拳闘士とイベント戦その1
「この世界、刈ることしか頭にないだけで罪なのね。ゴメンナサイ……」
膝丈まで触れる茂みや黒雲立つ空模様さえ意に介さず、二人だけを見据えつつ消滅してしまったリリー。
倒されてしまった彼女は、これから観客席へと送還される処置となるのだ。
「おいネイロ! いきなり脱落してるぞ」
「予想外! リリーちゃんが開幕で死ぬほど鬼畜なイベントだってことがさ!」
PVPイベントは開幕に命運がかかっているとは周知されていたが、ネイロ最大の誤算こそプレイヤー達に広まっていた開幕突破法である。
「遠距離攻撃手段があれば開幕と同時にどこでも良いのでぶっ放す」そんな出どころ不明でネイロは聞き流した噂であったが、真に受けた者があまりにも多いせいか、あちこちで終末を告げるようなとてつもない衝撃音が響きわたっていたのだ。
一言で語れば、嘘が真となっていた。
「ヘイワンキル! 幸先良いぜい!」
5メートル離れたリリーを葬ったであろう、保安官の風貌に二丁拳銃を構えた男もその一人である。
「よく聞いてコウリン! 草原は場所的に最悪、リリーちゃんの仇討ちなんて考えちゃ一緒に死んじゃうからまずは高所に逃げるよ! ちょコウリン!?」
ネイロが退避する体制を調えている僅かの間で、コウリンは拳銃の男へと駆け出していた。
「つまり復讐目的じゃなければいいんだろ。あのオッサンをのしてやりゃ一度で4ポイントゲットできてお得だ」
「おおおおいコーリーン!? 逝っちゃダメー!!」
冷静なのか思考を捨てているのか、呼びかけに応じずただキルポイントを増やさんとネイロから離れつつあった。
「次の相手は丸腰、暗器も隠し持ってなさそうだ。ならアイツのどてっ腹に風穴開けるしかないぜ!」
その一方でまたしても狩れそうなプレイヤーがやってきたので上機嫌な拳銃の男は、装填を完了してコウリンへ銃口を捕捉し続けていた。
「二人目の相手はすばしっこい。でもオレの主軸のスキルは【ショートレンジ】近づけば近づくほど火力が増すとは誰も知らないはず。躱せなくなる距離までおびき寄せてからズドドドドンだ」
男が呟いている間に計画通り距離は数メートルまで近づく。プレイヤー自身の技術や度胸がいるが、1メートル以内に近づけば【ショートレンジ】による上昇率は三倍にも跳ね上がるのだ。
「良いぞ良いぞ、この距離こそベストだぜ、蜂の巣にしてやるッ! グベェ!?」
「連続トリプルパンチ。お!? 自分でもビビったが今の何発当たってたんだ!?」
ところが、男にとってコウリンは素手なため相対的に攻撃範囲も狭いとの見解を誤ってしまい、引き金を引く前にラッシュの餌食となってしまう。
命中した回数は12、それだけでも致命傷であるのに【二刀流?】スキルによって一発ずつの攻撃にもう一撃足されており、その矢継ぎ早な動きとダメージはまさに豪雨が如しである。
「折角一人ぶち抜いたのにぃ、オレもう脱落かいな……」
近接戦こそこの男の真に恐ろしい点であったが、コウリンの素手とは思えないダメージ量と装備で補強された射程距離に完敗した。
素手故に攻撃力が少なければ回数でカバーする。数々の補正が合わさったコウリンにはそれが可能であった。
「何がともあれ4ポイントだな。ネイロはポカンって立ち止まってるようだし、やられる前にこっちから殴り込みに行こう」
周囲が紛争地帯をイメージされる戦火の激しさであったため、コウリンはリリーの二の舞とならないよう近場のプレイヤーへと走り抜けていった。
「コウリンってばヒヤヒヤさせすぎだよ〜! 銃に正面からいけるなんて一周回って勇者じゃん……ひいっ!?」
突如ネイロは背中から斬られ、赤い粒のエフェクトが飛び散る。
「ほほう、やーるもんやのう。ワイの太刀を受けて倒れなかった魔道士は初めてや」
「このねい……私のレベルをなめないでね! 孤立しちゃったけど通せんぼするなら相手になってあげる!」
