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Rad des Fatalität~希望の風~  作者: 甘藍 玉菜
【夢幻空疎の楽園聖都市】中篇
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「危ねぇ!」



パァン!と乾いた音が鳴り響き、触ろうとした綿毛が弾け飛んでいった。

どうやら、おっさんが蹴り飛ばしたらしい。

慌てた顔のおっさんが、俺に怒鳴るように言ってきた。


「それに触るんじゃねぇ、死にたいのか!」

「死ぬって・・・そんな大袈裟な」

「なんだ、坊主はギフトの扱いは知ってるのに“災害指定生物”の事は知らねぇのか?やっぱり、どっかのぼんぼんか」

「さ、災害指定生物?」


なんだその明らかにヤバそうな名前は、そんなの訓練中も聞いたことがない。

そんな俺の顔を見たおっさんは、深いため息を付いた。



「“災害指定生物”ってのはなぁ・・・一匹いるだけで下手したら国一つが滅びるほどのヤバいもんだ。ギフトの扱い方は一丁前なクセに、常識は習わなかったのか?」

「な、俺は・・・」



異世界から来た、なんてそんなことは流石に言えない。

なにせ勇者召喚は、国の中でもトップシークレットの扱いだ。

モゴモゴと口籠もった俺を見て、おっさんは再びため息を付いた。



「まあ、ワケありは俺も同じだからな深くは突っ込まねぇよ」

「・・・ありがとうございます」

「だがな」


そう言うと、おっさんは再び脚を上げて自分の背後にいたナニカを思いっきり蹴り上げた。


「サッサと逃げるぞ、どうやら音で寄ってきたみてーだからな」



おっさんの蹴り上げたモノを見れば、それはまるで丸いボールのようなモノだった。

先程の綿毛のようなモノ同様、紫色にうすくひかっている。

大きさは、バレーボール位あるのではないのだろうか。

それは壁に当たり、何回かバウンドするようにして地面に落ちると、ブシューーッと紫色のガスのようなものを噴射して萎んでいった。



よく見れば、同じようなのが何個、いや何匹?もふわふわと浮遊しながら寄ってきている。

おっさんはそれを確認すると、舌打ちしながら急いで通路を走り出した。

俺もおっさんに置いていかれないように、急いで後を着いていく。




「アレは、一体、なんなんだよ!」

「ポワズンだ!アレに触るなよ、全てが毒の塊みたいなやつだからな!!」

「毒!?」

「綿毛のようなものにも触るなよ!アレは胞子だ。触れればその瞬間寄生されて連中の苗床になるぞ!!」

「寄生!?」

「ああ。触れたら最後、一瞬で菌が全身に回って脳味噌を支配されちまうからな」

「なにそれ怖い!!」



アレ、そんなに危険なモノだったのか!!

まるで女児の髪飾りについているようなボンボンみたいな形のやつが、おっさんの説明を聞いた後だと凄まじく恐ろしいものに見えてくる。



通路は一本道で、ポワズン?というのを避けながら俺達走って行く。

その道の端々に、木の根のようなものを全身から出した状態で絶命しているミイラ状態の死体が、幾つか転がっているのを見付けた。



・・・・なるほど、胞子に寄生されたらああなるわけね。これはホントぞっとしない話だ。




「アレくらいでビビってるんじゃねーよ、此処にはもっとヤバいのが彷徨いてるんだからな」

「もっとヤバいの!?・・・・って、おっさんさっきから何探してるんだ?」

「鍵だよ鍵、この手錠のな!後は武器だ。さっき言ったその“もっとヤバいの”に遭遇した時にだな・・・なんつーか」

「・・・・もしかして、“もっとヤバいの”に遭遇した際に吹き飛ばされて、その時に鍵とか武器とか丸々落として。牢の中に逃げたは良いものの、一人じゃどうしようもなくて途方に暮れてた・・・・とか?」

「・・・・・・・」



あ、顔反らしたということは図星か。

幸いなことに、今の所閑散とした通路は、せいぜいボールのような生物“ポワズン”を除いて動くモノはなにもない。



「ああ、もう少しミイラじゃ無けりゃあその死体も動いてるぜ?まあ、今はもう子実体が育ちきっちまってるし、菌糸体もギチギチに全身を絡めている状態だから、もう歩いたりしねぇがな」



マジかよ。

確かに、よくよく見れば時折腕がプルプルと動いている。あれって中の菌糸体がパンパンにまで張り巡らせているからか。


よかった、ミイラ化してて。


じゃなければこの小説のジャンルが、異世界冒険ものからゾンビホラーものに変わっているところだ。






・――――――――――・




似たような構造の通路は、終わりが見えずにどこまでも伸びている。

だけれども、最初は何の変化も無かったソコは、段々と瓦礫などが目立ち始めてきていた。

崩れた壁や、天井から落ちてきたらしい残骸。何かが入っていたらしき、バラバラになった木箱等々・・・・・


古い通路だから・・・なら言い訳になるだろうが、明らかにコレは最近出来たモノのようにも見えてしまう。

まるで“ナニカ”がここで暴れまわった跡のようだ。





「この辺で落としたんだがな・・・・」


そう言いながら、おっさんはキョロキョロと周囲を探し始めた。

なるほど、つまり“もっとヤバいの”というのは、かなりの暴れん坊なのか、それとも通路を破壊してしまうほどデカい奴なのか・・・・・そのどちらかと考えたが、俺にはどちらも正解のように思えて仕方ない。



