毒竜戦。
僕は山道を進む。
山道は無駄に蛇行している。
道のない獣道を進むのも手だが、万一ルートを外れるとかえって時間がかかるかもしれない。
僕は焦らないように、だが出来る限り早く山道を進む。
木々の色が段々とおかしな事になってきて、至る所に奇妙な形のキノコが生えはじめた。
多分、毒の影響だろう。
という事は毒竜の住処が近いのだ。
僕はいつでも剣を抜けるように意識を集中しながら先に進む。
居た。
紫色の巨体。昨日の小屋より少し小さいくらいの大きさだと思う。
大人の男の人が詰めれば6人は乗れるくらいの広い背中。
高い木の上の実も食べられる長い首。
首と同じ長さの尻尾。
羽根は恐らく広げると頭の先から尻尾の先くらいまでの長さになる。
この戦いは途方も無い気がしてきた。
しかし、三の村で帰りを待っているジチさんや今まさに命の危機にいるフィルさんの事を考えて勇気を振り絞る。
そして僕は剣を手に取る。
先手必勝だ。
「【アーティファクト】!」
高速で毒竜に斬りかかる。
硬い肉の感触が僕の手に伝わってくる。
弾かれる事はなかった。
ガミガミ爺さんの話が本当ならば素材の追加による効果は出ているのだろう。
切り口から血が出た。
僕は勝手に毒竜の血は紫色かと思っていたが血は赤かった。
火の指輪を見ると反応している感じはしない。
僕自身も変な感じはしない。
恐らく毒竜の血には毒が無いのだろう。
ギャオオオォォォォン!!
痛みからか?怒りからか?
毒竜が咆哮をあげる。
物凄くうるさい。
僕は嫌な予感を感じて後ろに退がる。
その次の瞬間、左側から毒竜の尻尾が襲いかかってきた。
危ない所だった。
恐らく咆哮で耳を塞いでいたら尻尾で打ちのめされていたのだろう。
僕は剣に力を入れて再度振りかぶる。
ガキッ
…剣が弾かれた…
剣の心得のない僕の剣だとアーティファクトの一撃以外は届かないのか?
毒竜が左腕を振り上げて右斜め前から爪で攻撃をしてくる。
僕はそれをかわしながら考える。
火球を纏わせた剣ならどうだろうか?
「【アーティファクト】!」
火の剣は多少の効果はあったが最初のように深く斬るのではなく弾かれずに肉に刃が当たると言うものであった。
火球の再発動までおよそ20秒。
剣撃の方は試していないので試すとして…
何回斬れば終わるのだろう?
果てしない…
「【アーティファクト】!」
僕は剣撃を放つ。
こればかりは毒竜でも防ぎようがないので、前足に深い切り傷が出来る。
数を数えないと…
123456…
剣に意識を向けるが使える気配はまだない。
…151617…
ブォン!
左側から風鳴りが聞こえる。
次の瞬間、僕の身体に激痛が走り空がグルグルと回る。
僕は尻尾で吹き飛ばされたようだ。
ガッ
鈍い音を立てて僕の身体は地面に横たわる。
痛い…何処がとかそう言う次元ではない。
とにかく痛い。
ジーンとした痺れと痛みが同時に僕を襲う。
早く体制を立て直さないと…
手に足に力を入れなければ…
そうしていると辺りが紫色に変わる。
毒だ!
尻尾で吹き飛ばして弱った所に毒でとどめを刺す。これが毒竜の戦い方か…
そう思っていると「火の指輪」が光りだす。
これがガミガミ爺さんの言う毒耐性の効果か…光ってくれるのはわかりやすくてありがたい。
しかし毒に耐性がついてもこの怪我ではもう戦えない。
「トキタマ!」
「はいー」
僕は一度撤退をする。
持って跳ぶのはリーンの記憶、毒竜が剣への恐怖心を持てるならと毒竜の心にした。
59回目の時間。
まずは攻撃が通るかからだ。
次に次弾までは回避に専念するか、剣の斬れ味的には問題が無いと言う事なのだから斬り続けるかだ。
僕はガミガミ爺さんを信じて斬り続ける方を選ぶ。
まずは一撃目。
剣に火を纏わせて更にアーティファクトの攻撃をする事にした。
「【アーティファクト】!」
毒竜の後ろ足にかなり深い一撃が入る。
ガアァアアッ!!
