第五話⦅-災害指定生物-⦆1/5
バイオハザード、という言葉がある。
有名なのは、とあるゲーム会社が製作した大ヒットゲームのタイトルなのだろうが。一般的には、有害な生物の危険性を指す生物災害のことを言うらしい。
主に、人体に移しやすい病毒を持った危険性のある物質のことだそうだが、最近では遺伝子操作された動植物の事もカテゴライズされるそうだ。
詳しくはググってくれ、流石に。
さて、何故俺がこんなことを考えているのか。答えは至ってシンプルでありとても簡単なものだ。
視界の端には、俺と一緒に落ちた泥棒の・・・・・・
ズタズタに引き裂かれた残骸。
そして正面には・・・・・・・・大きな化け物。
その大きさは、通路いっぱいにギチギチに詰まっているぐらい大きい。
サメのような尖った頭を持ったソイツは、まるでワニのような裂けたように広がる大きな口を持っている。
その大きな口の中は、まるで鋸のようなギザギザとしたおぞましい歯が並んでいた。
ニチャリと、ソイツが口を開ける度に誰のものとはわからない、血の混じった唾液が糸を引く。
サメのような、だけれどもワニのようなソイツの胴体には足がない。まるでツチノコのような寸胴の短い胴体をしている。
色の抜けたその体と、ガラス玉のようなその目は、生き物というよりはまるで死体のようだ。
そしてその寸胴の体からは、まるで冬虫夏草を思わせる子実体が、木の根のように何本も絡み合い伸びていた。
「ぼさっとするな、壁に張り付いて隠れろ坊主」
まるで烏を思わせる、全身黒ずくめの長身痩躯のおっさんが俺にそう言った。
・・・・・一体何故こんなことになってしまったのか、その答えもまたシンプルであり簡単なものだった。
─数十分前─
「俺と取引しねぇか?坊主。そうすりゃあ出口まで案内してやるぜ?」
牢の中にいた男は、俺の姿を確認するとそう言った。
「嫌だ」
「おいおい即答かよ、つれねぇな。一応聞くが、その理由は?」
「そんないかにも捕まりました、な感じの怪しい奴とは正直言って物凄く関わりあいたくない」
そこまでハッキリと言ってしまえば、男はポカンとした顔をした後に帽子を被り直すと軽く笑い出した。
「はっはっはー、どこぞの甘ったれた金持ちのボンボン小僧かと思えば、中々ハッキリと言う坊主じゃねぇか。気に入ったぜ」
どうやら俺は、いつの間にか試されていたようだ。
男はゆっくりとベッドから立ち上がると、俺の方まで近づいてくる。
「なあに、取引内容は至って簡単な話さ。俺のこの手にかけられた手錠の鍵を一緒に探す、それだけでいい」
「・・・・仮に一緒に探したとして、鍵が見つかった後で“お役御免”にされるかもしれないじゃないか」
「なるほど、それなりに警戒心は持ってるわけだな。だがそれがいい。こんな怪しいおっさんを簡単に信じるほうがおかしいってもんだ、ますます気に入った。じゃあこうしようぜ坊主、鍵は見つけてもお前が持っていろ。そんでどっか人のいる街中で鍵を外す・・・これでどうだ?」
「・・・・・」
むう、と俺は考える。この男は怪しい、かなり怪しい。正直牢に入っている手錠に繋がれた人間なんて、S級要注意人物だ。
だがしかし、出口を知っているのもおそらくは事実。正直、俺は再びあの悪臭が立ち込める通路になんて正直言ってさ迷い歩きたくはない。
かなり抵抗はある、が・・・・
「・・・・・わかった。だけど変な真似をしたら直ぐに置いていく」
「よし、取引は成立・・・だな?」
「それに・・・・」
「お?」
「よくよく考えれば、なんかあった時におっさん盾にして逃げればいい話だし、な」
「・・・・・正直すぎるな、坊主。ってかおっさんって言うんじゃねぇお兄さんって言え」