要注意人物と認定されたネイロの名を明かす寸前で口を留まらせ、腹をくくって目の前にいる敵の対処に専念すると判断した。
▲▼▲
ネイロとはぐれ単独となった危険な状況でも、拳闘士は本能のまま暴走してなお勝ち進んでいた。
「バカめ、この武器破壊スキルでへなちょこにしてやる……君どうして武器持ってないのおおおおおおぼへぇ……」
プレイヤー相手なら無敵と思い上がった輩を適度にいなしつつ倒す。
「根性スキルとオレのLUKが掛け合わさればぁ、どんな強力なスキルが来ようとも高確率でHPが1残……あがあがあがあがこれ以上パンチしないでええええ!!」
しぶとい相手には倒れるまで延々と連打を放ち、サンドバッグにする。
「さてさてキルポイントの量は上々、嫌な予感がするけどピッタリの洞穴があるし、ここで身を隠しぐべええええええ!!」
プレイヤーが必ず隠れに来るであろう場所に先回りし、油断している瞬間に痛打を放つ。
「ドッテンバッテン大騒ぎゃああああああああ!!!!」
退場出来ないと今更気づき勝負を捨てている愚か者との戦闘は語るまでもなし。
「結構な奴を倒したがポイントあんま増えてないな。戦いは始まったばかりだしポイント少ないのは自然だけどよ」
鬱蒼とした森林地帯の中、現在のキルポイントである150の数値を見つつ口ずさむ。
おおよそのプレイヤー人口と比較しての感想であったが、この数字は現時点でならむしろ高い方である。
ポイントの高さはイベント終了までに生き残ってこそ価値があるのだが。
「思えば俺ってネイロなんぞと比べりゃガキ同然なのによく勝ってるな。改めて考えると衝撃だわ」
コウリンが物憂けに呟くが、ここまでプレイヤーを殴り倒してきたのは運だけではない。
全参加者の中では平均以上である12のレベルに、相手の防御力が極端に高くなければ瀕死までのダメージが与えられる攻撃力、そして昨日滑り込みで手に入れたばかりの【二刀流?】の効果により、相手へ予想だにしない連撃を放てたのが起因している。
「もし、そこのお兄さんいいですか。ボクに戦意はありません……ので話を聞いてくれませんか?」
その時、変声期の訪れていない中学生以下であろうプレイヤーが気弱な雰囲気を醸し出しながら話しかける。
「話なら一戦してからにしてくれ。その後でたっぷり聞いてやるからよ。さ、お前から先攻でいいぞ」
ところがコウリンは一蹴し、掌を突き出してクイックイッと挑発する。こんな明らさまな罠で誘う程度なら出直してこいと言わんばかりに。
「や、やめてください……ボクはただあなたを見込んで話があるだけなのに……」
「じゃあそこまでしてとぼけるなら俺が言ってやる。そこの草むらに二人か三人いるってな」
自信満々に指摘する。いくら知識不足なコウリンと言えども、子供との知恵比べには負けるはずが無かった。
するとプレイヤーの少年は黙りこくって俯き、暫くして顔を戻した途端、隠し通していた馬脚を露わにする。
「バレてたか、まあいいや。こいつを袋にしちゃって下さい! 先輩方!」
コウリンへ指を刺し、蒼天を突く号令を発する。
すると背後から影に覆われたシルエットが飛び出し、それぞれ剣や槍や斧、等の得物を構えて襲いかかってきた。
「待ってましたってヤツだ! 殺れ殺れ殺れい!」
「やっとウチらの出番だ! 野郎ども、ポイントは早いもん勝ちだからな!」
「おいゴミクズ! 数の暴力に勝てるかよ!」
「アチョー!」
「ざんねんだなあんた。こいつと出会わなければオレ達にイジめられずに済んだのにな」
躍起になって迫りくる者は五人、銀に輝く高価そうな防具で武装していると見事な手の抜かり無きようだ。
それを見てコウリンは秒もかからず思考が一つにまとまった。
「いや多っ! 涼しい顔して卑怯だろこいつ!」
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