拳闘士とイベント戦その2
よくよく考えたら主人公が子供殴るのは良くない気がする
「卑怯だなんて人聞き悪いなぁ。ここはルール無用のPVPイベントなんだよ。ボクだって頭下げて協力仰いでるんだから、それ相応のポイントは稼がせてもらうからね」
作戦を指揮している少年も短剣を手にして動き始める。
この集団は全員が未成年で構成されているものの、鶴翼のフォーメーションを保ちながら一糸乱れず接近してくる辺り、凄まじい特訓をこなしていると見受けられる。
「せいやっ!」
「死んで消えろ!」
先人切って攻撃を仕掛けるはブロードソードを手にした剣士のコンビ。
「んなおいそれと死ぬかよ。う……」
「ヒット! 仕留め損なったがもうすぐ倒せる!」
敵の剣による連携は捌ききったが、二人の距離間隔から突撃された二又の槍がコウリンの胸に突き刺さる。
複数への攻撃手段の無さに、ゲーム内でも子供を殴るのが躊躇われる良心、二重の意味で相性の悪い相手だ。
残すHPはあと3割、ここまでで襲いに来なかった者達は包囲を敷くためにじわじわと側面に回りつつあった。
「いよいよ手強い相手が登場してきたな。まだ子供を殴るとかアブない真似する決心もつかないし……こうなりゃうだうだ悩んでられないか。ここで使わずしていつ使う」
ただし、コウリンのアイテムはまだ未使用であったため、イベント用ポーションを即使用しHPを取り戻す。
「ふう……さあ第二ラウンド始めようか。おお?」
気を取り直した矢先、矢のように飛んできた刃物が額と左膝に直撃する。
ポーションを使い終わって立ち止まった瞬間を狙われていたようだ。
「お兄さん甘いね、のこのことボクの投げナイフの標的になるなんて。でもボクら子供に手をあげずここまで耐え忍んだのは評価してあげるよ」
少年は倫理観を守ったことに対して褒めるが、この口ぶりで素直に嬉しく思える者はおるまい。
「なるほどなるほど、お前の言うルール無用ってのが身に沁みて理解できたぞ。卑怯は戦略と裏腹ってのも……お! 脚が動かない? ホネホネ王の時と同じ現象かっ……」
コウリンは右脚がガクンと落っこちるような感覚に見舞われ、部位欠損(右脚)の状態異常にかかってしまったと察知する。
しかもたったニ撃食らっただけでHPはあと20にまで減らされていたために、コウリンはがっくりと項垂れ両手は地面に付かせていた。
「おや? ついに逃げる脚も無いって把握したんたねお兄さん。このまま微動だにしないなら手間が省けて助かるよ。先輩方、たたみかけて下さい!」
「っしゃー! 野郎どもいっくぜぇーい!」
鶴の一声に応じ、先刻コウリンを逃げ場なく取り囲んでいだ五人は、息の合ったコンビネーションでトドメを刺しに跳びかかつた。
≪覚悟を乗り越えし者発動中≫
だが、コウリンが項垂れていたのは絶望に駆られたのではなく、体勢を低くして走り出る準備であったのだ。
「……秘技・ハムスター走り」
刹那、跳躍していた槍使いの足元を見ていたコウリンは、手足を駆使して槍使いの真下から潜り抜け、大幅に上昇したAGIを利用して逃走する。
自宅で平穏を貪っているペットから着想を得て、即興で編み出した四足歩行術であった。
「あっ待て! 何カッコつけてたんですか先輩! 即刻追いかけましょう!」
「うっせえ! 言われなくても走ってる!」
相手の対応力も負けじと早かったが、いくら人の尊厳が無い脱兎の如き走り方だとはいえAGIが300を越すプレイヤーには追いつくこと叶わず、距離は引き剥がされてゆく。
それでもここは大勢のプレイヤーが点在する戦場。
人口密度からいつまでも逃げ回れるほど広くはなく、森林地帯の出口でうろついているプレイヤーの姿を見かけたコウリンは逃げる手と足を止め、イベントポーションを使用しぐるりと追っ手の方角へ向く。
そして大きく息を吸い込み、肺の底の底から声を振り絞った。
「お前ら! 今度こそ俺と六対一で勝負しろ! 偉そうに夜ふかししてるお子様は全員まとめてボッコボコにしてやるからな!!」
コウリンの張り裂けそうな怒号は森一面に広がるほど、ただしプレイヤー達に位置を教えているのと同義でもあった。
「ナメやがって! ゲームに大人子供関係ねぇんだよ!」
その声に乗った五人が追いつき我先へと武器を振りかぶるが、コウリンは相手を注視するのみ。
所謂ただの回避する構えであったが、その心中は形勢を逆転する狙いがある。
期待通り、コウリンが見かけていたプレイヤーはこちらへ訪れた。
「呼ばれて飛び出てねいろんちゃん! 絶許アタックいっくよ〜!!」
「あ、あっちいいいいいいいい!!」
「六対一って言ったろ卑怯者おおおおお!!」
