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終章 来世

知佳から届いた一通の手紙。

失われたものの重さを抱えながら、晴人は来世に小さな祈りを託す。

判決の後、しばらくして、知佳から一通の手紙が届いた。


便箋は白く、文字は丁寧だった。

驚くほど乱れていなかった。



――――――――


晴人さんへ


元気ですか、なんて聞くのは変ですね。


私の方は、相変わらずです。

でも、少しずつ、朝と夜の区別くらいはつくようになりました。


紬の部屋は、まだそのままです。

片付けられません。

片付けたら、本当にいなくなってしまう気がして。


でも最近、あの子の服を一枚だけ洗いました。

柔軟剤の匂いがして、少し泣きました。


晴人さん。

あの時、私はあなたにひどいことを言いました。

終わらせて、なんて。

自分では立っていられないくせに、あなたを巻き込んだ。


ごめんなさい。


それでも、最後までそばにいてくれて、ありがとう。


私は、ちゃんとあなたを愛していました。

最初から最後まで、それだけは嘘じゃありません。


もし許されるなら、来世では、もっと普通に会いたいです。


普通の恋をして、普通に喧嘩して、普通に年を取って。

紬が言っていたみたいに、あなたとの子どもを抱いてみたい。


そんな来世があるなら、少しだけ、生きるのが怖くなくなる気がします。


さようなら、とは書きません。


また、どこかで。


知佳


――――――――



手紙を読み終えたあと、僕は長いこと動けなかった。


窓の外には、午後の光が落ちていた。

淡くて、どこにでもあるような春の光だった。


その光の中で、ふと紬の顔を思い出した。

嬉しい時に泣いてしまう、あの子の笑い方を。


知佳の濡れた瞳。

紬の濡れた瞳。

そして、最後にようやく溢れた自分の涙。


人はたぶん、悲しい時だけ泣くわけじゃない。

愛しい時にも。

失った時にも。

どうしようもなく、届かないものを知った時にも、泣く。


僕はそのことを、あまりにも遅く知った。


もし来世があるなら。

そんなこと、以前の僕なら信じなかった。


でも今は、少しだけ思う。


次こそは、あの二人が、もっと静かな場所で笑えますようにと。


そして、その時こそ、濡れた瞳の意味を、ちゃんとわかりますようにと。

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