄想をするのもいいけど。とにかく今は縋れるものがあるなら縋りたい。
まだ、やれていない事がたくさんあるんだ。
歪みから少し薄暗い光とともに現れたのは、少し小さめの背丈の女の子。
歳は見た感じ俺とはそう遠くない。銀髪の長い髪をたなびかせ、透き通った薄紫の瞳の中にはその子に見惚れる俺の顔が写し出されていた。
「森の……妖精?」
「……」
妖精って小さなイメージがあったけど意外にも人間と同じようなもんなのか、むしろ出るとこ出てないか……って関係ないねこれ!
「…名前」
「え、名前って?俺の?」
「あなた以外に……誰?」
「グルァウッ!」
忘れてた!やばい、突っ込んでくる!
「危ないっ!」
「名前」
「ライド!ライド・ストール!それが俺の名前!いいから君も逃げるんだ!」
ダメだ、助けられない。そもそも実力不足の俺に出来ることなんてたかが知れてるが、俺とトライデントウルフの間には妖精(仮)がいる。巻き添えくらわせるなんてそんなこと……っ!
必死に手を伸ばした先___彼女は口元をニヤリとさせ
『契約』
そう呟いた。




