プロローグ
二十九歳、今年で三十歳。
中肉中背の、冴えないサラリーマンだ。
最近、少しはやい白髪が生えてきたのが俺の悩み。
名前は一之瀬亮。
苗字だけかっこいいのな、なんて自己紹介したときから長年言われている。
いきなりだが、俺は正直言って、自分のことをいわゆる、ブサメンだと思っている。
だって、もう自覚しているから。
自分のことを恋愛感情で見てくれる人がいたなら、大きな声で、胸を張って言えると思う。
「君は変人なんだね」
と。
そんな人、居たことないけど。
テーブルに乗ってある、生ビールが入っているグラスに手を伸ばす。
受験生の時は、就職したら、バックミュージックに超絶かっちょいいジャズをチョイスして、毎朝無糖の珈琲と食パンを優雅に食べるのが密かな夢だった。
だがそんな思いとは裏腹に、亮の喉越しをいい音でならす。
「っはぁ‥‥!生きてて良かったー。」
ま、これが俺の小さな生きがいってわけだ。
ガキの時は、潰れた駄菓子屋を乗っ取って、夜にも家に帰らないで親に迷惑かけながら「大人になりたい」なんて抜かしてた。
「こんなクソみたいな世の中で、大人の言いなりになんてならねー」なんて、幼馴染のトモちゃんが言ってたっけ。
「『クソみたいな世の中』ねぇ‥‥。」
いまでは、俺と階級が違うおっさんにペコペコ頭下げて毎日過ごしてるけどな。
イカ素麺をちまちま食べると、またビールを飲んだ。
あぁ、健康診断の時肥満ですよって言われたから、少し控ようか。
俺のマイホームは未だ殺風景だ。奇麗すぎる。
「ははっ、情けねぇのな俺。」
どうして、こうなっちまったんだろうなって。