颯爽と参上したネイロがばら撒いた炎球の弾幕により、五人は成す術もなくバタバタと倒れ伏せて消滅する。
「まだ六対二でそっちが卑怯……卑怯は合法だったな」
はぐれていたネイロはコウリンの怒号から場所を認知し、五人の子供をポイントに見立てて駆けつけていたのだ。
「コウリンってば〜。このねいろんちゃんのためにキルポイントを残していただなんて感激だよ〜」
「言っとくが、ポイント譲るつもりも助けを呼んだつもりもないぞ。いや待て、あと一人ナイフ投げてくる子供がいる」
すぐにコウリンは、近くで立ちすくんでいる少年に警戒する。
少年は短剣を握る手よりも先に口を動かした。
「み、見逃して下さいお願いします! ボクはただの子供なんですよ〜! あなた方も大の大人ならどうかご慈悲を〜うあっつい!!」
「ねいろんちゃんは現役女子高校生だよ」
ネイロが慈悲無く放った一点集中の火球により、立場を利用し尽くした少年の身体は焦げてキルポイントになる。
「解決したな。お前が何とかしなけりゃ、勝負に勝ってたが人間性で完敗していたよ」
コウリンは安堵し、倫理観が問われる一戦は一旦幕を閉じた。
◆◇◆
『残り時間あと一○分です。現在の上位三名のポイントが発表されます』
アナウンスが入り、プレイヤーそれぞれに前述した通りの掲載された情報が、視界の隅に表示される。
暫定一位のプレイヤーは『グリードリヒ』8064キルポイント、二位は『デストロイヤル』5056キルポイント、そして三位に『ネイロ』3522キルポイントである。
「やるなネイロ。お前が三位に居座るって、努力した甲斐があったじゃねえか」
コウリンは山脈地帯に続く整地された道を歩きつつ、隣にいる戦友の順位に感嘆を送る。
ちなみにコウリンのポイントは一歩も変わらず、プレイヤーと遭遇しても出会い頭にネイロが焼き捨てるせいである。
「いやよくないでしょコウリン! このポイント差じゃ一位か二位の人倒さないと頂点にいけないよこれ! もう無理ゲーじゃん!」
ただ、ネイロは一位でなければ満足いかず、不服の意を主張している。
「チクチクすんなって、もちろんお前の夢は忘れてないぞ。あと五分の間に一位か二位の奴を捜してぶっ倒せば万事解決って話だろ」
「そうなんだけどさ……上位二人は私よりレベル高い廃ゲーマーなんだよね。コウリンと二人がかりでも五分五分だと思うんだ」
「そうなのか、お前にとっちゃ厳しい条件なんだな」
「リリーちゃんが生きてていればもっと強気でいけたんだけどね」
ネイロは突きつけられつつある現実に、表情から諦めの色が見えていた。
ここまで手当たり次第に渡り歩いていたが、彼ら二人の姿はおろか他のプレイヤー自体見かけなかったからだ。
『残り時間あと五分です』
無情にもアナウンスが終戦までの時間を告げる。
もうプレイヤーは自分と相方しかいないのかと思わざるを得ない程、フィールドは静まり返っていた。
「じゃあさ、どうせ最後なんだしこれからバトってみない? コウリンだって上位に名前刻みたい気持ちがあるでしょ?」
ほぼ確定された順位を悟ったネイロが提案する。
「いやいやいやいや、俺のレベルじゃ天地がひっくり返っても勝てないからいやだぞ」
「むー、いいじゃんデスペナ無いんだしさ。魔法ハンデつけてあげるからやろうよ〜」
首を横に振り続けるコウリンだが、イベントを捨てつつあるネイロは一向に食い下がらない。
「お前のゴネに付き合うのも面倒だな。はいはいわかった、戦ってあげますよ。絶対俺が負けるけど」
時間も時間なので、観念して提案に承諾する。
最後の相手がネイロだと考えるだけで勝利するイメージが沸かなかったが、コウリンの目指すは上位ではないのでもうどうでも良かったのだろう。
ヒュ、ドサッ。
「なんだ今の音?」
何かが落ちた音に振り向くと、どうしてかネイロが頭から血を流しうつ伏せで倒れている。
HPゲージも残っていなかった。
「うん? ネイロが知らぬ間に死んでるんだか……これが死因か」
光の粒となりつつある彼女の頭には一本の矢が。
たった数秒の間に何者かから射抜かれ、断末魔の一声もあげずに敗退してしまっていたのだ。
そして順位は変動。三位は『ザシュトロ』4568ポイントに更新されたため、必然的に狙撃主の名前は判明された。
「ふーん。このタイミングで俺をゾクゾクさせてくれるじゃねえか。ネイロを狙撃した奴がいるとしたらあの廃屋かな」
ネイロへの仁義や復讐等は微塵も目的にない。
だが高揚感が引き出されたコウリンは向かうべき場所を目の前にある古ぼけた屋敷に定め、雌雄を決するためイベント最後の一戦に臨むのであった。
コウリンの戦いはまだまだ終わらない。
ねいろんも人の子
無名のプレイヤーに倒されることもあるじゃろうて




