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ハイスペック・タンクウォーリア ‐コストがかかると追放された壁役重戦士はS級冒険者になって無双する‐  作者: 兎藤うと
一章 白き聖女編

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74. 憧れた背中

 補給を終えて戦線復帰する寸前でハルトがやられた。


「ハルトォォォォォォォォォォッ!」


 リックは叫び、〈食蓄〉から魔力のストックを解放し、魔導巧機重鎧に魔力を送って起動し、白色に変色させながら全力で走り出す。


 まだナタリアの攻撃は終わっていない。落下とともにトドメを刺そうとしていた。


 ハルトは地面に落下して、糸の切れた人形のように転がって小さな岩に背中を預けるようにして止まった。切断された足はハルトから一メートル離れた場所に落ちた。


 そして、魔力障壁が弾丸のように迫った。


「間に合え!」


 リックはハルトを庇うようにして大盾で魔力障壁を受け止めた。


 ガン、パリン、と金属と硝子が砕け散る音が同時にリックの耳を劈く。勢いと衝撃は殺し切れず、タンクであるリックを押し込み、足を引きずらせてわずかに後退させた。


「ハルト! 待ってて、いまくっつけるから!」


 遅れてカンナも到着し、切断された足を持ってハルトの足にくっつける。


「治癒薬、治癒薬っ、これに効くやつっ」


 カンナは焦りを感じながら鞄の中をまさぐった。


「だ、い、じょうぶだ。まだ〈バトルヒーリング〉の効果が残ってる。治癒魔法は俺がかけるから、お前は足を持っててくれ」

「わかった!」


 息も絶え絶えのハルトの言葉を信じてカンナは足を持って、ハルトの治癒を手伝う。


「無茶しやがって!」

「すまんな。リック。慣れないことするもんじゃねぇな」


 リックの言葉にハルトは弱々しくそう返答した。

 ハルトを庇うことはできた。だが、状況が好転したわけではない。


 現状、リックは身動きが取れないほどに防御に専念している。気をまわそうとするだけで押し込まれてしまうのだ。完全に追い込まれてしまったわけだ。


 耐えている間にも魔力障壁の威力が上がり、リックの足が地面を削りながら後退する。

 その状況はリックのほか、全員がわかっていることだった。


 いま五体満足に動けるのはリックたちを除いてカンナだけだ。

 ハルトの治癒魔法でなんとか足が繋がり、支えが必要なくなったタイミングで、


「リック! 私がなんとか気を引くからその間にいって!」


 カンナは意を決したかのように頭の上のゴーグルを装着して魔導巧機重鎧00号を操作し始める。そして、予想外のことにリックは驚いて口を開く。


「やめろ! いくな!」

「――〈シンクロナイズ〉ッ!」


 リックの制止は聞かず、カンナは00号を操作して、とってつけたような急ごしらえの鋼の剣を抜刀して、スキル〈ブースト〉と〈アクセル〉を発動してナタリアに肉薄した。


 だが、その勇敢な行動すらハイスペッカーの前では無意味だった。


 ハルトと同様、一筋の軌跡が走り、高速で飛来した魔力障壁が00号を両断した。腹部と胸部の間、ちょうど魔核石がある個所だ。完全に破壊された。


 そして、〈シンクロナイズ〉の反動がカンナを襲った。


「がぁぁッ!?」


 カンナは〈シンクロナイズ〉の代償である受けたダメージがすべて伝わった。彼女は激痛に襲われ、吐いて気絶した。


「カンナ!」

「だ、いじょうぶだ……。ただ気絶してるだけだ」


 ハルトはそう言いながらリックの背中を見た。押し込まれて少しずつその背中は近づいてきた。それでも踏ん張ってリックは魔力障壁からハルトたちを守る。だが、ジリ貧には違いなかった。威力が増していく人を守るはずの魔力障壁がハルトたちを襲っている。必死に食い止めるリックが魔法すら行使できないほどに。