・――――――・
「とりあえずは、取引は成立・・・ってことでいいな?」
「まあ・・・・俺一人じゃどうしようもないし。だけど、おっさんどうやってここから出るんだ?一緒にって事は、おっさんもそこから出て鍵を探すんだろ?さっき別の牢で試してみたけど、中々開かないぜこの鉄格子は」
「おお、まあ引いたりするのは無理だがなぁ」
そう言うと、おっさんはジリジリと後ろに下がる。
おっさんのやろうとしている事を察した俺は、急いでそこから離れた。
「うらぁ!」
体を正面に向けたまま、その長い脚を一度折り曲げて、一気に体重を乗せて鉄格子を蹴り上げる。
いわゆるケンカキック、またの名をヤ●●キック・・・
バキィッと音を立てて鉄格子は壁へと吹っ飛んでいく。
細身の割には、かなり力が強い。蹴られた鉄格子はぐにゃりと歪にへし曲がっている。
「・・・これ、おっさん一人で逃げられたんじゃ・・・」
「まあそうなんだがなー、ちょっと俺一人じゃどうしようもねぇー事態になっちまってだな」
「どうしようもない事態?」
「まあ、遭遇しなけりゃあ済む話だ」
「そうぐう・・・?」
俺は助けたことをジワジワと後悔し考え始める。
これ、やっちまった感じ?やっちゃった感じ?
頭を抱える俺を尻目に、おっさんは懐をゴソゴソと探り、ある物を渡した。
「ほれ、これ着けろ坊主」
「・・・ガスマスク?」
「この先、これがないとキツいぞ?」
「臭いならある程度は我慢できるけど・・・」
「ばぁか、臭いなんてそんな生易しいもんじゃねぇ・・・・死ぬぞ?」
ケラケラと笑っていた顔から、急に真面目な顔になりまるで脅すようにそう言われる。
それを聞いて、俺は慌ててガスマスクを顔に着けた。
それはTVで見るような顔全体を覆うようなゴツイタイプでは無く、口元だけを覆うシンプルなタイプの物だ。
この先、今まで来た道とはまた違った厳しい所を通るのか・・・・おれがそんなことをぐるぐると考えていると。おっさんは、いつの間にか蹴った鉄格子の一部分をへし折ると俺に手渡した。
「無いよりはマシだろ?」
「ああ、ありがと」
これも武器としてカテゴライズされるのだろうか。
俺はとりあえず、習った通りにギフトの力を込める。
ふわりと、温かい何かが腕から掌を伝い、鉄の棒の方に伝わったような気がした。
「なんだ、坊主は魔力が使えるのか?」
おっさんが、少しびっくりしたように呟いた。
んん?今なんて言った?
「魔力?ギフトじゃなくて?」
俺が聞き返せば、おっさんはハッとした顔になり、帽子を深くかぶり直した。
「いや、なんでもねぇ忘れろ・・・それよりも、だ。この先はヤベぇのがいる、気を引き締めろよ?」
「ヤバいの?」
「ソイツは説明してやるが、兎に角先に行くぞ。もしかしたら今の音で寄ってくる可能性もゼロじゃねぇからな」
「わかった」
通路の更にその先。入ってきた場所とは正反対の所に、最初の扉よりももっと酷く錆びた扉がポツンとある。
おっさんは扉に耳を当てて確認すると、ゆっくりと扉を開けた。
ギギギギと鈍い音と共に、ゆっくりと開かれたその先は、まるで地下軍事基地のようなかなり広い通路が広がっていた。
レンガのようなもので作られており、両脇の壁には大小様々なパイプが幾重も連なり通路の先に伸びている。
灯りはどうやらまだ生きているようで、天井にはオレンジ色の灯りが二列に並んでいた。
その通路の中で、異質なものが幾つかある。
というよりは、浮いている・・・・?
紫色に薄く光るそれは、まるでタンポポの綿毛のようだ。掌サイズで、ふんわりと宙に漂っている。
「なんだこれ?」
指で恐る恐ると触ろうとした。
ちょっとホラーチックになります。




