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ハイスペック・タンクウォーリア ‐コストがかかると追放された壁役重戦士はS級冒険者になって無双する‐  作者: 兎藤うと
一章 白き聖女編

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59. 動き出す陣営

「……、」


 ギルド長室。魔法で外部の音を抑制した部屋は静かだ。そんな一室で、アルトリアはザルツブルグ近辺で発生した〝白漂領域(ヴァイスフィールド)〟の報告書を読んで唸っていた。


 報告者はリック。討伐依頼に出ていた先で偶然にも、領域の発生に巻き込まれた。


 同行者には聖女エリナ。職人カンナ。そして、別件で通りかかった元『バラン・ガタッタ』所属のハルト。突然と出来事だったとはいえ、誰一人として欠けず無事に生還した。


 それはいい。問題なのは、〝白漂領域(ヴァイスフィールド)〟の異常だ。


「お呼びですか? ギルド長」

「ああ。アメリア。よく来てくれた。熟練の冒険者は全員出払っててな。元冒険者のアメリアに今回発生した領域ことで意見を聞きたくてな」


 アルトリアは、リックの報告書をアメリアに渡した。

 軽く目を通したアメリアは冷静な面持ちで口を開く。


「確かに、異常、とも呼べる現象ですね。領域特有の魔物が発生するまで猶予があるはずなのに、今回は発生と同時に湧いたのは異例です」

「だよな」


 アメリアの言葉に、アルトリアは深く溜息をついた。


 山積みの問題に、新たに積まれた問題〝白漂領域(ヴァイスフィールド)の異常〟。由々しき事態であり、領域の性質上、注力しなければ問題である。だが、現状できることは少ない。例外が出た、と周辺諸国の冒険者ギルドに通達するくらいだ。


 対策しようにも発生初期で消滅させられたから情報も足りない。それに、S級冒険者一名を含めたパーティが領域を消滅させた以上、大きく騒ぎ立てるほどでもない。


「まあ、なんとかなるかな」


 アルトリアは返してもらった報告書を眺めながらそう言った。現状、把握できているもので、魔物の発生までの猶予がない領域が発生した、ことくらいだ。なにかできるとしたら、注意しろ、と冒険者たちに周知させればいいか、とアルトリアは思った。


「あと、奥様から伝達事項があります」

「マイハニーから? 聞かせてもらおう」


「奥様いわく、ザルツブルグに得体のしれないモノが紛れ込んだらしいです」

「得体のしれない、ねぇ……。わかった。騎士団にも連絡して警備を強化してもらおう」


 ザルツブルグに侵入者。そのことに関してはアルトリアはあまり焦りというものを感じていない。この魔境に位置する都市においてはいつものことだ。


「まあ、なにかあれば俺がなんとかすればいいか」


 悠長にそんなことを言いながらアルトリアは報告書をテーブルに置いた。



 ――



 ザルツブルグのとある路地裏。人々の喧騒が溢れる場所とは縁遠いその道を、一人の冒険者が不機嫌な顔をしながら歩いていた。


 暗い茶髪と緑色の瞳。中堅冒険者御用達の装備に身を包んだ魔術師だ。


 アルトラン公国。交易都市〈ハランタラ〉のギルドに所属していたその冒険者は、ある冒険者に用があってこのザルツブルグに遥々やってきた。


 それは、S級冒険者のリック・ガルートンに文句を言うためだ。

 彼はアルトラン公国で起こった〝白漂領域(ヴァイスフィールド)〟に参加していた。


 戦況は劣勢。部隊が壊滅する状態まで追い込まれ、死者が出る可能性だってあった。だが、冒険者は活路を見出していた。しかし、誰もが思い上がりも甚だしい、と一蹴されてしまった。それほどまでに無理難題だったから。


 だが、その冒険者は自分の考えた作戦を信じて疑わなかった。なのに部隊のリーダーである冒険者が、たまたま通りかかったS級冒険者に加勢を頼んだ。


 結果。S級冒険者であるリック・ガルートンはすべての魔物を蹴散らし、領域の主を難なく倒した。おかげで死者が出ることなく事なきを得た。


 冒険者は悔しい思いでいっぱいだった。最近まで無名だったぽっと出の冒険者が持てはやされていることに。さらに許せないのは領域内で得た戦利品の分配だ。そのほとんどをリック・ガルートンに支払われ、発生直後から対応していた冒険者たちにはそれほど多い報酬は支払われなかった。


 なのに誰もが口をそろえて『この金額が妥当だろう』と文句は言わなかった。


 冒険者は不満だった。言葉にできない漠然とした怒りがあった。だから文句を言おうと遥々ザルツブルグに来たわけだが、一つ問題が生じてしまった。


 リック・ガルートンの顔を知らないのだ。写真もなければ動画もない。あったとしてもそれは鎧を着こんだ姿のみ。鎧を装備しているならわかりやすいはずなのに、どこにも見当たらない。ギルドで張り込んでいても出会うことすらなかった。


 ギルドの受付嬢は守秘義務があると教えてはくれない。教えた貰えたことといえば、すでにすれ違っていたことくらいである。


「ちくしょッ! どこだ。どこにいるんだ!」


 捜索を始めて三日目。真夜中の路地裏。道端を塞ぐようにして落ちていた樽を冒険者は蹴り倒して叫んだ。どれほど探しても見つからない。誰に聞いても話を逸らされる。


 だが、冒険者は諦めない。奥歯を噛みしめ、頭を掻き毟りながら街に出ようとした。


 ぼとり、と、なにか硬いもの落ちる音がして冒険者は振り向いた。


 するとそこには、白い本が落ちていた。


「なんだ?」


 冒険者は白い本を拾い上げて確認する。それは目を象ったような模様が刻まれた白い本だった。どこかで見たような気がした冒険者は首を傾げた。


 瞬間、目のような模様が、本物のような目に変わり、ぎょろ、と冒険者を見た。


「――――え」


 冒険者はなにが起きているのか理解できず、立ち尽くしていると、白い本は形を変え、液体のようになって冒険者に襲い掛かった。


「うああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!?」


 白い液体は、慌てふためく冒険者に侵食していく。次第に冒険者から色が抜ける。


 何色にも染まらない白亜の肌、白髪。目は反転するかのように白から黒になり、唯一琥珀色の瞳だけが変化しなかった。


 冒険者は暴れることをやめ、その場に立ち尽くす。自分の手を見てなにかを確認するかのように、何度も手を握っては広げるを繰り返した。


 そして、不敵に笑った。


「ちょうど良い体を見つけられてホントに良かったよ。おまけに目的地まで持ってきてくれるなんて俺はなんて幸運なんだ。なあ? 同士たちよ」


 冒険者だったモノは、月明かりが届かない暗がりに問いかける。すると、それに答えるかのようにフードを目深に被ったマント姿の者たちが現れた。


 その者たちは冒険者の仲間だった。


 いや、厳密にいえばあの〝白い本〟の仲間である。


 そう、冒険者は、白い本によって体を乗っ取られたのだ。同化した時点で、冒険者という存在は死んだ。残った器と記憶を白い本が奪ったのだ。


 すべては大いなる野望のため。


「〝白陽(はくよう)の使徒〟の一柱様。お待ちしておりました」

「まさか。君が協力者だなんてね」


 女性の声がした方向に振り返る〝白陽の使徒〟は意外な協力者に愉快な笑みを浮かべた。


「俺のことはアルブと呼ぶがいい」



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