2-10(ウィリアム視点)
「なんだ、ご機嫌だな」
王宮で食事を終え、広く豪華な家族用の部屋
には王と王妃、そして息子のウィリアムの3人がいた。
壁際には侍従、メイドが控えているが、
いないも当然に振舞っており、
ここでの会話を外に漏らすような者はいない。
「分かりますか、これを見て下さい!」
ウィリアムがばーんと広げたのは、
白いハンカチである。
そこにはイニシャルと青い薔薇が刺繍されている。
「あら、綺麗な刺繍ね」
王妃が刺繍を見て思わず声に出す。
「そうでしょう!キャサリンが縫ってくれたんです!」
「しかし、刺繍はフレデリックに渡したと聞いたが」
王が答える、全て情報は耳に入っているようだ。
「フレデリックはイニシャルだけです、
私のは青い薔薇入り、私の勝ちです」
「それで指輪を渡したの?」
王妃が続ける。
「はい、彼女はずっとつけてくれています」
自分がずっと身に付けている物を渡す事、
しかも紋章入りとなると、求愛行為に近い。
そして、その指輪を彼女が受け取ってくれた事に、
かなり満足しているようだ。
「キャサリンは好きな人はいないと言ったのだろう?」
「まだ、完全に振り向いてもらった訳ではありませんが、
必ず、彼女から愛の言葉をもらってみせます!」
単なる刺繍がされたハンカチを、
どんな宝物より大事そうにして、
国1位2位を争う職人の指輪を、あっさりと渡してしまう。
遊び相手なら心配だが、
調査もさせて結婚相手として、
なんだ遜色ない人物とあっては、
父親として、純粋に息子の恋を応援するつもりでいた。
「それと母上、最近演劇があった作品の
原作の小説をお持ちでしょうか?」
「持っているけど?どうして?」
「キャサリン嬢は演劇を3回も見る程、
その作品が好きだとか・・・話になるかと思って」
王妃は目を見開く。
女性には興味が薄く、また女性が興味を持ちそうな物に、
一切興味を示さなかったウィリアム。
演劇など、まったく見向きもしなかったのに・・・
恋をすると、こんなにも変わるものねと思う。
「心から惹かれる相手に出会える事は、
運命としかいいようがない、
その運命を手にできるかは、
自分の行動にかかっている」
「はい!必ず、運命を手にいれます」
強い目をして宣言する息子に、王は父親の目を向けていた。