 ハルトは自分の足を見て、カンナを見て、諦めたように治癒魔法を途中でやめた。


「リック。カンナを連れてここから逃げろ」

「――ッ! なにを言って。それじゃ、ハルトはどうなる!?」

「冒険者にはこういう話はよくある。俺はここまでだった、ってわけだ」


 ハルトはそう言いながら笑って、言葉を続ける。


「このままじゃ、お前までやられちまう。そしたらエリナを救出できなくなっちまう。カンナはお前に必要不可欠だろ? こんな半端モンは見捨てていけ」


 まるで別れの挨拶のような物言いに、リックは


「そんなこと言うな! お前だって大事な仲間だ! 見捨てていけるわけないだろ!」

「ははっ、そう言ってもらえると嬉しいねぇ」


 そう言いながらハルトは空を仰いだ。


「リックとは肩を並べていたかったんだ。独りにもなりたくなかった。ハスペッカーに負けてらんねぇとも思った。まあ、結局こんな有様だけどな」


「ハルト、お前……」


「重戦士リックの物語はここで終わっちゃつまんねぇだろ? お前の物語はさ。俺が墓に入った後に聞かせてくれればいいからさ。だから、俺を置いていけ」


 ハルトはそう言ってからっとした笑みを浮かべた。


 その遺言のような言葉にリックは俯いて葛藤する。心臓の音が強く波打つ。息が喉を締められるように今までに味わったことのない息苦しさに襲われた。


 防御に専念してほかのことに手を回せない。一人抱えて逃げるのが精一杯だ。


 重戦士なのに。前衛で仲間を守るタンクなのに。リックという盾はここで一人の仲間を見捨てなければいけない状況に追い込まれている。


 冒険者なら殉職することは珍しくない。天秤にかけて自分の裁量で選んだ結果なら誰も責めはしないだろう。そんな諦めに近い気持ちがリックの心を揺さぶった。


 だが、同時にそれをすれば自分を許せなくなる、とリックは思った。


 譲りたくない矜持がリックの中にあるから。

 重戦士として突き動かす原動力があるから。

 それを誇りに思っているから。

 憧れたものがあったから。


(俺が憧れたものは、なんだったか)


 ふとそう思って、記憶に刻まれた情景を思い出す。


――


 それはまだ幼い頃のことだ。


 リックは、ガルートン家の五男として生を受けた。元は側室の子、言葉を選ばなければ雇ったメイドの間にできた愛人の子だ。幸いなのは両想いで望んでできた子であることだ。産んですぐに他界した母を思い、正式なガルートン家の子として育てられたわけだが、当初は正妻と兄弟たちの当たりが強かった。


 一番、正妻が酷かった。リックに物を投げ、罵声を浴びせた。


 怪我をすることも何度かあった。


 だが、それでもリックが歪まなかったのは父の存在が大きかった。


 なにかあるたびに、父は間に入って庇ってくれた。


 鮮明に覚えている。


 あの大きな背中が守ってくれたことを。


 幼いながらにその背中に憧れた。


 物語に出てくるような英雄でもない。ほかならない父親の背中に。


 誓った。自分も守れるような人になりたいと。


 重戦士は、まるで自分の憧れを投影したかのようだった。運命だと思った。


『んじゃ、なんで今も前に進もうとしてるんだ? 普通、そうなったら歩みを止める』


 だから、ただの重戦士では終わりたくなかったんだ。


 ――


(ああ、そうだったな。久しく忘れていた。あの大きな背中を)


 リックは歯を食いしばり、あの日に誓った想いを胸にまっすぐ前を向く。


 魔力を最大出力まで上げ、強く踏み込む。


「ふざけるな! お前を放って逃げてたまるか! 死にたきゃ俺が押し負けてから死ね! 俺はタンクだ! 重戦士のリック・ガルートンだ!」


 誇りを胸に強く願う。それに呼応するかのように、リックの奥底でなにかが弾けた。


 瞬間、ナタリアの魔力障壁をすべて破壊した。


 障壁の破片が舞い落ちる中、ナタリアはなにが起こったのかわからなかった。


「なにが起きたの?」


 確実に押していたはずなのに、八割の力を注いだ何重層にも重ねた魔力障壁は圧倒的な力によって押し返され、破壊された。この現状を覆した張本人にナタリアは視線を送る。


 リックはこの状況に驚いていた。


「……、」


 リックは装備していた武器を手離して兜を取った。


 空気が澄んでいるように感じた。五感のすべてが、今まで認識していなかったであろう隔たりが取り去られ、広がっていた。感じる魔力ですら鮮明だった。感じ取れなかったものまで今のリックには手に取るように分かった。


 自分の中でなにかが弾けた。自分の身になにが起きたのかを理解できた。自分の中で形成され、その時が来るまで眠っていたであろう可能性であることを。


 おそらくそれは、ナタリアが口にしていたような〝覚醒状態〟というものだった。

 その覚醒を得て、リックは大地に吹く風を感じながら一息ついた。


「……リック、お前」


 先補とは違う雰囲気のリックに聖女と同じものを感じてハルトは気づいた。

 それは向こうも同じだ。


「あなたも、そこに至ったのですね」


 今まで距離を縮めてこなかったナタリアが、自ら近づいてきて、そう言った。彼女もまた状況を理解した。同じ〝ハイスペッカー〟との戦いによって覚醒に至ったことを。


「みたいだ」


 リックは兜をもういちど被り、大盾を拾い上げる。


 そして、武装パックを動かして鞘を展開し、魔導具の剣を引き抜いた。


 刀身だけでも一メートル以上。柄と刀身を繋ぐ部品が中央に存在する。なにより、その両刃の直剣は剣先が扇のような特殊な形状をしている。今回のは蓄積ではなく、増幅と発散に焦点を当てた魔導剣となっている。


 それを装備したリックは構え、


「もう時間がないんだ。終わらせよう。この戦いを」


 兜越しに鋭い眼光をナタリアに向けた。



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