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Rad des Fatalität~希望の風~  作者: 甘藍 玉菜
【夢幻空疎の楽園聖都市】後篇
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微かに聞こえたその物音を聞いて、ドアノブに手をかけたままの状態で僕の体は硬直した。


誰かが中にいる・・・・


勿論、外から中を見るための覗き穴・・・なんてものは当然存在しないので、中の様子は分からない。

だけれども・・・扉に顔を近づけて耳をすませば、微かにだが人の気配がした。






「(人数は・・・多分二人)」


ルミニエールの兵士・・・・の、可能性は低いだろう。まだここまで進攻は進んでいないだろうし。

それに“俺”の記憶が確かならば、港周辺はあらかた焼き払っているからと油断している・・・はず。(多分)


だとしたら、避難してきた島の住民・・・・・の線も薄い。

だって、そもそも小屋には鍵がかかっているのだから。

わざわざ鍵付きの小屋を無理矢理にでも開けるよりかは、さっさと船に乗って避難したほうがはるかに早いし安全だ。


だとすると、後考えられるのは・・・・・・



「(火事場泥棒・・・か?)」


風の島は、基本的にはのんびりとした平和な島だ。

それでも外部から来た連中が騒動を起こす時もある。


以前弟妹が生まれる前にも、市場で放火してその混乱の中窃盗を働こうとした不届き者がいたっけ。


ちなみにソイツは、あろうことか母さんに見つかり人質にしようとしたらしい、が。

半殺し・・・どころではなく三分の二殺しにされて、村長に引き渡された。

その後・・・・・そいつがどうなったのかは知らない。


一部では魚の餌になったとかなんだとか・・・・




―――謎の悪寒―――




ま、まあとりあえず話を戻そう。(と、いうよりこの話はもうやめておこう。何より自分の命が惜しい)



とにかく、中にいるのが泥棒である可能性がある以上は、用心して入るべきだ。

ドアノブが壊されていないところを見ると、窓を割って中に侵入したに違いない。

(鍵は南京錠タイプだから、無理に開けようとするとドアノブが壊れることになる)

あと、皆は無茶せずに警察呼ぼうね!



なるべく音をたてないように、ゆっくり鍵を差し込むとドアノブを回す。

カチャリと小さな音を立てて、扉は開いた。

ゆっくりと扉を少し開けて隙間から中を確認すれば、灯りは流石に点けなかったのか室内は真っ暗だ。


そーっと音をたてないように中に入る。心配なのは通信機。

これは仕事用のだし、何より高い。

どのくらい高いって・・・そりゃ最新の良いスマホは買えるぐらいだよハハハ。









用心しながら小屋の中に入ったその真横から、何者かが手に持った“何か”を振り上げて襲い掛かって来た。

振り上げたものは、月の光を反射してきらりと光る。剣だ。


慌てて風を身にまとえば、相手はあまり接近戦やこういうことに慣れていないのか。

纏った風に剣が弾かれて、そしてその衝撃で襲い掛かってきた相手が軽く吹っ飛ぶのが分かった。



ドンっと勢いよく壁にぶつかった音が聞こえる。

あ、軽くじゃ無いなこれ。むしろ物凄く痛そう。



「うぅ・・・・」


やっぱりそれなりに痛かったのか、小さな呻き声が微かに聞こえる。



んんん?

と、いうよりこの声は・・・・・


慌てて玄関側にある壁についているランプに灯りを灯す。

(まあ、これの構造については後日)


