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独裁生徒会長サクラン  作者: 沙φ亜竜
第七話 神龍学園死神物語
27/48

-3-

 それから僕の周りで、なにやら不可解な現象が起こり始めた。


 ふと耳もとでなにやら声が聞こえた気がしたのに、周囲を見回しても誰もいなかったりとか。

 ふと目の前を、黒い影のようなものが通り抜けていったりとか。

 ふと鼻先を、なにかが焼かれるような焦げ臭いにおいがかすめていったりとか。

 ふと首すじになにか冷たいものが触れたような感じを受けたのに、振り返ってもやっぱりなにもなかったりとか。


「こんなことが、頻繁に起こるようになってるんですよ」


 いつもどおりの生徒会室で、僕は会長とちまきに、そう打ち明けた。


「なるほど。だから除夜は、たまにきょろきょろと周りを見回したりしていたわけか」

「除夜ちゃんの場合、挙動不審なのは普段からだけどね!」


 ……どういうわけか、両手で丸を作り頭のてっぺんに指先を当てる、いわゆるお猿のポーズをしているちまきにこそ、挙動不審と言ってやりたい。


「このポーズは、おまじないなのよ!」

「おまじないって、なんの?」

「……それは……秘密よ!」


 ちまきは赤くなりながら、お猿のポーズのまま体を左右に揺らす。

 おまじないにしたって、ものすごく変だ。


 と、そんなことよりも、僕の周りで起こっている現象について考えないと。

 相談する相手として、このふたりしか選択肢がない僕の現状というのは、どうにかすべきなのかもしれないけど。

 そんなことを思ったりしつつも、僕は「どう思います?」と尋ねてみた。


「菱餅が暗躍しているというわけではないのか?」

「そういうわけではないと思いますけど……」


 先日、菱餅先輩が思いっきり口にしていた、スパイという言葉……。

 こそこそと僕や会長の様子を探っているというのは、充分に考えられることだ。

 ただ、今回の件はおそらく、菱餅先輩の仕業ではないだろう。


「あの先輩だったら、絶対なにかしら失敗して、尻尾をつかむことができそうだと思いますし」

「ふむ。鋭い考察だな。私もそう思うぞ」


 こんな言われ方をする菱餅先輩って……。


「うん、そうね。菱餅先輩ではないわ」

「……どうして、ちまきが断言できるの?」

「ふえっ!? あ~、え~っと、勘よ勘!」

「????」


 ちまきの様子が、なんだかおかしいような気もするけど……。

 それよりもっと気になる現象が、僕の背中辺りで起こり始める。


 うぞうぞうぞ……。

 なにかが背中を這うような、気持ちの悪い感触――。


「うわっ!?」


 僕は驚いて振り返ってみるけど、背後には誰もいない。


「どうしたのだ?」「どうしたの? 除夜ちゃん」


 心配顔のふたり。


「今、感じたんです」


 僕は冷や汗を垂らし、視線を周囲に配りながら、小さくつぶやいた。


「こんなところで……なんとハレンチな!」

「いや、そういうことじゃなくて!」

「え? なになに? そういうことって、どういうことぉ~?」


 ニヤニヤ笑いながら言葉攻めしてくるちまき。見れば、会長もニヤニヤ顔。

 ふたりとも、わかった上でやってるな……。


「今回は、背中を毛虫かなにかが這うような感触でした」

「うひゃうっ!」


 僕がそう言うと、ちまきが必要以上に反応する。


「ちょっと、やめてよ! あたし、虫とか苦手なんだから! ああああ、聞いたらなんだか、背中がかゆくなってきたかも! 気持ち悪~い!」

「それは気のせいだと思うよ」


 ちまきの虫嫌いは昔からだ。

 とはいえ、僕は今の今まで、すっかり忘れていた。

 だから決して、仕返しのために意地悪であんなことを言ったというわけではない。


「だが、まだ気持ち悪いようなら、私が背中をかいてやろう。……肉ごと削ぎ落とすかもしれないがな」

「毛虫がくっついてるくらいだったら、そのほうがいいかも……!」

「いやいやいや、冷静になろうよ、ちまき!」


 話はすぐに脱線する。

 このメンバーでは、ある意味それは必然であり自然の摂理であり抗うことのできない真理でもあると言えるのかもしれないけど。

 僕は果敢にも、軌道修正を試みる。


「毛虫の話は置いといて、ふたりとも、どう思う?」

「そうだな……。極彩色の毛虫だったりすると、毒を持っていたりするかもしれないから危険だな」

「うわぁ~~~ん! 毛虫イヤ~~~~!」


 ……結果、まったく軌道修正できなかった。



 ☆☆☆☆☆



 会長が毛虫の話でちまきをからかうのに飽き、ちまき自身も落ち着くまで待ってから、話の軌道はようやく戻された。


「学校といえば、幽霊話とかがつきものよね! これは幽霊の仕業に違いないわ!」


 毛虫の件で泣き叫んでいたことなど、すっぱりと忘れ去ったかのような満面の笑みで、大声を張り上げるちまき。

 そんなに幽霊に出てきてほしいのだろうか。

 それに、学校といえば学校霊などというベタな発想でいいのだろうか、という思いもあったのだけど。


「妖怪っていう可能性もあるよ?」

「いや、死神だろう」


 続けて放たれた僕と会長の意見も、ちまきと大差ない、微妙なものだったりして……。

 そんな意見の中で考えてみれば、会長が以前から話していた死神だというのが、一番しっくりくる説明のようにも思えた。


「だけど、どうして僕が狙われるんでしょう? 会長の敵ってわけじゃないのに……」

「むしろ味方よね? 補佐としていろいろと手伝ってるんだから」


 う~ん。

 柄にもなく熟考に入る面々。知恵熱が出そうだ。


「考えていても埒が明かないな。ここはひとつ、こんな作戦を立ててみるか」


 ごにょごにょごにょ。

 会議テーブルに前のめりになり、顔を寄せ合って会長の作戦とやらを聞く。

 というわけで、僕たちは密かにその作戦を決行することになった。


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