毒竜は振り向きざまに噛み付いてくる。
僕はその攻撃をかわす。
基本的に毒竜の攻撃は集中さえしていればかわせない速度ではない。
巨体がゆえの弊害だろう。
こちらは決定打がないのが問題だが…
毒竜と目が合った。
怒気を含んだ眼差し…
目を逸らしたら襲い掛かられる気がする。
僕は毒竜に向かって行く。
毒竜の顔を見ると、鼻と頭に角が生えている。
目的の角はどちらだろうか?
どれも正解なら3つとも拝借しよう。
僕は斬るではなく突く事にしてみた。
ドッ
鈍い感触が手に伝わる。
刺さる。
刺さった深さは人差し指くらいの長さだが、刺さった。
やはり剣の斬れ味は増していて、斬るために足りないのは僕の技術なんだ…
この先はとにかく毒竜の尻尾や爪、噛みつきに毒霧をかわしては斬って突いてを繰り返して時間が過ぎるとアーティファクトの一撃を放つ事の繰り返しだった。
慣れてくると動きで大体の攻撃が予測できるようになった。
攻撃を食らいさえしなければ何とかなる。
長期戦でなんとか倒そう。
そう思っていたのだが、段々と毒竜の攻撃が速度を増してきた。
「火の指輪」の能力で牽制して距離を取ろうと思って指輪を見ると指輪が弱々しく光っている。
もしかして!!?
戦いに夢中で気づかなかったのだが、辺りには毒で出来た水たまりが何個もできていた。
紫色のものから中には黒くなっているものもできている。
毒竜が早くなったのではない。
僕が毒のせいで動きが悪くなっていたのだ。
毒竜がニタリと笑った気がした。
くそ、ここまでか?
毒竜がトドメと言わんばかりに毒霧を吐く動きを始める。
このまま跳ぶのは何か違う気がした。
せめて…せめて後一撃を食らわせたい。
あの鼻っ柱に火球をお見舞いしてやる。
そう思った僕は毒竜の顔面に火球を投げつける。
火球が当たる時に毒霧を放つ毒竜。
火球は後少しと言うところで届かなかった。
くそ、毒霧のせいで、火球が相殺された!
…相殺された?
そう、僕の投げた火球に対して、毒竜が毒の霧を放って相殺をした。
毒の霧を火球が相殺…
火球が毒の霧を相殺…
毒霧は発生後、広がる前のものなら火球で相殺できる!
ブォン!
左側から風鳴りが聞こえた。
マズい!
喜んだ事で気が散ってしまった僕はまた尻尾に飛ばされた。
ガッ
戦闘開始時に毒竜の後ろにあった山肌に思い切り身体を打ち付けた…
打ち付けた?
痛くない。
痛いには痛いのだが、1度目ほどの痛みがない。
目の前が暗い。目は開いているが目の前が暗い。
僕はどうなった?
遠くでトキタマの声がする。
よくわからないが、ここは一度跳ぶべきだろう。
60回目の時間。
「トキタマ、僕には何が起きた?」
「お父さんはさっき毒竜に吹き飛ばされました。飛んだ先の山は洞窟?穴?になっていてお父さんはその中に入ってしまいました」
「僕は穴の中に居たのか?」
「はい!穴に入っていて、お父さんの上には山の土が乗っかっていました」
それでトキタマの声が遠かったのか…
しかし山肌に洞窟?
ますますココが何なのかがわからなくなった。
とりあえず現状の整理だ。
毒霧は出してすぐの散る前なら火球で相殺できる。
僕の剣は今のところ10回に2回から3回は斬りつけられるようになった。
「お父さん、大分攻撃が届くようになりましたね。今は無理でももっと跳んで経験を積めば倒せるようになりますよ!!」
そう、トキタマの言う通り何回か跳べばそのうち全ての斬撃が毒竜に届くようになるだろう。
だが、この短期間に跳び続けてリーンは無事だろうか?
一の村で僕を待つリーンの事が気になる。僕はリーンのあの優しい笑顔を思い出して跳ぶ事を躊躇する。
なるべく跳ぶ回数を抑えて戦おう。
「トキタマ、僕は村で待ってくれているリーンの為にも跳ぶ回数は最小限にする」
「えー、そんなの難しいですよ。いいじゃないですか、今に限ってはあのお姉さんの記憶を連れて行くのは止めにしましょうよ」
「ダメだ」
「お父さんも、戦いの時は連れて跳ばないって言っていました。きっとお姉さんもわかってくれますよ」
「まだその時じゃない」
「そうですか…僕は残念です」