淡いオレンジ色の光に室内がほんのりと照らされて、中の様子が分かるようになった。

ぱっと見た感じでは、やはり窓が割られていた。

だけれども室内を荒らされた様子はない。

最後に襲い掛かってきた人物。ランプの光に照らされて浮かび上がってきたのは・・・・



リンヨウと、フォスファ第一王女だった。











小屋の隅、角の所に第一王女が身を小さくして座っている。

その王女を庇うようにして、リンヨウが手を大きく広げている。

“俺”としては、久々の再会である。


なるほど、あの時兵士達は二人が逃げ出したみたいな会話をしていたが・・・・・・まさかここに逃げていたとは。


“何時ものように”思わず声をかけそうになったが、慌てて飲み込んだ。

いくら“俺”の時は仲が良かったとはいえ、今は完全に赤の他人だ。

気安く声をかけられる関係ではない。


それになにより、今は敵対関係にある。

射殺さんばかりに此方を睨みつけてくるリンヨウに、チクリと心が痛むのを感じた。





睨み合いにも近いその状況で、先に口を開いたのはリンヨウの方だった。


「魔物め、僕が生きている限り王女様には指一本として触れさせるものか」


どうやら、僕が二人を殺すためにここにやってきた・・・・と、思っている様子。

それを聞いて、僕はゆっくりとそれを否定した。


「いや、そんな余裕は無いというか・・・・っていうか人殺しはちょっと」


うん、それは流石に勘弁してほしい。逮捕されるし。


しかしながら、リンヨウは僕の言葉が信じられないのか、更に続けてこう言ってきた。


「じゃあどうしてここに来た。ここにはもう脱出の船とかは残されていないはず、嘘を付くな!」


いや、船はあるんだけどね。隠してあるだけで。っていうか、二人がここに来たのは脱出用の船を探す為か。

それで探して見付からなかったから、こうして隠れているのね。



「いやそんなことを言われても・・・・だってこの小屋僕のだし」

「・・・・・え?」

「それよりも、灯りが外に漏れるから扉と窓の雨戸閉めていい?・・・・・ここが見つかってほしくないのは、そっちも同じでしょ?」

「・・・・・」




あえて二人が何者なのかと問わずに、同じ逃亡者として扱う。

そして、そういう答えが返ってくるのは流石に想定の範囲外だったのか、リンヨウは一瞬ポカーンとした顔になった。


うん、リンヨウ・・・・確かに君は兵士とか絶対合ってないよ。



どうしようか迷っているリンヨウに、今までやり取りを聞いていた王女が彼の肩へちょんちょんと軽く触れる。

そしてそのまま、何やらコニョコニョと話し始めた。

何の会話をしているのか・・・流石にそこまではわからないが、リンヨウはかなり渋っているようだ。



しばらく渋い顔をしていたが、覚悟を決めたように彼は言った。



「・・・・・わ、かった。だけど、変な真似をしたら」

「・・・・しないよ、そんなこと」


そう、仲の良かった二人にそんな事はしないし・・・したくない。

コチラを伺う視線をその身で受けながら、僕はゆっくり扉を閉めた。






・──────・





「(さあて、マジでどうしよう)」


万が一の時のために用意しておいた避難セットを取り出して、その中を確認する。

とはいえ、Lサイズのスーツケース位はあるカバンの中に入っているのは。

干した果物や肉、保存のきくパン等の携帯食料と水。

そして栄養剤や護身用のナイフなどである。



「(この世界、缶詰とかは無いみたいなんだよなぁ。瓶詰めならあるみたいだけど)」


まあ瓶詰めではあるが、硝子では無くプラスチックの様な割れにくい物が使われているみたいだ。


そして一応は、こちとら地震大国の生まれである。

避難セットがどれぐらい大事なのかなんて、十分その身をもってわかっている事。


そこへ、更に通信機やら仕事で使う物等を入れていく。うん、高価だからねこれ。

高 価 だ か ら ね。


さて、船に繋いである鎖の鍵も持ったことだし、この小屋が相手に気が付かれないとは限らない。けれども・・・・


「(問題はあの二人・・・・なんだよな)」


このままここに居続けることはできない。それは二人もそう考えているはず。

“俺”としても、見殺しにはしたくないが・・・・問題は僕を信じてくれるかどうか。

王女はわからないが、リンヨウは未だに僕を睨むようにして行動の一つ一つをを監視している。



・・・まあ、またグダグダ悩んでとんでもない結果になるよりかはマシ・・・なのかな。

とりあえず僕は、意を決して話しかけてみることにした。



「えーと、僕はもうこの島から脱出しようと思ってるんだけど・・・」


どうする?と、視線で投げかけてみれば。

意外なことに、リンヨウではなく王女がその問いに答えた。


「・・・・私達も、同行しても構わないでしょうか」

「フォスファ王女様?!」


それはいけません!と続けようとしたリンヨウを遮り、王女は更に言葉を続ける。


「彼は信用できます。これはまぁ、私の勘でしかないのですが。どちらにせよ、船がない以上は彼に助けてもらうしか他に手はないのです・・・・・それにリンヨウ。貴方は助けたい友がいると、逃げる際にそう言いましたね?だとしたら、今は何が何でも生き延びなければなりません。例え後ろ指を指され、どんなに馬鹿にされようとも。とにかく今は生き延びなければ」

