混沌の槌。
「この一か月、フィルは村の為に毒霧を浄化し続けて、ついでだと言って俺の毒も取り除いてくれていたんだ」
ガミガミ爺さんが熱で苦しむフィルさんの額に濡れたタオルを置きながら話し始めた。
「最初は体力もあった、山を下りたり登ったりしていたこともあったから、そんなに消耗をしていなかったんだが、村に一番毒素の強い毒霧が届くことに気が付いてここに住み着いてからは流石のフィルも日に日に弱って行った。
元々は色白だがここまでは白くなかった。食も細くなんかなくて、いつも沢山食べていた子が今や1人分も食べられねぇ…」
「どうしてフィルさんは自身の毒を解毒しないんですか?」
「できねぇんだよ…」
ガミガミ爺さんが肩を落としながらそう言った。
「私のせいです」
ムラサキさんが現れてそう言った。
「S級のアーティファクトとなれば注意点も厳しいものになります。貴方で言えば不死の呪いのようなものです。私の注意点は「使用者には私の能力の効果が届かない」ことと「使用者の身体を通して空気を清浄にする」です」
何という事だ、ムラサキさんの吸い込んだ毒霧をフィルさんの身体で綺麗にして外に返すと言うのか…
「無論、私の恩恵として毒の効果が普通の人の2%くらいに抑えられるので、フィルはここまで無事でいられました」
「何度止めてもあの子はムラサキを使う事を辞めなかった。もうすぐ兵隊が来るって信じていたんだよ」
そうやって村の為に命をかけているフィルさんを僕は凄いと思った。
「以前、一度だけ俺とフィルで毒竜に挑んだ事がある。その時は手傷を負わす事が精一杯で結局逃げたんだ。
その時に俺は奴の毒を思い切り浴びちまってな…
フィルは俺を治す為に必要以上に力を使っちまってな…それが無かったらもう少し元気だったかもしれねえ」
ガミガミ爺さんは肩を落として意気消沈してしまっている。
「ドフ、あれは仕方なかった事です。今はキヨロスが居るのですから彼に任せましょう」
「小僧、お前に渡す物がある」
そう言って剣と指輪が出てきた。
「お前が寝て居る間に「火の指輪」も拝借した。
こっちは俺の「混沌の槌」で耐性を付けさせて貰った」
「混沌の槌」の能力は高速メンテナンスが可能になることと、アーティファクト限定だがアーティファクト毎に決められた回数だけ素材の追加が可能になると言うものだ。
C級は付けられる素材が限られていて追加回数も一度だけ。
B級は素材の限定はないが追加回数は一度だけ。
A級は素材の限定もないし追加回数は二度まで可能だと言う。
S級はそもそもメンテナンスの必要も無いし、素材の追加も不可能らしい。
「兵士の剣」と「火の指輪」はB級なので一度だけなのだが、「兵士の剣」は今のままだと毒竜に刃が通らないという事で、メンテナンスにプラスしてフィルさんとガミガミ爺さんが一度戦った時に入手した鱗を合わせて切れ味の向上を、「火の指輪」には毒への耐性を付けて、一度食らったら動けなくなるような毒に対しても3回までは耐えられるようになった。
「本当はこの鱗をもっと集めて毒無効の兜を作ってフィルに装備させてやりたかったんだ」
ガミガミ爺さんはそう言って、また肩を落とした。
「大丈夫。僕がガミガミ爺さんの作ってくれた、この装備で頑張りますから」
僕は笑顔でガミガミ爺さんを励ました。
「おうよ…。…誰がガミガミ爺さんだコラ!!」
しまった。
怒らせてしまった。
「い…いえいえ、ドフさん」
ガミガミ爺さん…もといドフさんは怒って調子が戻った気がする。
この人は怒らないと生きていけないのだろう。
「キヨロス、全てはあなたにかかっています」
ムラサキさんが僕に語りかける。
「はい。行ってきます」
僕は荷物をまとめて出掛ける用意をする。
「こんな時に申し訳ないのだけど…」
ムラサキさんが話し始めた。
「日没までに毒竜を倒してください。
今、フィルの命は尽きかけています。
後一度私を使ってしまうとあの子は…」
「なんだとムラサキ!!?」
ガミガミ爺さんがムラサキさんを持って詰め寄る。
「多分、フィルは、あの子もその事を分かっています。それでも私を使って村を守る事をやめない。
これが最後のチャンスなのですよドフ。
キヨロスよ頼みます。
日没までに毒竜を倒し、毒竜の角を持ってきてください」
「わかりました!」
僕は外に出る。
「毒竜はここと山頂の間、途中の開けた場所に住み着いて居る。ここ最近の奴の毒は1日に2回。夜明けと日没に決まって吹く。何とかよろしく頼む」
「はい」




