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帝都の復讐姫は作家先生に殺されたい 浅草十三怪談  作者: 遊森謡子
終幕 復讐の物語を記すとき
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終幕 復讐の物語を記すとき

第六幕(4)と終幕、同時投稿です。

「『この怪談を、真実と思うか、虚構と思うかは、貴方次第である。完』……と。よし」

 万年筆を置いて、悧月は伸びをした。

 蓄音器が『カメリア』店内に洋楽をけだるく流す中、女給がコーヒーを運んでくる。

「先生、お待たせしました。あ、完成したんですか?」

「うん、できた。あー気持ちいいね、『完』!」

「お疲れ様です」

 花墨はコーヒーをテーブルに置いた。同じテーブルには原稿用紙の他に、資料用の新聞も載っている。


 高鳥家の悪事は、憑捜によって白日の下に晒されていた。辰巳家も、もはや気兼ねなく動けるようになったようだ。

 ことが大きすぎ、時間軸も長すぎて、一般の人々にはピンとこないかもしれない……と花墨は思っていた。しかし、憑き病の元が断たれたという事実に皆が喜び、病の原因が高鳥家だったことに怒り、世間はその話題で持ちきりだ。

 秀一は焼死体で見つかり、生き残った一族は対応に追われている。焼け跡では大々的にお祓いが執り行われた。

 高鳥屋百貨店は閉鎖され、どこかが買い取るのか、あるいは取り壊すのか、まだ決まっていない。

 工場は、人を駒のように考えている秀一が経営していたわけで、案の定、工場法違反がいくつも発覚した。しかしすぐに買い手がついたので、女工たちは以前よりいい条件で働いているらしい。

「バーネット元大使は釈放されて、本国に帰ったよ」

 剣柊士郎が『カメリア』に来て教えてくれた。

「礼を言われたけど、彼にとっては全て遅かったんだ。……まあ、何もわからないよりはいい、か」

 複雑そうな表情をしていた彼もまた、忙しくしている。憑き病がなくなった結果、憑捜は人員整理が行われ、規模が少しだけ縮小されたのだ。

「とはいえ、憑き病以外の怪異がないわけじゃないからな」

 柊士郎は今日も、浅草を巡回しているはずだ。『カメリア』にもよく訪れる。


 花墨は一度、時庭の親戚を訪ねるつもりだ。

 彼女の実家は、凄惨な事件があったためにすでに取り壊されてしまっていたが、親戚のところには何か両親の形見が残っているかもしれない。

 花墨は遺産すら受け取っておらず、少々揉めそうだが、薬師寺誠子が弁護士を紹介してくれた。

 薬師寺夫妻とは、いい付き合いが続いている。


「先生、後で原稿読ませてくださいね。でも……どんなふうに怪談を締めくくったんですか?」

「君のお望み通り、娘は復讐を果たして死んだから、約束通りにこの物語は書かれたのだ……ってことにしたよ」

「絶対、その方が物語としてはいいですよ。……ふふ。殺してもらっちゃった」

 花墨は笑顔になる。


 まだ笑うことに慣れていないが、もう罪悪感は感じていない、曇りのない笑み。悧月はそんな彼女の笑顔に、いつも見とれてしまうのだ。

 復讐のためなら死んでもいいと思っていた花墨は、殺された。この笑顔を携えて、彼女は物語のその後も、人生を歩んでいく。


「か、花墨ちゃん、今日は仕事の後は」

「あっそうだ、さっき森さんから電話があったんです。進捗どうですかって」

「え待って、いつの間に担当氏と親しくなったの!?」

「いつでもいいじゃないですか。聞きましたよ、華族会館で鍵を借りる時、先生がなんて言い訳したか」

「うっ! そ、それは、泥棒するために仕方なく……!」

「嘘がお上手ですね。さすがは作家先生」


 そんな花墨は、カフェの女給をしながら、とある神社をよく訪れる。新しく建てられた、ほとんど祠といってもいいくらいの小さな神社だ。

 秋になると彼女は、自分で育てた菊の花の鉢を境内に並べ、両手を合わせるのだ。

 いつか遊んだ女の子を思い浮かべながら。


【完】

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

コンテスト締め切りに間に合わせるため、だいぶ駆け足になってしまいましたので、「大正時代のここんとこ、もっと書いて!」などありましたら、ぜひ教えてください。改稿できたらその時に書きます(笑)

「よかったよ」程度でもOKなので、感想など反応お待ちしております。

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