「それは・・・そう、ですが・・・・」

「大丈夫です。ハヤテ様はゆ・・・ケフン強いお方です、そう簡単には死にませんよ。ハヤテ様の強さを信じましょう」

「(よりによって“俺”の事か!)」


ごめんなさい、“俺”はこの後王子に首を刎ねられて死んじゃいます・・・・なんて口が裂けても言えない。


“俺”の事は、僕からしてみればもうすでに終わったことだ。だけれども、二人にとっては現在進行系なわけで・・・そしてそれも知らずに“俺”の心配をしてくれてる。


“俺”は・・・なんとも申し訳ない気分になった。



「わかりました・・・・・・・はぁ、今はお前を信じよう」

「リンヨウ、お前呼びは失礼ですよ・・・・申し訳ありませんが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「ああはい、えっと・・・自分はゲイル、といいます」

「ゲイル様ですね。私はフォスファ、と申します。彼は・・・」

「・・・・リンヨウ・フォークフィールド」


ブスっとした顔で、渋々とりんようはそう答えた。

とりあえず、ごたごたとしている間に結構な時間を消費してしまった。

早くこの島から脱出しなければ。


準備した荷物を持った俺に、フォスファ王女がおずおずと話しかけてきた。


「あの・・・申し訳ありませんゲイル様」

「はい、何でしょうか?」

「失礼を承知でお聞きしますが、どうやって脱出するのですか?見た感じではもう港に船は残されていないみたいなのですが・・・」

「ああ。盗まれたりしたら大変なので、船で生計を立てている人は大体予備の船を隠しているんですよ」

「船で生計・・・」

「ええ、漁とか商いとか・・・僕は船頭の仕事をしています」

「え、若いのに仕事?学校とか・・・」

「弟妹がまだ幼いので。それにここからだと通うのに時間がかかりますし、寮のあるところは学費が高いので」

「そうか・・・大変なんだな」


猟や商い、そして学校。まさか攻め込んだ先にいた魔物の口から、そんな単語が出てくるという事は予想の範囲外・・・なのだろう。

まあ、リンヨウも一応は兵士。僕達の悪い話は散々と聞かされてきただろう。

“俺”だって、耳にタコができるぐらい聞かされたし。


「一応、用心のために灯りは付けずに行きます。でも足場が悪いので、気を付けて下さいね」


そう僕が言えば、二人は黙ってゆっくりと肯いた。



・──────────・





「しっかり掴まってて!!」


僕は二人にそう言うと、ありったけの魔力を渦に変えて船を進めていく。

水中で泳ぐのと同じ要領だ。

生憎、この船には帆はないのでそこまでスピードは出ないのだが。


「リンヨウリンヨウ、凄いですよ!経験したことのない速さで船が進んでいきます。ゴンドラってこんなにスピードが出るんですね!!もう島がゴミのようですよ!」

「お、おうじょせなはたたくのやめてくらはいはきそうれふ・・・・」


おーう、王女様予想以上のはしゃぎ様。危ないので窓から顔は出してはいないが、なんというか・・・・この人ジェットコースターとか、笑いながら乗りそう。

ふじゲフンゲフンに連れて行ってみたい。

反対にリンヨウの顔色はすこぶる悪い。青を通り越して白い。と、いうよりあれはかなりやばい。

これは、絶対に絶叫系に乗ってはいけない人の反応だ。


「あのっ、危ないんで顔とか出さないでくださいね!!」

「ええ、大丈夫よ!」

「おうじょおちつい・・・ウグ。は、はkunm;x,/dl:\[,.x/\:///×××」

「リンヨウさーーーん?!」


あ、これだめなやつだ。最早人としての言葉を話せていない。

とりあえず、もうしばらく進めばハンターさんと別れたポイントに到着するはず。そしたら一旦休憩しよう。いや、休憩しないとかなりマズイ。


「とりあえず、もうしばらく進んだら休みましょう。それまではどうか頑張ってください!!」

「ええ、大丈夫です!」

「     」



王女様楽しそうだなおい。そしてリンヨウは・・・・・





返事がない、ただの屍のようだ。

次回、あの置き去りにしたツンデレ再登場。

そしてお名前判明です。

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