俺も、おっさんから少し離れて探すのを手伝うとする。

瓦礫を持ち上げて、その下を確認しながら探していく。

聞けば、鍵は掌におさまるぐらいの小さい鍵らしい。金色に塗装されているからかなり目立つそうなのだが・・・






「中々見付からないなぁ」


まあ、小さい鍵なんてそう簡単に見付かるわけがないよねー。特に、こんなに崩壊しきった所じゃ

おっさんの方を見れば、まるで機械のように黙々と瓦礫を持ち上げながら我武者羅に探している。







その時だった。



ズシンッと、鈍く地面が揺れた。



とはいえ、このぐらいの揺れならばそこまで怖くはない。おっさんの方を見れば、おっさんは手を止めて辺りを警戒している。



「なぁ、どうしー」

「シっ、少し黙ってろ坊主」


小さかった揺れは、段々と大きくなっていく。

いや、これは・・・・・ただの揺れじゃない!!



ズンッズンッと、まるで太鼓でも叩くかのように音と揺れは規則正しく響き渡る。

天井からは、パラパラと砂ぼこりが落ちていく。


それは、ズンッと一番の大きな揺れが襲ったその一瞬だった。



「?・・・・とまった、のか?」


天井から落ちてきた瓦礫に当たらないように、壁際まで寄った・・・・・その瞬間だった。



―ギャアアアアアアアア!!!ー



「な、一体なんなんだよ!」



凄まじい声の悲鳴が聞こえた、その次の瞬間。





ドガァアン!!という大きな音と共に、近くの壁がまるで爆発でも起きたかのように吹き飛んだ。

パラパラと瓦礫が落ちる中、ズリ・・・ズリ・・・と、とても大きな物体が這って来る、そんな音が聞こえた。



そして、話は冒頭に戻るのだ。




「ぼさっとするな、壁に張り付いて隠れろ坊主」


放心状態だった俺は、おっさんのその言葉を聞いて、慌てて壁へと再びへばりつく。



「あ、あああれいいいい一体いい!」


あまりの衝撃で、呂律が回らなくなっているが許してほしい。

いやだって、あんなの見たら誰だって混乱するから!パニック状態になるから!!


「・・・・とりあえず落ち着け坊主、深呼吸だ」

「ぬ・・・う、うん」


おっさんの言う通り、俺は深く息を吸ってそしてゆっくりと吐いた。



よし、ちょっとはマシになってきた感じがする。

何とか心を落ち着かせて、俺はマジマジとその化け物を見た。


サメのような頭と、ツチノコのような寸胴の体を持ったソイツは、どうやら目は見えていないらしくのっそりのっそりと俺達の目の前を通り過ぎていき・・・・


そして通路の奥へと消えていったのだった。






俺達が進もうとしていた方向へ。









「・・・・何だったんだよ、あれ」

「さあな、俺は知らねえよ・・・・・・っチ、駄目だここにもねぇな」


あらかた瓦礫の中を探し終えたのか、おっさんは舌打ちしながら化け物の消えていった方向を見つめる。



「あっちには進めねぇな」

「出口あっちのほうにあるのか?ってか、それじゃあここから出られないじゃんか!」

「ああ、まあな・・・・・」


おっさんは何か考えているのか、空のような返事しか返してこない。


化け物は進行方向へと消えていった。目は見えていないようだが、通路いっぱいに肥大化したその体を避けて尚且つ再び見つからないようにやり過ごさなければならない。

先程は何とか見つからずに済んだが、次再び同じようにやり過ごせるとは到底思えない。


俺は、通路片隅でぼろ雑巾のごとくズタズタにされて絶命している泥棒の死体を、チラリと横目で盗み見る。

きっと、この男も同じことを考えていたはず。それなのに、見つかってしまいこのように死ぬことになってしまったとしたら・・・・・



「いや待て。希望を持てよ坊主、諦めるには早すぎるぜ」


おっさんはそう言うと、化け物が出てきた壁の穴の方を見てニヤリと笑った。

俺もつられてそちらの方へと目を向ければ、今いる通路とは別の全く違う通路が出てきた。


今いる石造りの通路とは違い、こちらはまるで工場の中のような造りをしている。

天井や壁、床中をなんだかわからないパイプがまるでミミズが這っているかのように縦横無尽に張り巡らせていて、網状の階段や細い回路がついている。

しかし、先程の化け物が通ったせいなのだろうか。

こちらの方の通路も、至る所でパイプやら何処に繋がっているかわからない回路や階段やらが破壊されているのが見える。


唯一の違いは、通路の至る所に誰のモノかもわからない“犠牲者達”の血や肉片が飛び散っている所だろうか。


思わず後ずさりすれば、おっさんはそんな俺を見てこう言った。



「どっちを選んでも、俺は構わねぇぜ?ただ言えることは・・・・」


どこか遠くで、再びはち切れんばかりの誰かが絶命する声と、何処かの壁が壊される音がした。


「・・・・・さっさとしなけりゃあ、どっちを選んでも辿る末路は同じだってことだけだ。俺は、まあ鍵は今は別にいいぜ?てめぇの命の方が大事だって話だからな、最終的には」

「・・・・こっちの道にする」


俺は、化け物が出て来た方の道を進むことにした。さっきの道だと、再びかち合う可能性があったからだ。

高く積まれた瓦礫を、やっとこさ乗り越えて俺達は新しい道へと足を進めた。




進むも地獄、戻るも地獄。なんていう絶望的な状況。

ちなみに子実体って、キノコのことです。


さて、コイツの名前何にしようか・・・・

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