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黒忌み姫のお輿入れ  作者: 黒田ちか(クロッチカ)
第4章 いつまでだって踊っていられそう

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07

「フィローンでは、一時的に王族の数が減った時代があったのだそうです」


 たぶん王座を巡る骨肉の争いがあったのだろう。

 生き残ったのは、年若い王女ひとりきりだった。


「その王女が、盗賊に騙され、誘拐されました」


 後に王女は無事に救出された。

 ただし、そのお腹には盗賊の子供が宿っていた。


「そのことを天神シィノーンは酷くお怒りになったのだそうです。神の尊い血筋が、盗賊の血によって汚されたと……」


 そして天神は、自らの愛する大切な王家の血筋を守る為に、あえて王家に呪いをかけた。

 全ての王族に汚らわしい血が混じらないよう、ただひとりの者だけに汚れた血を収束させるという呪いを……。


「王女を誘拐した盗賊は黒髪黒目だったと言われています。だから忌み子も黒髪黒目で生まれる。そして、生まれながらに汚れた存在だと言われて箱庭に幽閉されるようになりました。――忌み子が死なない身体なのは、盗賊の血を引く忌み子に、尊い血を汚した罪を思い知らせる為だと言われています」


 王女が盗賊に汚されることになったのは、王族を守る貴族達が怠慢だったせい。

 そして、盗賊に騙された愚かな王女のせい。


 罪の証である忌み子を見つづけさせられることで、フィローンの王族や貴族達はかつての罪を思い出して、我が身を引き締めているのだ。

 ……と、言われている。


(我が身を引き締める人なんていなかったけどね)


 むしろ、あれが忌み子だと見世物扱いされていた。

 天神とやらの思惑は王族にも貴族にも伝わらなかったと言える。


(天神なんて信じてないけど……)


 だからこのお話も嘘っぱちなんだろうとオリヴィアは考えていた。

 たぶん、王族にとって都合のいいようにねじ曲げられているに違いないと……。


「酷い話だ」


 オリヴィアの話を聞き終わったフェルディナンドは眉間に皺をよせた。


「先祖の犯した罪を、なんの罪もない子供に押しつけるなんて……」

「……あの国では、王族に黒髪黒目で生まれることがすでに罪なのです」

「だが、あなたに罪はない」


 フェルディナンドが力強く断言する。

 その言葉だけで、オリヴィアは自分が浄化されていくような気がした。


「ありがとうございます」

「お礼を言われるようなことじゃない。当然のことなのだから。……あなたの親兄弟はどう思って……いや。はじめて会った日に聞いたな」

「はい。私はフィローン王家の汚れ、厄介者だと思われていました。ああ、でも、箱庭の書物の中にあった何代か前の忌み子の日記を読んだことがあるのですが、その人は兄妹から大事にされていたようです。……とても羨ましかった」


 親には恵まれなかったが兄妹には恵まれたと日記には書いてあった。

 その人の代で、ただの幽閉施設だった箱庭に実のなる木が沢山植えられたり、小さくとも暮らしやすい屋敷が建てられたようだ。先祖のこの兄妹愛にはオリヴィアも感謝している。


「でも、フィローンでのことはもういいんです。恨みも憎しみも捨てます。ただ縁を切りたいだけ……。そして、ここリラクシオンで新しく生まれ直したい」


 正しく民を思う国王がいるこのリラクシオンでならば、オリヴィアもきっと心穏やかに生きていける。

 両手を組み合わせてフェルディナンドを見上げると、フェルディナンドはオリヴィアを見つめて深く頷いてくれた。


「ああ、是非ともそうして欲しい。フィローンとの話し合いは、私にまかせておいて欲しい。だからあなたは安心してこの国で暮らしてくれ」

「はい! ありがとうございます」


(これで、本当にもう大丈夫)


 忌み子にまつわる話を全て知っても、フェルディナンドはオリヴィアを見捨てない。

 むしろ、守ってくれる。

 力強い言葉が、なによりも嬉しい。


 オリヴィアは感謝の気持ちを込めてフェルディナンドを見上げた。

 フェルディナンドは、ふいっと視線をそらしながら、「もう少し共に歩こう」とオリヴィアに肘を出す。

 オリヴィアは、その腕に迷わず手を伸ばした。


「はい。――今日は星も見えて綺麗ですね」

「そうだな。フィローンで見る星空と違いはあるか?」

「そうですね。少し違うようです。この季節だと、あの星は見られないし……」


 ふたりで夜空を見上げ、指さしながら、ゆっくり歩く。

 一生記憶に残る、幸せな夜になった。




     ☆ ☆ ☆




「また失敗したのか」


 クラレンス侯爵が苛々と、裏の執事を詰問している。

 裏の執事は、その場に跪き深々と頭を垂れた。


「申し訳ありません。ですが襲撃に使った者には、口止め用の魔道具をつけさせておりますのでご安心を」


 事実を打ち明けようとしたら即死する毒を体内に流し込む魔道具だ。足輪の形をしたそれは、一度つけたら二度と取り外せない造りになっている。


「当たり前だ。……フィローンの王族は暗殺者対策に優れているようだな。なんとも忌々しい」


 クラレンス侯爵が、ダンッと机を拳で叩く。

 その時、執務室のドアが前触れもなく開いた。


「お父様! 明日の夜会で、フェルディナンド様が婚約者を発表するという噂が流れておりますわ。フィローンから来た、あの惨めな姫が王妃の座につくだなんて、わたくしは決して認めません!」

「おお、ラヴィニア。もちろんだとも」


 クラレンス侯爵は愛娘に目尻を下げる。


「リラクシオンの王妃にはお前こそがふさわしい」

「ならば、早くフェルディナンド様を説得してくださいませ。わたくしももう二十歳。時間がありませんわ」

「わかっておる。可愛いラヴィニア、もう少し待ちなさい。必ずお前の願いをかなえてやるから……。明日の夜会に着るドレスは決まったのか?」

「はい。フェルディナンド様の髪の色、銀糸で刺繍を施した緋色のドレスにいたしました」

「おお、そうか。ならば、陛下の瞳の色と同じエメラルドを身につけていくといい。後で金庫から出して執事に届けさせよう」

「まあ、家宝の宝飾品を使ってもよろしいの? ずっと駄目だとおっしゃっていたのに?」

「もちろんだとも」


 これでご機嫌をとっておけるなら安いものだと、喜ぶ愛娘にクラレンス侯爵は目を細める。


 だがラヴィニアの不機嫌さは、これだけでは収まらなかった。


(誰よりも綺麗に着飾った姿で、あの惨めな姫をあざ笑ってやるわ)


 あの貧乏な姫君は、きっとまた借り物のアクセサリーで夜会に現れるに違いない。

 だから、身の程を知れと忠告してやるのだ。


(……でも、それだけじゃつまらないわね)


 どうにかしてオリヴィアをもっともっと惨めにしてやろう。

 ラヴィニアは密かに計画を立て始めていた。

読んでいただきありがとうございます。


これで4章は終了です。

5章は、夜会と真実。


数日お休みを戴いて書きためてから投稿します。

よろしくお願いします。

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