5話
着いたのは屋敷の庭だった。春とはいえ既に陽が落ちて辺りは暗く、まだ少し肌寒い。
(私はともかく、殿下を長居させられないわ…)
屋敷の窓から漏れ出た光が庭の薔薇を照らし、
まるで、薔薇そのものが輝いて見える。
幼い頃、母と共に植えた薔薇は王宮の薔薇園に勝るとも劣らない彩りをもっている。
「まだ一つだけ、解決していないことがある」
「解決していないこと…ですか」
「私と君の婚約だ」
「それは…すでに無くなったものでは?」
「唯一の障害であった君の婚約は解消になった……他に何か阻むものでも?」
婚約解消……そう、あくまで今回の件はお家乗っ取り騒動のどさくさで穏便な解決になったのだ。
(いくら学生の内にやった事とはいえ不自然にも程がある。でも、それが殿下が手を回していたとしたら納得もいく…かしら?)
「一体、何故こんな事を?」
「元々は刷り込みのようなものだったが、共に過ごしていく内に君しかいないと思った。君も少なからず私に好意を抱いているだろう?……悪くない話だと思うが」
(確かに、計画を練り、実行に移す事が出来たのは殿下の力による物が大きい…そもそも私が諦めずに立ち向かえたのは殿下のおかげだ。私は明確に殿下に好意を持ってしまったし、悪くない話だと思う……けれど、本当にそれで良いのだろうか…釈然としない)
「君もこれから大変だろう…私なら気心がしれている分上手く過ごせると思うがどうだ?」
「…殿下」
「どうした?」
「やけによく喋りますね」
殿下は図星をつかれたと言わんばかりに目を逸らす……そうだった、この人は変にプライドが高いんだった。
「正直、そのお話は悪くないどころか婚約解消した私にはもったいないお話です……この数年でお互いに絆のようなものを築けているとも思ってます。だからこそ、殿下のその言い分は悲しい…というより負けた気がして嫌です」
釈然としない理由はそこだ。好意はあるし、素直に頷いて隣で過ごしたい気持ちもある……
けれど、少し、ズルいのではないだろうか?
「今のままだと、私だけが殿下を好きでいると思われる気がして嫌です……殿下が私の気持ちを察せるように、私だって少しくらいは分かるんてすよ?」
「……分かった、すまない。私の負けだ……」
「好きだよ、ずっと前から。君のことを聞かされる度にどんどん気になっていって、あの薔薇園で君を見かけて今日この時まで共に動いて、好きにならない訳無いだろう」
「なら、初めからそう言ってくださいよ……」
「自信が持てなかったんだよ……好意は持たれていても私と同じ理由かは分からない。だったらせめて婚約だけでもして、これから愛を育めば良いと思っていたんだ」
出会った時のかっこよさは何処に行ったのか、傲慢で、頼りになったギルバート殿下とは思えないくらいの情けない姿で語る殿下の事を愛おしく思ってしまうのはなぜなのか……
(恋は盲目、結局私も彼らと大して変わらないのかもしれないわね)
「私と婚約してほしい、シャルロット」
「まだ嫌です……もっと分かりやすく言葉にして伝えて下さい。ほら、もう一度」




